6話 妹、西の方と接触する
あの夢を見た朝は、少し切ない気持ちになりました。
今頃、ヴィクトリア姫様はどうしているか気になりました。
それから、一週間が経ちました。
いつもと変わらず、朝の身支度と食事を部屋で済ますとメグさんに今日の予定とリヒャルト兄さんのことを聞きました。
「本日はサリバン先生の授業になります。そうですね、リヒャルト様は本日、桜空城へお戻りになられます。シャーリー様、ブライトン様もご一緒ですよ。」
リヒャルト兄さんは私の父方の従兄であり、エストランダ国の第二王子という立場をもつ人です。
今は、恋人のシャーリーさんと従者のブライトンさんも連れて、京魔国の各町を巡り、貿易の商談に出かけていたのです。
「リヒャルト兄さん達は何時頃、戻るのでしょうか?」
「夕方には戻られるとは存じますが……」
私は嬉しくなり、頬が緩みました。
午前中の授業の時間になりました。
「それでは、本日は京魔国の文字の試験をしたいと思います。紙を渡します。時間は一時間です」
サリバン先生はそう言うと、私に試験用紙を渡して、「よーい、始め」と言いました。
問題は京魔国の文字の全てを書きなさいから問題は始まり、絵に描かれている物を書きなさい、短い文章の問題などが出題されました。
「時間です。手を止めて下さい」
私は試験用紙をサリバン先生に渡しました。
「これから、採点をしますので、エリカ姫様はそのまま午後までご自由に過ごして下さい」
「はい、わかりました」
私はそう言うと、席を立ち学習部屋を出ました。
それから、私は、お城の庭に出て、気分転換しようと思いました。
庭へと続く廊下を歩いている所にちょうど、ユリアーネさんと会いました。
さらさらと輝く月のような長い髪を今日は高く結いあげています。
頭には10センチ位の立派な2つの角が生えて、背中には真っ白な立派な蝙蝠のような翼があります。
瞳は夜が明ける瞬間の紫黄の色を持って、思わず見とれてしまいます。
とてもきれいな人です。
服装は青の打掛を羽織、白の袴を穿いています。まるで青い花をイメージします。
「ごきげんよう、エリカ姫様」
「こんにちは、ユリアーネさん」
「エリカ姫様とここで会うのは珍しいですね」
「今日は試験があって、お昼まで休憩なんです」
「そうなんですか、これからどちらへ行かれるんですか?」
「えっと、庭の方を散歩しようかと思って、そうだ、ユリアーネさん一緒にお散歩、行きませんか?もし、時間があったらで良いんですけど……」
ユリアーネさんは微笑んで「大丈夫です。一緒にお散歩行きましょうか」と私に言いました。
庭は桜の花が咲き乱れ、他には紅葉や楓、銀杏がきれいに色づいていました。
京魔国の桜空では年中桜の花が咲いているのです。
「きれい……」
「そうですね」
二人で散歩をしながら、景色を楽しみました。
途中、東屋に寄って、お話をしました。
「あの、兄さんは王様としてどうですか」
「そうですね、よく仕事をして、頑張っていらっしゃると思います」
「ユリアーネさんは兄さんが王様になる前から補佐の仕事をしているんですか?」
「はい、そうです。先代の王様から仕えさせていただいてます」
「そうなんですか。ちなみに先代の王様って、誰なんですか?」
「え、お聞きになっていらっしゃいませんでしたか?エリカ姫様のおじい様ですよ」
「えー!」
初耳です。私におじいちゃんがいたなんて初耳です。
「おじいちゃんは今、何処にいるんですか」
「先王様は先王妃様と一緒に世界一周旅行に出かけていて後、一年は帰って来ないと思います」
「どうして、お父さんと兄さん、話してくれなかったんだろう」
「たぶん、そのうち、お話しする予定だったと思います…………たぶん姫様を抱きしめ殺しする勢いで可愛がるでしょうから」
「おじいちゃんとおばあちゃんってどんな人ですか?」
「先王様はとにかくダイナミックな方です。先王妃様は穏やかでお美しく優しい方です」
「そうなんだ」
「あの、失礼かもしれませんが、ユリアーネさんはおいくつなんですか」
「そうですね、いくつに見えますか」
「22歳位ですか」
「違います。実はもっと長生きなんですよ、私。竜族は長命種で平均寿命が200歳を超えるのです。それで、年を取るのも穏やかで私もこう見えて60歳なんですよ」
私は衝撃を受けました。目の前にいる人が還暦を迎えているなんて、簡単には信じがたいです。
「そうなんですか」
それから、私とユリアーネさんはしばらく話をして、銀杏がきれいな所に来ました。
銀杏の木の下にはギンナンが落ちていました。
私はギンナンを拾いました。
ユリアーネさんも一緒にギンナンを拾って、拾ったその実はハンカチに包みました。
「今日の夕飯にギンナンの使った料理を作って欲しいなあと思います」
「そうですね、そのままでは臭いですが、お料理にしてもらうと美味しいですからね」
「今日は一緒に夕飯を食べませんか、ユリアーネさん」
「えっと、私もよろしいんでしょうか」
ユリアーネさんは頬をバラ色に染めて言いました。
「はい、今日はリヒャルト兄さん達の帰って来るので大勢で食べた方がおいしいと思います」
「そうですか、今晩はご一緒に夕食を頂きたいと思います…………陛下とご一緒、光栄ですわ」
ユリアーネさんは嬉しそうに言いました。
そして、私はお城の台所へ行って、拾ったギンナンを料理長さんに頼んで今日の夕飯で使って下さいとお願いしました。
午後からは、サリバン先生の授業です。
今回、初めての魔術の授業になります。
夕方にはリヒャルト兄さん達も帰って来ますし、夕飯にはギンナンを使った料理が出てきます。
今から、楽しみです。