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吸魔妖精物語  作者: 龍華ぷろじぇくと
一体目 吸魔ピクシニー
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魔王召喚、失敗?

 起き上がると白いベットに寝かされていることに気付いた。

 目の前には薬品棚と右側に教員用デスク。

 そこに座る白衣を着た女性。保健室にいるらしかった。


「気が付いた?」


 保険の先生が僕に気付く。

 笑顔が似合う綺麗な人だ。

 胸が大きく男子生徒にも先生方にもかなり人気がある。


「……はい」


「またラーメン食べたんですって?」


「……はい」


「まぁ毎度のことながら、運ばれるの分かってるんだから食べないように……っていうのは無理かしら」


 苦笑する先生はとても綺麗で、この人に心配させたという気持ちが申し訳なさに変わってくる。


「……すいません」


「いいわ。起きたなら教室に戻りなさい」


「はい」


 のそのそと起き上がり、保健室を後にする。

 昼食後は毎度のように運ばれているので先生とは知り合いになってしまった。

 保健室に行けば有無を言わさずベットを貸してくれる。

 常連さんだよ。男子連中には羨ましがられるけど全然嬉しくない。




 授業を終えた僕は、誘われてしまった黒魔術部に向った。

 学は授業が終わるや否や、一目散に駆けて行った。

 よほど楽しみなことが起こるんだろう。学にとってだけ。


 黒魔術部の部室は野球場のすぐ横にあるプレハブ小屋がそれだった。

 窓も扉についているガラス戸からも黒のカーテンに遮断されて中の様子が分からない。

 扉の前に立ち、二、三度深呼吸を繰り返えす。


 扉に手をかけ、ゴクリと唾を飲み込んでからゆっくりと開けた。

 光が入り込み、明るくなったのは暗幕の手前だけ。

 僕が扉を閉めると、一気に薄暗くなった。

 暗幕を開いて中に進む。


 黒魔術に使う道具の中には、日の光に触れると全く使い物にならなくなるものもあるらしい。

 そのため、入り口から日の当たる分部だけは暗幕と暗幕でスペースを作り、内部まで日の光が差し込まないように徹底していた。

 ちなみに入り口のドアには天使避けとかいうタペストリがかけられていた。


「いよう、来たか黙人」


「来たよ学」


 簡潔に答えて心の中で溜息を吐いた。

 学が用意をする間、何をするでもなく周りを見回した。

 何度も来ているが、やはり月の葉とか、マンドラゴラとかいう瓶の中の物体が本物かどうか疑ってしまう。

 妖精のミイラと呼ばれる瓶に詰められたものも、ミイラというよりは古い人形みたいだった。


 胡散臭いものばかりあるが、中でも一番それらしかったのはのっぺっぽうの肉片という物体だった。

 触らせてもらったらブヨブヨしていて、生臭いし気持ち悪いし、でも、確かに白い肉だったと思う。

 どこかの浜辺に打ち上げられた三、四メートルもある肉塊の一部だそうだ。


 次の日行ったらその肉片はどこにもなく、爽やかな笑顔で「食った♪」とか言われた。

 あの時の衝撃はもう、一生の思い出になってしまった。

 部屋の中心には赤い何かで描かれた魔法陣があり、幾つかの蝋燭の炎が日の光の代わりに揺らめきながら部屋を赤く染めていた。


「用意ができたぞ~」


 そうこうするうちに学ぶがやってきた。

 何かの動物の骨を頭に被り、黒のマントをつけた学がそこにいた。

 正直、彼の正気を疑ってしまう格好だ。

 右手にドクロの錫杖を持ち、左手には一冊の本を持っていた。

 本のページを捲りながら、床に描かれた魔法陣の中心に向う。


「ウィ……アト……」


 何か呪文のような言葉を唱えだす学。

 僕は何もすることがないので、学を見ているしかなかった。


「ルト……ビティ……」


 突然、風もないのに蝋燭の火が消えた。


「来るぞ……来るぞ来るぞ来るぞッ!」


 学の声に反応するように魔法陣が輝きだす。

 魔法陣の中央から光の柱が噴き出した。

 え? 本当に出てくるの!?

 学の与太話だとばかり思っていた僕はさすがに眼を丸くして魔法陣を見る。


「よし来たッ! 魔王様ぁあぁあぁあぁ~ッ!」


 出てきた瞬間抱きつこうとでもいうように、両手を挙げたまま中央の光の柱へと走りよる学。

 光が収まる瞬間、案の定、学が飛びついた。

 しかし、魔法陣の先には誰もいず、学は空を飛び越え、向こう側に顔面から墜落した。


「ぐおおおおッ!? いてぇッ!?」


「大丈夫?」


 呆れながら魔法陣を突っ切って学に歩み寄る。

 魔法陣の中に足を踏み入れた瞬間だった。

 ゾワリとした不思議な感覚が体を一瞬包み込む。


「な、何今の?」


「お~痛てェ……」


「あ、学大丈夫?」


「ああ、でも……っかしいなぁ召喚成功したはずなんだけどよ」


「まぁ失敗は誰にもあるって」


 本気で一介の人間が魔王なんていもしないものを呼び出せるか。

 なんて事を心の中で思いながら学を助け起こす。

 確かに魔方陣が光りだしたのには驚いたけどさ。


「しゃーねェ、今日は見合わせるか。どこがおかしいのか調べてくるから明日も来てくれよ黙人」


「うん……え?」


 反射的に応えてから明日もここに来なければならなくなった事実に気付く。


「ま、今日は原因究明に留めて早く帰るかね」


 フードから顔をだした学が残念そうに息を吐く。


「また明日な、黙人」


「あ、うん。それじゃ帰るね」


『……もくと……』


 入り口に向って歩きだした僕は、ふと自分の名前を呼ばれたような気がして立ち止まった。


「学、呼んだ?」


「うんにゃ? 呼んでねェけど?」


「そう? じゃあまた明日」


 首をかしげながら黒魔術部室を後にする。

 背後から何かの視線を感じる気がして校門までに何度か振り返ったが、僕の背後には誰もいなかった。

 だから気のせいだと思い込むことにして、校門で待っているだろう怒れる大魔神様の元へと重い足取りで向った。

 登場人物


  新見黙人

    ネクラトロスケと呼ばれる引っ込み思案な少年。


  常塚葉玖良

    黙人の隣人。姉と二人暮らし。

    何かの訳ありで姉妹共に髪の色がエメラルドグリーン。

    成績優秀三つ星料理と才色兼備だが毒舌。


  常塚神楽

    黙人の隣人。妹と二人暮らし。

    何かの訳ありで姉妹共に髪の色がエメラルドグリーン。

    家事は得意だが料理は壊滅的。学食に勤め始めた時に作ったラーメンが校長の眼に止まり半永久的に学食で働くことに。


  素本学

    黙人の友人。

    小学校高学年の頃一週間行方不明になり、魔王崇拝者として覚醒した精神異常者。魔王のためなら命も惜しくない少年。


  鏑木沙耶

    黙人の憧れの人。

    隣のクラスの少女で彼氏あり。

    神楽ラーメン崇拝者の一人。

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