「金盞花」
まず初めに言っておきたい。
私と朝凪は初対面だ。しかも私の朝凪に対する第一印象は最悪だ。
30℃の満員電車で激しい腹痛を起こして尚且つ15分は次の駅に着かないくらい最悪だ。
...体験はしたことないけど。
とにかくお前は私にもっと礼儀正しくするべきだぞ?ん?
「何見てんだよチビ」
こいついっぺん殴っていいかな。
自分が背高いからって良い気になんなよ根暗。私だって150はあんだからな。
....自慢できることじゃねえな。
「まひるー?何怖い顔してるの?」
るみが私のことを覗きながら言ってくる。そんな顔していただろうかと思い眉間のしわを伸ばした。
気が付けば一階から2回の調理室の前にまで来ていた。
「この学校って広いんだねー」
伊勢崎は私と朝凪の格闘なんぞ素知らぬ風に興味津々で学校中を見回っていた。
るみはそれを聞き逃さない。
待ってましたと言わんばかりに伊勢崎の方へ行ってしまった。
あそこまで積極的に行けるるみの性格は少し尊敬するところがある。
「この学校が建てられたのは1900年、もう100年も前なんだよ!最初は小さな校舎だったんだけど、次第に生徒が増えるにつれて大きくしていったんだって。戦争のせいで生徒がいなかったからそれ以上は大きくならなかったんだけど、また生徒数が増え初めて増築していったら今の大きさになったんだって!」
なぜそんなことを知っているのかは知らないがるみはマシンガンのように言葉を飛ばしていく。聴こえやすい声とたまに少し開く間が、るみの話術の高さを物語っている。
実際に伊勢崎は聴くのに夢中だ。
この学校、湊ヶ丘高校は中高一貫の市立高校である。
湊ヶ丘市にはこの学校一つしか中学高校がないのでその分人も多い。
そして山に囲まれたど田舎ということもあり、何も起きずにただただ平和な学校である。
「教室が異常に多いな」
今まで自分からは一言も発しなかった朝凪が喋った。驚いた。
「まぁ、子供が多いからね。珍しく」
伊勢崎に夢中なるみの代わりに私が答える。
朝凪は「へぇ」と一言言ったっきりまた黙ってしまった。
その日の校舎見学はここで終わり。
まだ旧校舎と中学校舎があるがそこの案内はいらないだろう。
教室に戻るともう誰も残っていなかった。6時になるから仕方がない。
私達は早々に帰り支度を始める。
それが済むと、教室の鍵を閉めて、仄かなオレンジに染まった廊下を歩いていく。前にはるみと伊勢崎、後ろは私と朝凪、またこの順番だ。
朝凪は外をぼーっと眺めながら歩いている。伊勢崎とるみは相変わらず喋っている。それをぼーっと眺めながら私も歩いている。
「走るかぁ」
朝凪が唐突に言った言葉に一瞬遅れて驚いた。どうゆうことだ。
「いいね、それ」
伊勢崎が物凄く乗り気な声で言う。
るみは少し驚いたようだがもとよりそういったことは好きな性分だ、直ぐに軽く体を伸ばしていた。
「いや、ちょっとま....」
言葉終わらぬうちに伊勢崎とるみが走り出した。
なんだこの状況。果てしなくわからない。
「おい。」
朝凪が軽く頭を小突いてきた。
その顔には微かに笑みが見える。
なんの悪意のない普通の笑みだ。
「何ぼーっとしてんだよ。置いてかれんぞ」
そう小馬鹿にしたように言うと、朝凪は走り出す。微かに柚子の香りがふわりと鼻をくすぐる。
「おい!置いてくぞ!」
朝凪が振り返って叫ぶ。るみと伊勢崎もこっちを振り返って手を振っている。
我に帰った私は直ぐに走りだした。
走り出しは軽快。まるで何かに押されたように足が進む。朝凪達も走り出す。
何故かはわからない。けど、上履きが廊下に当たり、そして擦れ跳ねる音が、妙に心地良かった。
最終話です。
甘々って程でもないですけど、恋っていいですね。
続きはたぶん書きません。皆様の巧みな想像力で続きを考えてみてください(フフフ
では、see you next book !