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吸魔妖精物語  作者: 龍華ぷろじぇくと
二体目 妖精パック
21/45

強制送還作戦・前編

 パックがやって来たときには、すでに学の詠唱は終わっていて、最後の言葉を残すのみとなっていた。

 空中を漂いながらパックは毒づく。


『おいおい、まだ強制送還なんざ諦めてなかったのかよ? 帰る気はねぇぞ俺は』


「うるせぇぞオラァッ、小虫風情が人間様の言葉喋ってんじゃァねぇぞ」


『クソムカつく人間だな。まぁいい。さっきの恨みだ、アンタにこの魔法をくれてやるよ!』


 それは、僕を相手に唱えた呪文だった。


『……ライ……ザ……』


 葉玖良によって不発した魔法。

 ラと言っていたので、雷系。恐らくその上位系の魔法。とか学なら言ってるんだろうなぁ。

 どの道致死率が高いのは一緒だ。


『……リグ……ルガ……』


 放電を始めたパックの両手に、流石に葉玖良も相手が危険だと判断したらしい。

 固唾を飲んでパックの動きに注視する。


『ラ・グラッ!』


 パックは両手を合わせて頭上に掲げ、葉玖良目掛けて一気に振り下ろす。

 迸る雷光が放電を繰り返し葉玖良へと向かい来る。

 ありえない現象に戸惑う葉玖良。

 学がとっさに懐に隠していたあの巨大針を取りだし投げつける。

 しかし、それでも雷の威力は殺しきれず、避雷針に落ちた雷と袂を別った雷撃が葉玖良に襲い掛かる。


「ぐ、あああああああああああっ!?」


 体中に浴びた電撃に思わず声が出る。

 威力は少量だったのか、目に見えて放電などはしておらず、おそらく電気ショック程度の威力だったのだろう、たたらを踏んでなんとか倒れず大地を踏みしめる。


「ぐ、な、なんだ今のは?」


「は、葉玖良! 大丈夫!?」


「あ、当ったり前だネクラトロスケ! テメーに心配されるほど落ちぶれちゃねぇッ!」


 僕の言葉に慌てて大したダメージはないと強気にヤセ我慢する葉玖良。

 時々よろめくので意地を張っているんだと分かってしまうが、今はそれを指摘する意味はない。

 相手はまだまだ余裕があるのか、再び呪文の詠唱に取りかかっている。


『そらッ! ラ・グラ!』


 僕はとっさに葉玖良の前に落ちていた避雷針を拾い上げ、大地に突き立てる。

 姿勢を低くして避雷針から遠ざかった。

 一瞬遅れて雷全てが避雷針へと向かう。

 さっきのは地面に突き立っていなかったから落ちきらなかったのか?

 まぁ、とにかく、これで雷撃は防げそうだ。


『クソッ、あの針が邪魔して雷が……』


 パックもすぐに雷撃を唱える意味はないと気付いたようで、魔法詠唱を中断して別の詠唱を始める。


『ル……ラル……ル……グラ……』


 この魔法……聞いたことある……

 学もピンと来たようで、慌てて懐の札を探し始める。

 昨日の攻防戦で使える事が判断したので、大枚叩いて大人買いしたらしい。

 本体が到着するのは二日以上してからだが、一応まだ二、三枚は買い置きがあるそうだ。


『シェ・ズ』


 ピクシニーとは比べ物にならない程の風の刃を集め、葉玖良へと向けて一気に打ち下ろす。


『はっは~! まずは一匹ッ!』


 向かい来る風の刃は高速すぎて、葉玖良の反応でも間に合わない。しかし……

 葉玖良と風の刃の接触寸前、学の右手に持たれた反射の札が、ぎりぎり間に合った。

 不安定な体制とかつてない衝撃に、学の腕が後ろに吹き飛ばされて葉玖良の額に直撃。

 さらに勢いを殺しきれずに葉玖良と共に後ろに跳ね飛ばされる。


「ってぇ……」


 それでも声を出したのは葉玖良だけ。

 学は歯を食いしばって自分の口から悲鳴すら出てくるのを防いでいた。

 そして風の刃はというと、札の効果によって術者に向かって跳ね返されていた。

 流石にパックは唖然とするようなことはなく、冷や汗をかきながらもすんでのところで回避に成功する。


 一筋縄ではいかないらしい。

 ピクシニーなら確実に喰らってたのに。

 やっぱりピクシニーより強いんだろう。


『お、おいおいおい!! 人間風情がアレを跳ね返すのかよ!?』


 遠くへと飛んでいく風の刃を見ながら生唾を飲み込み、パックは再び僕たちを見る。

 まだ起き上がりきれていない葉玖良と学を見てニタリと笑った。

 あの二人は少し体勢を整えるまで時間が掛かるようだ。


『んでも、ようやくマスター候補と一騎打ちってとこか』


 ……ん?

 僕は慌てて周囲を見回す。

 主に額の痛みで仰け反った拍子に打ったらしい後頭部の痛みで立てない葉玖良。

 なんとか立ち上がったものの、すでにふらふらの学。


 確かに、これじゃあ僕以外はまともに動けない。

 僕を護ってくれる人も存在しない。

 知らず生唾を飲んだ。

 パックはサディスティックな笑みを浮かべて呪文詠唱に入る。


『ル……ラル……ル……グラ……』


 ど、どうしよう?

 僕はどうすればいい?

 誰も教えてくれないの?

 何をすればいい? 何をしたら助かるの?


 必死に周囲を探る。

 でも、今近くにあるのは避雷針だけで、風の魔法に対して役に立つとは思えなかった。

 学も無理な体勢から葉玖良を庇った拍子に足を捻ったのか、片足を庇って立っている。


 葉玖良の時みたいに僕を護ってくれそうには思えない。

 僕にできること、僕にしかできないこと……

 思い至った行動はたった一つ。


『シェ・ズ!』


 僕は方向転換して一気に駆けだした。

 魔法の目標地点から一目散に走って逃げる。


『お、おいおいおい!? こういう場合普通は立ち向かうんじゃねぇのかよ!?』


 パックが慌てて追ってくる。でも僕にはどうしようもない。

 僕はただの弱虫で、どうせ考えたって何もできないヤツなんだ。

 だからとにかく、葉玖良が起き上がってくれることを願って逃げる!


 魔方陣を踏み越えてパックからどんどん逃げる。流石のパックもここで僕を見失うわけにいかなかったのか、残された二人に構わず僕を追いかけてきた。

 だって僕がマスター候補なのだ。

 僕を殺せなければ魔力を回復しようにもできないみたいだし、あれだけバカスカ魔法を撃ったパックのこと、あと数日くらいしか魔力のストックは残っていない……だろう。


 飛んでくる風の刃を紙一重でかわす。

 だけどもともと体力も持久力もないうえ、すでに体力の限界に近かった僕の足はすぐに重くなって、ついに右足を左足に引っ掛け盛大に転んだ。


 パックが思わず醜悪な笑みで笑ったのが、背中越しでもすぐにわかった。

 登場人物


  新見黙人

    ネクラトロスケと呼ばれる引っ込み思案な少年。


  ピクシニー

    吸魔と名乗る妖精少女。電撃魔法を使い黙人に契約を迫る。

   習得魔法

    ラ・グ:電撃魔法の一つ。威力は一番低い。

    シェ・ズ:風の範囲魔法の一つ。威力は低いが広範囲に被害を及ぼす。

    ウェ・ズ:風の範囲魔法の強化版。周辺全体に被害を及ぼす。

    サ・クリフア:吸魔専用能力。倒した相手のディグを吸収できる。


  常塚葉玖良

    黙人の隣人。姉と二人暮らし。

    何かの訳ありで姉妹共に髪の色がエメラルドグリーン。

    成績優秀三つ星料理と才色兼備だが毒舌。

    剣道部に所属する次期部長候補。ただし幽霊部員。


  常塚神楽

    黙人の隣人。妹と二人暮らし。

    何かの訳ありで姉妹共に髪の色がエメラルドグリーン。

    家事は得意だが料理は壊滅的。学食に勤め始めた時に作ったラーメンが校長の眼に止まり半永久的に学食で働くことに。


  素本学

    黙人の友人。

    小学校高学年の頃一週間行方不明になり、魔王崇拝者として覚醒した精神異常者。魔王のためなら命も惜しくない少年。


  鏑木沙耶

    黙人の憧れの人。

    隣のクラスの少女で彼氏あり。

    神楽ラーメン崇拝者の一人。

    ストーカー気質あり。


  赤井出京介

    沙耶の彼氏。

    バスケ部の赤い髪のイケメン青年。

    黙人とは中学からの先輩後輩として仲がいい


  パック

    妖精族の一人。

    ピクシニーを再召喚しようとして召喚された。

   習得魔法

    ラ・グ:電撃魔法の一つ。威力は一番低い。

    ラ・グラ:電撃魔法の一つ。威力は中くらい。

    シェ・ズ:風の範囲魔法の一つ。威力は低いが広範囲に被害を及ぼす。

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