√C.欲求の強欲
―3人目はね裏面殺人者なんだって―
彼女の名は猫崎明日葉はこの高校の二年生だ。
小動物の様な容姿だが、もてるわけでも無く、クラスではそれ程目立つ存在ではない。
明日葉は部活動の為に旧校舎へ来た。
ギシギシと明日葉が動くごとに大きな音で床が鳴る。年期の入った建物の為、倒壊の噂もされているが、旧校舎であるものの実際は今でも使われており、理科の教材や美術の作品などが置いてあり、校舎内で出来ないものづくり部などは|旧校舎(こちら側)に来て制作している。噂の絶えないお約束の旧校舎とは違い結構な割合で生徒や教員が出入りしている。
いつもの様に新校舎に近い旧校舎の裏口から入り、階段を上り、部室のある二階まで上がった。
部室の扉を開けると、そこは無人であった。
誰一人としておらず、もぬけの殻だった。
ようやく今日が何日であったか思い出した。今日は部活が無い日であった事をすっかり忘れていた。
ドアを閉め、恥ずかしくなり、今にも泣き出しそうに、とぼとぼと旧校舎表口に行こうと階段をいつもの様に下りる。
今日は誰かと一緒というわけでは無かったので、迷った。旧校舎で道に迷った。
明日葉自身が方向音痴であると言うことは自覚済みだが、ここまで酷いとは思わなかった。行きはなんとか1年を経て行き来できる様になったが、未だに帰りが道に迷う。その為、いつもは部活のメンバーと一緒に帰っている。だが、今日は誰も来ていないため、というかなかった為に、誰もいない。
キョロキョロと周りを見るがさっきから同じ道を歩いているようにしか見えない。
「……うっううっ」
今にも泣きだしそうな声をもらす。
「ど、どこだよ~ここ?」
廊下の角を曲がると、――何が居た。
「ひゃっ!?」
その角を曲がった直後に何かが居た為に驚きのあまり、尻もちを付いた。
その身体はガクガクと震えている。
「お、落ち着いて、ね?」
と、男は子供をあやす様にしゃがみ込んだ。
この学校の男子制服のブレザーをボタンを止めず、中にVネックのニットベストを着て、上から二番目のボタンまで止めず着くずしたシャツをその中に着ている。シャツの襟に赤いネクタイを結びニットベストの中に入れている。血のように真っ赤な格子柄の指定のズボンを履いている。セパレート・ウエストバンドに向かって右側にウォレットチェーンが付いてある制服を着た、茶髪で癖毛が目立つ、目付きは丸目でイケメンの分類に入る程、整った顔立ちをした美少年だ。確か名前は堂島桐也。
桐也におんぶで担がれた、この学校の女子生徒のブレザーを着て、制服の下にニットカーティガンを着て、その下にシャツを着ている。ローライズ並の短さのプリーツスカートで血のように真っ赤な格子柄。足にはタイツを履いている。顔は見えないが、黒髪かつロングヘアーが見える。
その後ろには、同じく男子制服のブレザーをボタンをすべて止め、襟部分を着くずしたシャツをその中に着ている。衿には赤いネクタイを結んでいる。血のように真っ赤な格子柄の指定のズボンを履いている。セパレート・ウエストバンドに向かって右側にウォレットチェーンが付いてある制服を着た、黒髪で癖毛より寝癖に近い髪を持ち、目付きは悪く三白眼気味の目であり、目の下に隈があり、やる気の無さとけだるさが見える。明日葉と同様にクラスではあまり目立たない青空音遠。
桐也が訪ねてきた。
「ところで明日葉さん、外に出られる出口見なかった?」
「ぼ、ボクは、そこから入ってきたけど」
と、さっき来た場所を差した。
「裏口だね。……行ってみようか」
と、いい桐也は走り出した。
ようやく見つけた人だったため、彼らについていった。
その、裏口の前まで来ると、ドアノブ式の扉だ。
桐也はそのドアノブを握り、がちゃがちゃと引いたり押したりするが、開かなかった。
「……やっぱりだめか」
「えっ?そんなっ?!ボクが来た時は確かに開いてたのに」
と、こっそりいたが、その事に驚き声を出した。
急に背後に立たれたためか、音遠は驚いた。
「脅かすなよ」
「これじゃあ、本当にクローズド・サークルのなりかけみたいじゃないかっ!」
と、桐也が苦い顔で言った。
「く、くろーずど・さーくる?」
そう、音遠が聞き返した。
「オカルトには無いの?」
「オレが知ってるのには無いな」
そうか、と一呼吸置き、
「クローズド・サークルまたはClosed Circleって言われている、何らかの事情で外界との往来が断たれた状況、あるいはそうした状況下でおこる事件を扱った作品を指したミステリ用語の一つだね、まさしく今がその状況に近いんだよ。まあ、この中では事件は起こってないけど、その外では起こってるみたいだけどね」
「どういうことだよ。オカルトならまだしも「ミステリー」って何でそんな事になってるんだよ」
「僕に聞かれても知らないよ。まあ、それよりも、どうやって脱出するよりも、どこで考えるかだよ」
桐也は少し困った表情を浮かべる。
「どうしてだ」
「こんな所で立ち話するのかい?僕は嫌だよ」
「……わかったよ」
あまり乗り気ではないみたいだ。明日葉もそれに同行することにした。
探し回る。
と、音遠が旧校舎にある元教室を探す。
「ここは?」
一指し指で音遠が差したのは旧理科室だ。
薬品などが管理されている教室だ。今でも準備室として使われている。
「……ここはかなりまずいよ」
と、口元を制服の袖で隠す。
「危険物類が充満してる。微かだけど漏れだしてる。設備的には申し分ないけどここは離れた方がいいよ」
と、すぐさまその場を離れた。
明日葉も鼻はいい方だが、そんな匂いは気にならなかった。だが、その事は面白そうなので言わなかった。
「……でも、おかしいな。理科準備室として使われてるはずなのに、こんな状態になってるなんて」
桐也は首を傾げる。
「……なら、旧図書室は?あそこなら問題ないよね?」
音遠はまた提案した。
「行ってみるか」
と旧図書室に向かった。
埃だらけなのが何分問題だが、広々とした空間である。
「ここなら問題ないと思うよ」
何か面白そうな事になってるみたいだけど。これから、どうするのかな?まあ、どうでもいいけど。桐也が嘘つきなのは明白だし。でも、面白いし、識乃の奴も気に入らないから桐也に付こうっと。
埃を払い四つの椅子を座れるようにした。そこには円を描く様に時計回りに明日葉、桐也、識乃、音遠の順に座った。
「まずは、この状況をどうしようか」
まずは堂島が喋り出した。
「どうもこうも、脱出するに決まっている」
「でも、どうやって?」
「ここに来るまでどこも開いてなかったらしいですね」
と、音遠、明日葉、識乃の順に次々に口を開く。
「じ、地面を掘る?」
「どうやって?」
少し冷徹気味に言ってやった。
「……壁をぶち抜く?」
「そんなことしたらこの建物自体が倒壊しかねないですよ」
ことごとく音遠の案は論破される。
「ならどうしろって言うんだ」
「だから、それを考えてるんだろ」
また堂島に正論を言われた。渋々大人しくした。
「……では、気を取り直して。クローズド・サークルじみているらいしですが、殺人が起こる可能性はあるのですか?そうなれば本当にクローズド・サークルになってしまいます」
「真っ先にそれを言っちゃうの?」
ド直球な識乃の回答に首を傾げながら呆れた表情の明日葉が言った。
「さあ。わからないね。相手の深層心理が読めないと、どうとも。まあ、僕的には何事もなく皆で脱出できればいいけど。人間ってものは恐ろしいからね。言葉ではそう言っても追い詰められれば何をするか分からない」
「それでは、おちおち寝ていられませんね。夜更かしはお肌の天敵ですが」
と、少ししょげた表情を浮かべた。
「まあ、それが一日で終わればだけど」
それに止めの追い打ちをかける様に明日葉が言った。
「そうだね。一刻も早く脱出できればいいけど。もしかしたらこのまま――」
遮る様に大声で、
「も、もうやめてください!!」
識乃は目を閉じ必死に耳を両手で押さえた。
ざまあ、そう思った。
「……そうだね。話を戻そうか。まずはどうやって脱出するか、だね。何かある?レディーファーストで」
桐也が右手を出した。
そして、識乃が先陣をきる。
「そうね。ここの扉と窓本当に開かないの?」
「ああ」
「でも、今までの話を聞いて思ったんだけど、それって、桐也君しか触ってないんだよね?それっていくらでも誤魔化し様が出来たんじゃないの?」
「え?何で僕が皆を騙す必要があるのさ?」
「それもそうだよ」
少し焦る表情を浮かべた桐也の後に椅子から前のめりになり明日葉が続いた。
首を傾げながら、加勢するように、
「考え過ぎなのかな?」
「そうだよ」
「まあいいけど」
と、その話はそこで終わった。
「なら次ボクね」
いつもの様にお気楽に、はいはーい、という感じで明日葉が手を上げた。
「あの旧理科室についてなんだけどさ。やっぱおかしいよね。確かに桐也の言うとおり微かにだけど嫌な臭いがしたけど。あの旧理科室は未だに準備室として使用されてるって、桐也もあの時言ってたしさ。あんなんじゃ、準備なんてどころじゃないよ。……まさか薬品でも割れたのかな?」
嘘だと言う事は知っているが、表向きにはムスッとした。
「さすがにそれは確かめようがないね。でも、もしかしたらあの中本当にやばいかもしれない」
「まあ、ボクもあんまり深い事はわかんないんだけどさ。はい、ボクの話し終わり」
と、めんどくさかったし、この後が続けようもなかったので終わらせた。
「じゃあ、僕だね。扉と窓と理科室は言われたけどまだおかしな点はあるよ」
「何なの?」
興味津々に明日葉が聞いた。
「どうして僕らが集まったってこと」
「確かにあまり疑問には浮かばなかったけど、言われてみればそうね」
俯き右手を口に当て識乃は悩む。
「偶然にしては出来過ぎだしね」
桐也は話を続ける。
「どういう経緯でここに来たのか、教えてくれる?まずは僕からね。僕は今日の理科の準備でここに一度来てたんだ。授業が終わって築いたことなんだけど僕の携帯ストラップが無い事に気が付いて、放課後旧校舎と通った場所を探してたんだ。結局今も見つかってないんだけどね」
演技っぽい苦笑しながら頭を掻いた。
「それってどんなの?」
「「やるせないパンだ」っていう奴」
「んー。どれかはさすがに分かんないけど見てないな」
やるせないぱんだって何?そう思った。
「私も見てないわ」
「どこ行っちゃったんだろ。本当に、まいったな。それを探している最中に旧図書室で会ったのが、ネオなんだけど」
「ネオ?」
「居たっけそんな人」
と、識乃が聞いた為、大体の目星はあるが釣られて明日葉聞き、仲良さそうに顔を見た。
「…………喋っていい?」
「あ。音遠君のことですか。いいですよ」
と、識乃が優しい声で言った。
「オレは旧図書室で本を見てたよ」
「そうなの?」
「でも、今日はあんまり見れなかったけど。堂島と悲鳴のせいで」
「ごめんなさい」
と、識乃が謝った。
「私は美術の時間の美術品を旧校舎に戻して帰ろうとしたら、出くわしたのよ。アレに」
アレと言うのは何だろうか、そう疑問に思ったが、聞かないことにした。
「それだけ?」
明日葉は識乃に容赦なく付きつけた。
「ボクはものづくり部に行こうと思って旧校舎まで来たんだけど、よくよく考えると今日部活ない事に気が付いて帰ろうとしたときに、桐也達に会ったけど」
「だから泣いてたのか」
と、あざ笑う様に音遠が言った。明日葉は顔がほてり真っ赤になり、
「し、仕方ないでしょ!恥ずかしかったし!」
……それに、道迷ったし、とそれは言えなかった。
「でも、どうして裏口からきて表口に来てたの?」
今度は桐也が聞いた。
「ただの癖なの。部室は裏口から言った方が近いし、帰り道は表口の方が近いから」
「そうなのか」
バッサリと切った。
「それじゃあ、全員それぞれの理由があったということか」
「みたいですね」
「ようは収穫ゼロ」
「だね」
と、明日葉がつまんなそうに頭の後ろで腕を組んだ。
そろそろ暗くなってきた。電気はあるものの、年期が入っている為、電気さえつかない。そもそも、電線が繋がってるのかも不明だ。そこまではさすがに確かめようがない。普段からさほど明るくは無いため、懐中電灯を持参していた音遠は懐中電灯を点けた。形状は少し変わっており、ランタンの様な懐中電灯だ。
「でも、一日だけだとしても男女が一緒ってのは色々まずくないのか?」
と、音遠が言いだした。
「なら、一応探してみるか?」
「こんな暗い中をどうやって?懐中時計はもう無いが」
「携帯で何とかなるだろ」
携帯を取り出し明かりとして使い、前を照らした。それにつられる様にして、音遠も、携帯を取り出し前を照らした。
「それじゃあ、何かあったら呼んでくれよ」
そういい、音遠と堂島は部屋を後にした。
「うん」
「わかりました」
猫崎と羽場さんは同時に返事をした。
床はギシギシと音を立てて、旧図書室から出て行った。
一つ間をおき。
「行った?」
明日葉が言った。
識乃は自分の鞄をゴソゴソとあさり始めた。
明日葉はそれに築いたが、識乃自信は目もくれず、鞄の中をあさり続けている。
すると、何かを取り出し明日葉目がけて怒りにまかせ突進した。
「ちょっ!?」
それを明日葉はギリギリかわす。だが、明日葉を追うようにその手に持った刃物を振りまわす。
右へ左へ避け続ける。だが、時期に壁に追いつめられた。
だが、そこで明日葉の意識は幕が閉じたかのように暗転した。そこには何も無く、暗闇だけの場所だった。いつもの事だ。明日葉はナルコレプシーでよく眠ってしまう。
暗闇の中から目を覚ますと、
音遠の声がうっすらと聞こえてくる。
「……な、なんで……ど、どうなってるんだ?!……君が……殺ったのか?」
「……ボ、ボクが?……あれ?なんで、血?どうしてボクに血が?――!!」
識乃が目の前で、胸には刃物が刺さり血を流して、倒れている。
「お、おい!識乃!!どうした!おい!起きろよ」
倒れた識乃を必死に明日葉がゆする。
「猫崎が殺したんじゃないのか?」
「そんなわけないだろ!ボクがやるわけないだろ!!」
身振り手振り必死に言い訳をし誤解を解こうとする。
「そ、そうなのか?……なら、誰が」
ようやく追いついて来た桐也が息が荒くなりドアの角を掴んだ。
「……ど、どうした?――!!」
識乃に築いた。
桐也も旧図書室の中に入ってきた。
「どうなってるんだ!!……本当に死んでるのか?」
「……何で見ただけで信じるってわかるだんだお前は?!」
「少し冷静になった方がいいよ、疑心暗鬼になったらまた起きるよ」
音遠は黙った。
桐也は一度息を整え、識乃の前に片足を付き座り込んだ。
「……い、息はしてないみたいだね。心臓も動いてない。脈もだね。身体も少し冷たい。致命傷は恐らくこの刃物だろうね。死後から、それ程時間は経ってないってことだね」
と、淡々と平然として識乃の身体を触り確かめる。
「当たり前だ。オレ等が出てってからそんなに時間は立ってない」
「だね。でも、この刃物って言うかナイフかな?いや、工具?みたいな形状だね。この形……アーミーナイフの一部か?」
「アーミーナイフって確かツールナイフみたいな奴だよな」
音遠の知っている知識を掘り出した。
「まあ、一緒のものだからね。なんで、アーミーナイフの一部があるんだ?持ってきたのか?誰が?」
「知らないから」
「……まあ、そうなるよね」
腰を上げ、立ち上がった。
「でも、ここに居たのって。君だけだよね」
と、桐也がどこぞの探偵見たく、右の腰に右手を当て、明日葉の方を向いた。
「ボ、ボクじゃない!?」
「でも、君しか考えられないんだよ。明日葉さん」
明日葉は全く身の覚えもない。
「ボ、ボクは覚えてないんだ!」
「覚えてない?ショックで記憶を失ったのか?」
明日葉の顔が真っ青となり、
「で、でもこれだけは覚えてる。記憶を失う前、識乃が襲いかかって来たんだ!本当だ」
「……帰り討ち」
ボソッと小声で音遠が言う。
「……え?」
桐也が考えるのをやめ、音遠の方を向いた。
「「致命傷」「血痕」「凶器」「工具」「アーミーナイフの一部」「私物」「殺人」「計画」「失敗」「図書室」「異常な理科室」「ものづくり部」「やるせないパンだ」「開かない窓」「閉じ込められる」「窓の外の死体」「繋がらない携帯」「偶然の出会い」」
「な、なんなの?」
「「嫌がらせ」「悪口」」
「僕は巻き込まれるのは嫌なんで、これで」
と、桐也は何かを知っている様な口ぶりで図書室から出た。
「は?な、なんなんだよ!」
「「失う前の記憶」「ショック」「記憶の欠落」「消失」「元からない」「入れ替わり」「別の人格」「記憶の共有」「不可」「障害」「人格」「解離性人格障害」「二重人格」」
「な!どうしてそれを――」
――明日葉の意識はそこで途切れた。後の事は分からないまま。
『ニュース速報です』
『昨晩何者かに殺された4人の男女の死体が発見されました』
『4人は同じ学校の学生であり、交友関係は不明とのこと』
『少女には複数の外傷があり、血まみれの状態で発見された』
『その状態から警察は事件の線で捜査を進めている模様』
『――それでは、次の演目です』