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吸魔妖精物語  作者: 龍華ぷろじぇくと
一体目 吸魔ピクシニー
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対戦、学 VS ピクシニー

『はろ~、もうおいかけっこはおわり?』


 僕の目の前に降りてくるピクシニー。

 無邪気な笑顔で僕に手を振りながら目の前で空中に滞空する。


「あ、うあ……」


 思わぬ出現に驚いた僕は力が抜けたようにその場に尻餅をついてしまった。

 ついでに腰から下の感覚が一気に喪失する。


『ありゃ? もしかしてこしぬかしちゃった? ごめんねぇ、おどろかせるきはなかったんだけど……!』


 無邪気なままに言葉を続けようとしたピクシニー、突然空高く舞い上がった。

 一瞬遅れて僕の顔にかかる何かの水。


「冷た……」


「悪りぃ黙人。クッソ、不意をつけたと思ったのによ」


 服の袖で顔を拭いて前を見ると、学が僕の真上を見上げて睨みつけていた。

 手には怪しげな瓶に入っていた水。確か聖水とか言っていた奴だ。

 掛かったのが唐辛子水じゃなくて良かった。


『はなしのとちゅうでわりこむなんてしつれいだよにんげん』


「そりゃあ悪かったな。そんでも敵に背を向けるお前が悪いんじゃないか? 悪魔だろ」


『いってくれるじゃない。てかげんしないんだからっ!』


「望むとこだ妖精もどき!」


 ピクシニーの両手が黄色に輝く。学に向けて両手を向けた。

 アレが来るッ!


「学!」


『ラ・グッ!』


「ぐおおッ!?」


 途端に悲鳴を上げて仰け反る学。

 たたらを踏んでよろけはしたものの、足で踏ん張りなんとか体勢を整える。


「こいつか、雷の魔法ってやつぁよ」


『まだまだぁ。いくよ? ラ・グ』


「学ッ!!」


 ピクシニーの呪文に慌てて叫ぶ。

 当の学はしたり顔でマントの翻し、懐から巨大化した針のようなものを取り出した。

 学の手先から肩くらいまである大きな針を地面に突き刺し自分は体制を低くしてその場を離れる。


 ピクシニーが両手を学に向けると、ビリリと針棒が細かく揺れた。

 それだけだった。

 学自身は攻撃を受けたようにすら見えず、へらへらと余裕の笑みを浮かべて立っていた。


「雷魔法破れたりってな! 避雷針立てときゃそっちに落ちるって思ったとおりだぜ」


『や、やるじゃん』


 初めてピクシニーから余裕の表情が消えた。


『でもでも、ぴくしにーにはもうひとつのとっておきがあるんだよ!』


「やれるもんならやってみな! 断言するぜ、お前の負けだ!」


『いったなにんげん! こうかいしろッ!』


 グッと両手を目の前で合わせるピクシニー。


『ル……ラル……ル……グラ……』


「呪文詠唱!? 低級のクセに厄介なもん身につけてやがるっ」


 慄くように一人ごちる学。

 なんのことだかさっぱりで僕には首を捻るくらいしかできなかった。

 次第にピクシニーの周囲で風が渦巻き始める。


 透明なはずの風が目に見えるほどに渦巻くそれは、魔術とかに縁のない僕でさえ異様な光景だとわかる。

 先程の雷とは比べ物にならないモノだってこともなんとなく理解できた。

 これ、まともに人間が喰らって大丈夫なものなのだろうか?


『シェ・ズ』


 両手を合わせたまま真上に掲げるピクシニー。

 力ある言葉と共に収束した風はピクシニーの手に集まり、ピクシニーは学に向けて一気に両手を振り下ろした。

 彼女を取り巻く風の奔流が一気に学に向かい迸る。


「マズ……」


 舌打ちしながらも懐から一枚の札のようなものを取りだす学。


「死んでも怨むなよッ!」


 学に向って集縮し始めた風は刃にも似た鋭さで札にぶち当たる。

 あまりの衝撃に学の腕が跳ね除けられ、学の体も後ろへと吹っ飛んだ。

 そして、札に当たった風の刃は、あろうことか術者であるピクシニーへと目標を変えて直進する。


『ふぇ?』


 予想もしなかったらしい風の行動にピクシニーはなすすべもなく……


『ひ、ぃあぁあぁあぁッ!!?』


 悲鳴と共にずたずたに切り裂かれた。

 風が過ぎ去った後、ピクリとも動かなくなったピクシニーは僕の真上から降ってきた。

 思わず両手で受け止めて、僕はその姿を見て思わず固唾を飲む。


 それはまるで、刃物で切られた女性のように無残で痛々しい。

 時折ビクリビクリと痙攣を起こしているのはまだ息のある証拠だ。

 そう思うと、なぜだろう? 僕は……僕……は……


「やってやったぜこんちくしょぉっ! どうよ黙人? この魔法返しの札。通販で高額はたいて買ったんだ。本物かどうか怪しかったけど買っといてよかったぜ」


 体に付いた埃や砂を払いながら学がやってくる。


「倒せたか?」


「え? あ、うん」


 つい、両手に乗っているピクシニーを学から見えないように隠す。


「って? あの妖精もどきはどこいった?」


「え? あ、さ、さぁ? でも、倒したから消えたんじゃないかな?」


「そか? んじゃあ帰るか。黙人、どうせだからどっか寄ってくか?」


「え? あ、いや、葉玖良がうるさいし帰るよ。うん」


 僕が隠した両手の中を見るように近付いてきた学から身をよじり両手を隠す。


「そか? ……なんかあんまり嬉しそうじゃないな」


「そ、そう? 嬉しいよ。これで追われなくなったんだし。あ、あはは……」


「……まぁいいか。そんじゃまた明日な、黙人。ああクッソ、まだ目がいてェ」


「う、うん。また」


 学と別れ、学の姿がなくなるまでその場で後ろ姿を見送る。

 抜けた腰がどうにもならないので、片手でピクシニーをしっかりと持ったまま匍匐前進で家に帰る僕。

 そのときは必死だったけど、家に辿り着いてから考えると間抜け以外のなんでもない行動だった。

 誰にも見られていないことを切に願う。

 登場人物


  新見黙人

    ネクラトロスケと呼ばれる引っ込み思案な少年。


  ピクシニー

    吸魔と名乗る妖精少女。電撃魔法を使い黙人に契約を迫る。

   習得魔法

    ラ・グ:電撃魔法の一つ。威力は一番低い。

    シェ・ズ:風の範囲魔法の一つ。威力は低いが広範囲に被害を及ぼす。


  常塚葉玖良

    黙人の隣人。姉と二人暮らし。

    何かの訳ありで姉妹共に髪の色がエメラルドグリーン。

    成績優秀三つ星料理と才色兼備だが毒舌。

    剣道部に所属する次期部長候補。ただし幽霊部員。


  常塚神楽

    黙人の隣人。妹と二人暮らし。

    何かの訳ありで姉妹共に髪の色がエメラルドグリーン。

    家事は得意だが料理は壊滅的。学食に勤め始めた時に作ったラーメンが校長の眼に止まり半永久的に学食で働くことに。


  素本学

    黙人の友人。

    小学校高学年の頃一週間行方不明になり、魔王崇拝者として覚醒した精神異常者。魔王のためなら命も惜しくない少年。


  鏑木沙耶

    黙人の憧れの人。

    隣のクラスの少女で彼氏あり。

    神楽ラーメン崇拝者の一人。

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