表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
吸魔妖精物語  作者: 龍華ぷろじぇくと
一体目 吸魔ピクシニー
8/45

対戦、葉玖良 VS 学

 再び、僕は校門前へとやってきた。どうやら赤井出先輩と沙耶は帰ったらしく、校門前には誰もいなかった。


「で、どうするの?」


「もう一度同じ召喚で目の前に呼び出すのさ。下手に探して時間食うよりその方が早い。できれば広々とした屋内がお勧めだけど、体育館はまだ部活動中だろうし、学園内には居残り組みもいるはずだ。そうなるとここでそれをやるのはまずい。かといって部屋の中に召喚するわけにも行かない。黙人はどっか都合の良さそうな場所知らね?」


「うーん、広いところ? 食堂とか?」


「なるほど、確かに机を脇のどけりゃ広いけどよ」


「お~ぅ、なにやってんだ変質者ども」


 二人して唸っていると、買い物から帰ってきたらしい葉玖良が近付いてきた。


「誰が変質者だ。誰が」


「お前に決まってんだろ魔王崇拝者」


「魔王様を崇拝して何が悪い? ドコが変質者に相当するというんだ」


 なんだか雲行きが怪しくなってきた様子。僕はついつい二人から距離を取る。


「どこもかしこも変質者じゃねぇか。そんな黒フード被りやがって、職質されるぞ」


「はんっ、これだから魔王様を否定する愚民は」


「喧嘩売ってるのかテメェはよぉ? 高く買うぞコラ。魔王魔王って気持ち悪りぃんだよテメェはよ!」


 ふぅ……っと溜息でも吐くように鼻で笑う学の態度に、もともと堪忍袋の緒が極細の葉玖良が切れた。

 売り言葉に買い言葉。魔王をけなされた以上、魔王崇拝者の学も黙っちゃいなかった。


「上等だよ常塚……黙人の幼なじみと思って今まで穏便に済ましてきたけどよォ。今回ばっかは容赦しねぇぞ? 魔王様万歳か魔王様大好きと思うようになるまで地獄を見せてやるぜ」


 ええと、この二人は何でいがみ合ってるんだっけ?

 そもそも僕はどうしてここに?

 既に現実逃避を始めていた僕の目の前で、葉玖良がファイティングポーズを取った。学も対応するように懐から怪しげな瓶を数本取りだす。


 って、待って。ちょっと待って二人とも! ここで何する気っ!?

 というか学の持ってる瓶の中身はナニ!? その赤い液体はなんなのっ!?

 学の動作でちゃぽんちゃぽんと揺れる瓶の中の液体。怪しさが限界値を突破している。もはや何が入っていても不思議はない。


「泣いて謝るなら今のうちだぜェキチガイ野郎」


 両手に買い物袋をぶら下げたままの葉玖良は、余裕の態度で笑みを見せた。


「そっちこそ、髪が長いから負けたとか言い訳すんじゃねぇぞ」


 って、本気でケンカする気!?

 そもそも髪が長いからとかより買い物袋のハンデの方が重くない!?

じゃなくて、早く止めないと。

 今この二人を止めないと主に学の持ってる怪しい液体で周りに被害が出そうな気がするっ。


「ふ、二人とも、穏便に……」


「黙人、邪魔するなっ!!」


「うっせぇぞネクラトロスケッ!!」


「はいっ」


 二人同時に飛ばしてきた怒声に怖気づき、ついつい引いてしまう僕。 

 結局僕じゃ二人を止めることなんてできないんだ。

 校舎前の地面にのの字を書きながら蹲る僕の前で、ついに二人が動いた。


「行くぞオルァッ!」


 葉玖良の先制攻撃。握られた拳が学の顔面を襲う。


「ははっ、愚民のやることはワンパターンかよ? いつもいつもそればっかだな」


 軽口と共にバックステップ。

 葉玖良の射程範囲から逃れて手にした瓶の蓋を取る。


「喰らえ赤唐辛子エキス!!」


 それはヤバイッ!!? いくらなんでもそんな物人に向って……


「甘ェッ!」


 葉玖良の腕が素早く動き、右腕の買い物袋から大根を抜き取った。

 大根の一閃。赤い液体は見事に大根に弾かれ葉玖良には届かなかった。だけど、


「ぬごおおおおおおおおおおおおぉぉぉぉッ!!?」


 大根によって防がれた唐辛子エキス君はビチャリと跳ね返されて学の顔に。

 思わぬ反撃を受けた学はもんどりうって転げまわる。


「はっ、阿呆め、自爆しやがった」


 勝者常塚葉玖良。YOU WIN!


「で、結局お前らは何してんだネクラトロスケ?」


 地面でのた打ち回る学を足蹴にしながら、葉玖良が僕に聞いてくる。


「ええと、その……」


 さすがに召喚した悪魔に追われています。

 なんてことは言えるはずもなく、良い言い訳も思いつかないので口籠る。


「まぁ、コイツがらみだってのは大方察しは付くけどよ」


 今だ悲鳴を上げ続ける学を蹴りながら葉玖良は僕に背を向けた。


「今日は焼きサンマだ。あんま遅くなるんじゃねぇぞ」


「あ、うん」


 葉玖等はこれから夕食に取り掛かるらしい。

 自宅へと向かって去っていった。

 ってことは、あの大根は摩り下ろし大根として使うつもりなのだろうか? 唐辛子が良く効いてそうだ……


『いやいや、なかなかのうでまえだねぇ、あのにんげん』


「まぁ、葉玖良は剣道部だしね。次期部長候補だし。幽霊部員だけど……」


『それけんどうぶのいみないじゃん』


「いや、だから幽霊部員なのに部長になるのが期待されてるくらい実力があるっていう、一種のバロメーターって……え?」


 自分の事のように自慢気に説明を始めた僕。

 説明している相手が人外のモノだってことにようやく気が付いた。

 登場人物


  新見黙人

    ネクラトロスケと呼ばれる引っ込み思案な少年。


  ピクシニー

    吸魔と名乗る妖精少女。電撃魔法を使い黙人に契約を迫る。


  常塚葉玖良

    黙人の隣人。姉と二人暮らし。

    何かの訳ありで姉妹共に髪の色がエメラルドグリーン。

    成績優秀三つ星料理と才色兼備だが毒舌。

    剣道部に所属する次期部長候補。ただし幽霊部員。


  常塚神楽

    黙人の隣人。妹と二人暮らし。

    何かの訳ありで姉妹共に髪の色がエメラルドグリーン。

    家事は得意だが料理は壊滅的。学食に勤め始めた時に作ったラーメンが校長の眼に止まり半永久的に学食で働くことに。


  素本学

    黙人の友人。

    小学校高学年の頃一週間行方不明になり、魔王崇拝者として覚醒した精神異常者。魔王のためなら命も惜しくない少年。


  鏑木沙耶

    黙人の憧れの人。

    隣のクラスの少女で彼氏あり。

    神楽ラーメン崇拝者の一人。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ