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吸魔妖精物語  作者: 龍華ぷろじぇくと
一体目 吸魔ピクシニー
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妖精駆除作戦

 ようやく着いた中流一般家庭的な一軒家に足を踏み入れ、呼び鈴を押す。

 左右と頭上を確認して、ピクシニーが着てないことを確認すると、僕は安堵で息を付いた。

 撒けたみたいだ。よかった。


「はい、どちらさま?」


 息を吐いたとたんに目の前のドアが開き、学の母親が顔をだす。

 唐突だったからついついビクリと体が反応してしまった。

 とても綺麗なお母さんだ。もしもアレを見ていなければ好きになっていたかもしれないくらい綺麗だ。顔だけは。


「あ、あの、学君は?」


「ああ、ウチのバカ息子に会いに来たの黙人君」


 学の母親とは顔見知りだ。

 一度学に連れられてここに来たときは優しい感じのいいお母さんだな……なんて思ったものだが、その化けの皮は一瞬にして剥がれ落ちた。

 学の顔を鷲掴みにしてコンクリートの敷居に叩き込んだアレは……凄かった。


「他人を誘惑して連れ込んでくるんじゃないよっ、この悪魔信仰者がぁッ!!」


 ってな言葉を吐きながらズゴンだったからね。以後この人の機嫌を損ねないようにとついつい萎縮してしまう。

 ちなみに、その時聞いたのだが、学の母は元ヤンだそうだ。

 あのおとなしそうな父親とどうやって出会ったのか全くの謎である。


「あがんな。どうせ部屋で訳わかんないことやってるみたいだからさ」


「あ、はい。お邪魔します」


 許可を貰って学の部屋へ。


「学君いる?」


「……ん? あれ? 黙人? 何か用か?」


 ドアを開いて呼んでみると、暗幕で仕切られた部屋の向こう側から声が返ってきた。


「ちょっと困ったことになってさ……」


 学の部屋は部室よりは狭いものの、内装は殆ど遜色ないくらいマッドだった。

 部屋には電気も通っておらず、テレビやゲームなどといった現代機器も全くない。

 本人曰く、魔術書と水晶さえあれば何でもできるそうだ。

 水晶玉でテレビが見れるとか言っていたけど本当かどうかは分からない。


「で? 困ったことってのは?」


 学は机に向って座っていた。熱心に魔術書を読みながら声だけを僕に送ってくる。

 学の格好は背中越しには黒いマントに阻まれ分からないものの、常人の理解の範疇を越えてしまっている服装だって事はなんとなく分かる。

 そんな奴がローソクの火だけを頼りに魔術書を読みふけっているのだ。端から見たら不気味なことこの上ない。


「あのさ、今日の召喚……だっけ? あれについてなんだけど……」


 学が上体を起こして僕の方に向けてきた。


「何かあったのか?」


「あ、うん」


 僕は先ほど起こった現象を学に全て打ち明けた。




「なるほどね……成功していたのか」


 話し終えると、考え込むように目を瞑った学は、ふむ。と頷いて目を開けた。


「何故俺でなく黙人なのか分からんが、俺の不始末でもあるわけだ。協力しよう」


「あ、ありがと学」


「で、黙人はどうしたいんだ? 契約するのか?」


「け、契約って、そ、その、アレするんだよ?」


「粘膜接触かい? 悪魔との契約なら別に普通だ。魔女だって悪魔に体を捧げて魔法が使えるようにしてもらうわけだし当然だろ?」


「で、でも」


「まぁ、別にシモな考えでなくても鼻の穴でも目でも粘膜であることには代わらんわけだしさ」


「そうかもしれないけど、他に方法は?」


 僕の言葉に学は黙り込んだ。


「あるにはある。契約自体を拒絶すること。つまり相手を殺すことだ」


「こ……えぇえッ!?」


「呼び出した以上はそうするしかねぇな。召喚途中ならキャンセルできるが呼び出した以上は使い魔にするか、殺し殺される以外に方法はない」


「そ、そんな……」


「強制送還もできなくはない。が、用意するだけで一日。魔法陣の材料も揃えなければならんから万全を期すなら最低でも一週間後まで待ってもらうことになるぞ」


「お、遅すぎだよそんなのっ! 僕が殺されちゃうよ!」


「ま~、そう心配すんなって、吸魔ってくらいだし魔王様じゃないんだろ? 倒すくらいなら俺でも可能だろ。相手の魔法も黙人痺れさせる程度だから楽い楽い」


 学が僕の肩をポンと叩き立ち上がる。


「黙人に汚れ役は似合わんしな。その魔物は俺が片付けとくよ」


 そう言って周りにある如何わしい瓶詰めの液体やら木の実やらを懐に仕舞い始める。


「吸魔っつーカテゴリーは初めて聞くが、容姿は妖精ピクシーのようなもんだろ。んでもって雷の魔法なら……水系が弱点か? んじゃあ聖水と……」


 なにやらごそごそと始めた学は、僕を無視して独り言をぶつぶつと呟きながら見る見るうちに怪しい重装備になっていった。

 怪しい出で立ちがさらに異様になってしまった。


「さて」


 ようやく準備を終えたらしい学が立ち上がる。


「行くぞ黙人。おそらく相手はお前の居場所が分からず街中をさ迷ってるはずだ。こちらからおびき寄せて一気に叩こうぜ」


「あ、うん……」


 付いていけない展開に、僕は生返事を返すしかなかった。

 相手を殺す? あの妖精さんを、学に殺して貰うしかないの?

 僕は、本当にそれでいいの?

 戸惑いはあるけれど、他に何か良い案がある訳もなく、僕は学と共に僕の家へと向うのだった。

 登場人物


  新見黙人

    ネクラトロスケと呼ばれる引っ込み思案な少年。


  ピクシニー

    吸魔と名乗る妖精少女。電撃魔法を使い黙人に契約を迫る。


  常塚葉玖良

    黙人の隣人。姉と二人暮らし。

    何かの訳ありで姉妹共に髪の色がエメラルドグリーン。

    成績優秀三つ星料理と才色兼備だが毒舌。


  常塚神楽

    黙人の隣人。妹と二人暮らし。

    何かの訳ありで姉妹共に髪の色がエメラルドグリーン。

    家事は得意だが料理は壊滅的。学食に勤め始めた時に作ったラーメンが校長の眼に止まり半永久的に学食で働くことに。


  素本学

    黙人の友人。

    小学校高学年の頃一週間行方不明になり、魔王崇拝者として覚醒した精神異常者。魔王のためなら命も惜しくない少年。


  鏑木沙耶

    黙人の憧れの人。

    隣のクラスの少女で彼氏あり。

    神楽ラーメン崇拝者の一人。

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