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後編:死後数年後、奇跡は起こる?





舞台は変わって臨母界

―死後数年後・臨母界―


「そういえば、もうすぐ顕霊期ケンレイキね」

「あら、もうそんな時期?」


 女装した長髪美男子こと医師アイル・ア・ガイアーのふとした一言に、白衣を羽織った青い流体種の紀和室見は首をかしげながらカレンダーを覗き込む。見れば、カレンダーのある行がざっと数日分ほど緑色になっており、その下には小さな文字で『顕霊期』と書かれている。

 この『顕霊期』とは、力を余した死者が生前と同じような肉体を得て終わりなき第二の人生を過ごす臨母界特有の自然現象が起こる時期のことである。詳しい原理は省くが、この時期になると臨母界とはまた別に存在する死者の領域『霊界』に(不定形な自我のあるエネルギー体として)滞在する者達が、本来は不可侵である筈の臨母界へと流れ込み、姿を成して適当に(平均半日から二、三日の間)過ごすのである。

 この光景は中々に神秘的かつ荘厳であり、身内がもう片方の世界に居るために普段会えない住民も多いためか、二つある死者の領域はどちらも種のお祭りムードに包まれ、いつも以上に賑わうのである。それはこの場に居た者達――生前"反乱の四凶"と呼ばれたクロコス・サイエンスの社員四人と他一人一匹――も同じであった。ただ一人、柵木豊穣を除いては。


「(……またこの季節か。おもれぇし綺麗なんはええんじゃが、不安じゃ……どうしたもんか……)」


 顕霊期を知ったとき、豊穣はある事態を恐れていた。そして彼女はそれを回避すべく、顕霊期はなるべく家から出まいと心に誓った。


―三日後・顕霊期初日―


「お、親父ぃ!会いたかったよぉー!」

「ママ……久しぶり……」

「あ、兄貴ぃ!」

『浩二、大きくなったなぁ……』

『ああ、ティファニー……私のただ一人の娘……』

『ハッピーだからスキンシップするんや』


 その日からの数日間、臨母界は再会を喜ぶ住民達の声や期間限定の様々なイベントでそれまでにない盛り上がりを見せており、霊界の民達は一種のスター扱いを受けていた。


―同時刻・ある一軒家の庭―


「ほーれ、水じゃぞー」

 その日、柵木は自宅の庭にある花壇の手入れをした序に水をやっていた。

「枯れんなえ、せめて種を残すまではなー……っと、こんなんでええじゃろ」

 粗方作業を終えた豊穣は、手入れに用いた道具類を片付けようとした――が、そんな彼女を嘲笑うかのような出来事が起こってしまう。彼女の自宅近辺へ、ある人物が現れたのである。

「(あ、あれはっ!まさか……)」

 その"ある人物"とは即ち、霊界より流れ込み臨母界にて姿を成した豊穣の祖父であった。柵木は慌てて眼を逸らし、さっさと道具を片付けて家へ入ろうとする。何故そんな事をするのかと言えば、それは彼女が祖父との再会を恐れているからに他ならない。

 その理由とは即ち祖父への、悪事に手を染めてしまったことや、姿が変わるほどに体を改造してしまったことなどに因る罪悪感であった。同時に豊穣はこういった過去から自分を親親族や先祖に顔向けできない一族の面汚しと思っており、そんな自分が祖父と再会していい筈がないのだと考えてもいたのである。

「(まぁ、名乗りさえせにゃあ誤魔化しようはあるがそれもェ悪ぃしのぅ。それに、どうせ何れは霊界に帰っちまうんじゃけぇ、妾はそれまでやり過ごしてもーたらええだけの話じゃ)」

 そう自分に言い聞かせながら道具を片付けた豊穣は、そそくさと家に入ろうと歩き出したのだが――

『そこのおめーさん』

――呼び止められてしまった。しかも極めてストレートに。豊穣は思わず硬直しながら、万が一にもボロが出ないよう方言めいた独特な喋りを一時的に封じにかかる。

「……何です?」

『すまんけぇなぁ、ヒトを探しょおるんじゃ。無料案内所に行っても頼りにならんでなぁ、探すの手伝てつどうてくれんか?』

「……はい、私に協力できる範囲なら。どんなヒトでしょう?」

『おう。探しょーるんは、わしの孫娘でなぁ。たった一人の大切な孫なんじゃ』

「……ほう、お孫さん」

『うん。生前は認知症んなってもうてから、死ぬ間際まで忘れたままじゃったんじゃけぇ、死んで霊界に来てからはっと思いだしてなぁ。心配だったんじゃ……』

「……それはそれはお気の毒に。して、お孫さんはどのような方なのです?」

『あぁ。わしに似ず、ちーそーて可愛らしゅうて、毛並みもうて、頭もええんじゃ』

「……ふむ。それで?」

『よーさんのことに興味を持っちょおって、意欲的で明るくて働き者で……心の底から、わしを愛してくれた子じゃった。それはわしが認知症になってからも変わらんかった。毎日毎日面倒見てくれてから、わしが怪我やいらんことをせんでええように、きちっと対策を練ってくれて、しかもわしの為にと治療法を探してくれて……認知症で何もかも忘れて、孫の名前や顔さえ忘れてしもーたが、それだけはよう覚えとった……』

「……素晴らしいお孫さんじゃないですか」

『そうじゃとも……ほじゃけぇ、わしもその頃は結構な歳でなぁ。結局老いには勝てず、孫が治療法を見つける前に死んでしもうたんじゃ……』

「……はい」

『でな。死んで霊界に行ったんじゃ。その頃の霊界にゃ、わしやわしと同じように死んだもんら意外には何ものうてな。退屈でしゃあねかった。ほんで、よう皆して抜け出しとった』

「……」

 そこから先、祖父が何を言い出すかはっきりと予想のついてしまった豊穣は、ただ黙りこむことしかできなかった。

『あとはわかるじゃろ、豊穣?』

「……うん。わかるよ、爺ちゃん。霊界を抜け出してこの世を飛び回っとった爺ちゃんは、そこで偶然ウチを見つけたんじゃろ?爺ちゃんに死なれたショックで引き篭もって飯も食わんと、手首切ったり首絞めたり薬かっ込んで吐いたり、しょーもねぇ人間になってしもーたウチを」

『そうじゃ。ほじゃけぇわしは、おめーの夢へ入って、おめーを元気づけたんじゃ。その甲斐もあって、おめーはその才能を花開かせ、みんなを笑顔にするようになった』

「けど、落ちぶれっちもーた。アホに騙されて、戦争ころしさせられて、その上オトンとオカンから貰うたこの体も、こんな風に――『そら違う』――え?」

『そら違う、ゆーたんじゃ。おめーは確かに騙されるまま人を殺し、姿がそんなになるまで改造っちゅうんをしたんじゃろう。ほじゃけぇ、それとこれとはまた別じゃ。おめーは悪にこそ走ったが、落ちぶれたわけじゃねぇ。確かに何人も殺したが、人や国を思いやる心は決して忘れず、悪なりの"義"に生き、そして最後には上司を救うためにあのアホと戦ったんじゃ。じゃけぇ……自身持て、豊穣。何がどうなろうと、おめーはわしにとって最高の孫娘じゃ』

「っ……じ、爺ちゃん……」

 その言葉を聞いた豊穣の目が、幽かに潤む。それを気取った祖父は、背後で静かに両手を広げながら言葉を紡ぐ。

『豊穣……また昔みてーに、抱っこさしてくれぃ』

「爺……ちゃん……爺ちゃぁぁぁああああぁぁぁぁんっ!」

 一気に緩んだ豊穣の涙腺から、大粒の涙がぼろぼろと零れ落ちる。

 子供のように泣きじゃくりながら駈け出し祖父の胸へ飛び込んだ孫娘は、喉を嗄らすばかりか潰しかねない程の大声で、ひたすら泣き続けた。


―その後―


 あれから暫く泣き続けた挙句落ち着いた豊穣は祖父との顕霊期を存分に堪能し、また祖父も孫娘との顕霊期を(豊穣同様のノリで)力一杯楽しもうとした。その結果祖父は今期姿を成した霊界民の中で唯一顕霊期の終了間際ギリギリまで臨母界へ留まり続け、軽く伝説と化したという。


 一方豊穣はと言えば、祖父が霊界へ戻ってからの数日間は手間と金のかかった悪戯で騒動を巻き起こすことも、仲間の色恋沙汰で騒ぎ立てることもせず実に大人しかったという。そんな調子だったもので彼女の仲間達は揃って『大人しすぎて逆に怖かった』と語ったという(とは言うものの、それも所詮は気分性のものであったためあっさり元に戻ったわけだが)。

次は臨母界の設定資料でも作れそうな気がします。

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