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吸魔妖精物語  作者: 龍華ぷろじぇくと
一体目 吸魔ピクシニー
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吸魔出現

 ピンク色の髪を腰元まで垂らし、ヘソのでた奇抜な緑の服を着て、四枚の透き通る羽根を羽ばたかせている小さな少女。

 それは小柄というにはあまりに小さい少女。

 そこらのおもちゃ屋で手に入る人形とたいして変わらない大きさだった。


『はじめまして。きゅうま、ぴくしにーだよ』


 人形のような少女が僕の目の前に降りてきて口を開いた。

 きゅうま? ぴくしにー?


『きゅうまのきゅうはきゅうしゅうのきゅう。きゅうまのまはまぞくのま。そしてぴくしにーはねぇ……』


 呆気に取られたままの僕を無視してパソコンのキーボードに着地。

 何度か飛び上がっては着地して、パソコンの画面上に、吸魔PIXNYと文字が打たれていた。


『ますたーこうほのあなたのまなは?』


 マスター候補? アナタの真名?


「え……えと、新見黙人……でいいのかな?」


 名前を聞かれたと認識した瞬間、半ば反射的に答えていた。


『うん。いいよ。それじゃあ……はじめよっか?』


 始める? 何を?

 疑問を口にするより早く。

 ピクシニーと名乗った少女は両手を胸の前で突き合わせていた。


『まずはこてしらべだよ。ラ・グ!』


 ピクシニーの両手が黄色に輝く。

 僕に向けて両手を向けた瞬間、僕の体を得体の知れない衝撃が突き走った。

 ビクリと痙攣した僕は驚いて尻餅をつく。

 思わずひゃぁと悲鳴をあげてしまった。


 何?

 何だ今の? 何ダ今ノ?

 っていうかこれって現実!?


『まだまだいくよ?』


「ま、ままま、待ってっ! 物凄く待って!! 人気ゲームソフト発売日前日の最後尾くらい待って!」


『なに? おじけづいたの?』


「な、何だよ今のッ!! というか君はなんで僕にこんな事するのッ!? 僕に恨みでもあるのッ!!」


 ゆっくりとドアに向って後ずさりながら、僕は助かりたい一身で口を開いていた。

 自分でも驚いた。

 自分がこんなに息継ぎせずに話せるなんて初めて気付いたよ。


『なにって、まほうだよ? いかづちのまほうラ・グ』


 魔法? 魔法ってRPGゲームとかにでてくるアレのことっ!?


『うらみなんてないけど、もくとがぴくしにーをよんだんでしょ? ぴくしにーとけいやくするんじゃないの?』


「け、契約? どういうこと? 何の契約……」


 そこまで言って、思い出した。

 学の悪魔召喚の儀式。

 何も出てこなくて失敗だと言っていたけど、もしかしてその時にこの娘が? いや、まさかそんなことあるわけないし。


 で、でも、本当にそうだったとしたら、いろんな疑問が片付いてしまう。

 第一悪魔でもないのに人と話すこんな生物が世界にいるわけがない。

 虫とすら思える小ささなのに人と同じ身体を有し、翅を生やして自由に飛び回る上に雷撃を放ってくるのだ。

 そんな生物が、世界中に居ると言われるよりは、召喚された悪魔だと言われた方がまだマシだ。


「ということは、契約っていうのは……」


『ぴくしにーをつかいまにしたいんでしょ? だからもくとのじつりょくがみあうかどうかてすとするんじゃない』


「テスト? これが? 攻撃されることがテスト?」


『こうげきされること? もしかしてけいやくほうほう……しらない?』


 ピクシニーの言葉に首だけを縦に振りまくる。

 目の前にカベがあればマッチの様に火でもついてしまいそうな勢いだった。


『ええとねぇ、けいやくほうほうは……』


 少し考えるように上を見上げるピクシニー。

 すぐに思い出したらしくポンと手を打ちながら、


『あ~、そうそう。ぴくしに~のこうげきをかいくぐってねんまくせっしょく? をするんだよ』


 ねんま……


「えぇえッ!?」


 それって、つまり……

 こんな危険な事態なのに、僕のどうしようもない頭はピンク色的な妄想を展開させてしまう。

 普段葉玖良にスケベ呼ばわりされているけど、反論できないなと思い、ふるふると頭を振るって即座に思考をストップさせ、僕は状況の改善方法に思考を回す。


 ここは僕の部屋で、逃げ場所は後ろのドアとピクシニーの後ろにある窓。

 近いのはどう見てもドアの方だ。

 とにかく逃げよう。とりあえず学校だ。学校に逃げて落ちつこう。


『いちおうね、しょうかんしゃがふたりいたからまよったんだけど、もくとがしょうかんじんにふみこんだからね』


 まだ説明を続けているピクシニーは、目を瞑り得意げに胸を張っていた。


『ぴくしにーもね、けっこうじぶんでもよわいほうだってじかくしてるけど、これでもけっこうやくにたつんだからっ』


 僕はそっとドアを開く。

 できるだけ音を立てずに体を滑り込ませ……一気に部屋から飛び出した。

 階段はさすがに音を立てずに降りるのは無謀なので、やかましいくらい音を立てつつ急いで降りた。


『あのね、あのね。ぴくしにーはね、いまちょっとわくわくどきどきしてるんだよ。だってね……ぇ?』


 ピクシニーの声だけを聞きながら、僕は一目散に階段を駆け下りる。


『こらまてぇっ!! はなしてるさいちゅうににげるとはなにごとだぁっ!!』


 怒声はすでに耳鳴りくらいの大きさにしか聞こえていなかった。

 玄関のドアを急いで開けて、靴を履くのに手間取りながら家を飛びだす。

 冗談じゃない。訳もわからず付け狙われてたまるものかっ。

 家をでると、校門のところでまだ沙耶を待っている赤井出先輩がつっ立っていた。


「お~、どうした黙人君? そんなに慌てて」


「あ、あああ、赤井出先輩っ!? た、助けてくださいっ! 変な女の子に……」


 赤井出先輩に近付こうとして、僕は見てしまった。

 校門から少し学園敷地内に入ったところの植木の間から僕を睨みつける少女が一人。

 どう見ても沙耶だった。

 思わず開いた口を塞げず呆然としてしまう。


「変な女の子って?」


 赤井出先輩は沙耶に気づいてないようなので、変な女は先輩の後ろにもいると言ってやりたい。

 まさか沙耶さんがスト―キングしてるとか、ショッキングな出来事を見付けてしまうことになるなんて。


「あ、いえ、なんでもないです。忘れてください!」


 沙耶の眼光に居たたまれなくなった僕は、回れ右して町に向って走りだした。

 どうする? どうしよう? どうしたらいい?

 自分が助けを呼んで、あのピクシニーから助けてくれる相手は?


 決まってる。こういう専門は学の独壇場だ。

 学はおそらく裏門の方から家に直帰しているはずだ。

 あっちからの方が家には近かったはずだから。


 学校を越えた向かいの方に家があるので、遠回りしながら僕は学の家に向った。

 学校を通り過ぎれば一番近いのだけれど、さすがにあの沙耶の視線を気にしながら校内に侵入する気力はなかった。

 登場人物


  新見黙人

    ネクラトロスケと呼ばれる引っ込み思案な少年。


  ピクシニー

    吸魔と名乗る妖精少女。電撃魔法を使い黙人に契約を迫る。


  常塚葉玖良

    黙人の隣人。姉と二人暮らし。

    何かの訳ありで姉妹共に髪の色がエメラルドグリーン。

    成績優秀三つ星料理と才色兼備だが毒舌。


  常塚神楽

    黙人の隣人。妹と二人暮らし。

    何かの訳ありで姉妹共に髪の色がエメラルドグリーン。

    家事は得意だが料理は壊滅的。学食に勤め始めた時に作ったラーメンが校長の眼に止まり半永久的に学食で働くことに。


  素本学

    黙人の友人。

    小学校高学年の頃一週間行方不明になり、魔王崇拝者として覚醒した精神異常者。魔王のためなら命も惜しくない少年。


  鏑木沙耶

    黙人の憧れの人。

    隣のクラスの少女で彼氏あり。

    神楽ラーメン崇拝者の一人。

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