√B.裏の傲慢
―2人目はね突発的殺人者なんだって―
彼女の名は羽場識乃はこの高校の二年生だ。
クラスでは人気者であり、一週間に一度は告白される。だが、今のところ一度も彼氏はいない。
ギシギシと識乃が動くごとに大きな音で床が鳴る。年期の入った建物の為、倒壊の噂もされているが、旧校舎であるものの実際は今でも使われており、理科の教材や美術の作品などが置いてあり、校舎内で出来ないものづくり部などは|旧校舎(こちら側)に来て制作している。噂の絶えないお約束の旧校舎とは違い結構な割合で生徒や教員が出入りしている。
埃や蜘蛛の巣が張り巡らされた旧校舎には不釣り合いの様な清楚で上品だ。
今日は美術の時間に使用した美術品を戻しに行く最中だ。
一階にある旧美術室にはいる。
到底綺麗とは言えないが、旧校舎内ではまだ綺麗とも呼べる場所だ。
元あった場所に美術品を返し、旧美術室を後にした。
階段を下り、廊下を曲がる。
だが、その目の先にはさっきまで見る影もなかったソレがあった。
この学校の女子制服を着ている。窓の外から覗き込むように女子生徒が、首元をロープで吊られている。
さっきまでの穏やかな表情が一変し、真っ青となり、腰を抜かした。
そして
――悲鳴を轟かせた
この旧校舎内に響き渡った。
自分の耳にもしっかり聞こえるぐらいに。
後ろの方から、その声に駆け付けた様に誰かが来た。
「ど、どうしたの?」
と、男の声だ、野太く渋い声では無く若めの声質を持ち、明るめで爽やかな青年と思しき美声だ。
識乃は放心状態となり、その男を見ている余裕もない。
「大丈夫?」
識乃から目を放すと、ようやく築いた様に愕然とした。
識乃は硬直したまあ意識が遠のいた。
次に目を覚ました時には見知らぬ場所に居た。
意識はまだ朦朧とし、うっすらと目を開く。
ズラリと並んだ本だなが広がる。
理科室でも無い、美術室でも無いそこを図書室だと確信した。
「あ。起きた?」
と、意識を失う前に来た声と同じ声だ。
この学校の男子制服のブレザーをボタンを止めず、中にVネックのニットベストを着て、上から二番目のボタンまで止めず着くずしたシャツをその中に着ている。シャツの襟に赤いネクタイを結びニットベストの中に入れている。血のように真っ赤な格子柄の指定のズボンを履いている。セパレート・ウエストバンドに向かって右側にウォレットチェーンが付いてある制服を着た、茶髪で癖毛が目立つ、目付きは丸目でイケメンの分類に入る程、整った顔立ちをした美少年だ。どこか柔らかそうで優しそうな趣があり、微笑を絶やさない。見た目からして、何でもできそうな完璧超人のオーラの様なものが滲み出ている印象だ。彼の名前は確か堂島桐也君が、識乃の目の前に居た。
「遅い起床だよ」
と、椅子に座りながら前のめりとなり、膝に右ひじを起き頬杖をした、女子制服のブレザーを着て、リボンの代わりにクロスタイをしている。ローライズ並のこのプリーツスカートで血のように真っ赤な格子柄。セパレート・ウエストバンドに向かって右側にウォレットチェーンが付いてある制服を着た、足にはルーズソックスを履いている。頭にはバッチやチェーンを付けた猫耳の耳カバー付き帽子をかぶっている。少し垂れ目気味でけだるそうな印象与える。赤茶の外はねショートヘアーの女子生徒だ。名前は猫崎明日葉だ。
「いまから、4人でこの状態を打破しようと思うんだけど、手伝ってくれないか?」
「なんのこと?」
「この旧校舎内に僕ら閉じ込められたんだよ」
「そんな!」
さらっと言う桐也君に対して識乃は驚きのあまり口を両手で押さえまた青ざめた。
「僕がた閉めたところ、裏口も、窓も開かなかったんだ」
「ど、どうしてそんな事に?!」
「僕にもわからないよ」
さっきまで、平然としていた顔が眉をひそめた。
「早くここから出たいから、私にできる事なら力になるけど、私は事情を全く知らないわ」
「今から教えるから」
と、そう言い、識乃が気を失ってから目を覚ますまでの事を教えてもらった。
「ありがとう」
「そんなことはないさ。僕らは協力しないとね」
そういい、桐也も椅子に座った。
円を描く様に時計回りに識乃、えーっと確か音遠君と明日葉と桐也君の順に座った。
「まずは、この状況をどうしようか」
まずは桐也が喋り出した。
「どうもこうも、脱出するに決まっている」
「でも、どうやって?」
この学校の男子制服のブレザーをボタンをすべて止め、襟部分を着くずしたシャツをその中に着ている。衿には赤いネクタイを結んでいる。血のように真っ赤な格子柄の指定のズボンを履いている。セパレート・ウエストバンドに向かって右側にウォレットチェーンが付いてある制服を着た、黒髪で癖毛より寝癖に近い髪を持ち、目付きは悪く三白眼気味の目であり、目の下に隈があり、やる気の無さとけだるさが見える。青空音遠君。
「ここに来るまでどこも開いてなかったらしいですね」
と、音遠君、明日葉、識乃の順に次々に口を開く。
「じ、地面を掘る?」
「だからどうやって?」
「……壁をぶち抜く?」
「そんなことしたらこの建物自体が倒壊しかねないですよ」
ことごとく音遠君の案は論破される。
「ならどうしろって言うんだ」
「だから、それを考えてるんだろ」
また桐也君に正論を言われ、渋々大人しくした。
「……では、気を取り直して。クローズド・サークルじみているらいしですが、殺人が起こる可能性はあるのですか?そうなれば本当にクローズド・サークルになってしまいます」
「真っ先にそれを言っちゃうの?」
ド直球な識乃の回答に首を傾げながら呆れた表情の明日葉ちゃんが言った。
「さあ。わからないね。相手の深層心理が読めないと、どうとも。まあ、僕的には何事もなく皆で脱出できればいいけど。人間ってものは恐ろしいからね。言葉ではそう言っても追い詰められれば何をするか分からない」
「それでは、おちおち寝ていられませんね。夜更かしはお肌の天敵ですが」
と、少ししょげた表情を浮かべた。
「まあ、それが一日で終わればだけど」
それに止めの追い打ちをかける様に明日葉が言った。
「そうだね。一刻も早く脱出できればいいけど。もしかしたらこのまま――」
遮る様に大声で、
「も、もうやめてください!!」
識乃は目を閉じ必死に耳を両手で押さえた。
「……そうだね。話を戻そうか。まずはどうやって脱出するか、だね。何かある?レディーファーストで」
桐也君が右手を出した。
そして、識乃が先陣をきる。
「そうね。ここの扉と窓本当に開かないの?」
「ああ」
「でも、今までの話を聞いて思ったんだけど、それって、桐也君しか触ってないんだよね?それっていくらでも誤魔化し様が出来たんじゃないの?」
「え?何で僕が皆を騙す必要があるのさ?」
「それもそうだよ」
少し焦る表情を浮かべた桐也君の後に椅子から前のめりになり明日葉が続いた。
首を傾げながら、
「考え過ぎなのかな?」
「そうだよ」
「まあいいけど」
と、その話はそこで終わった。
「なら次ボクね」
はいはーい、という感じで明日葉が手を上げた。
「あの旧理科室についてなんだけどさ。やっぱおかしいよね。確かに桐也の言うとおり微かにだけど嫌な臭いがしたけど。あの旧理科室は未だに準備室として使用されてるって、桐也もあの時言ってたしさ。あんなんじゃ、準備なんてどころじゃないよ。……まさか薬品でも割れたのかな?」
明日葉は虫の居所が悪い様にムスッとした。
「さすがにそれは確かめようがないね。でも、もしかしたらあの中本当にやばいかもしれない」
「まあ、ボクもあんまり深い事はわかんないんだけどさ。はい、ボクの話し終わり」
と、自分で終わらせた。
「じゃあ、僕だね。扉と窓と理科室は言われたけどまだおかしな点はあるよ」
「何なの?」
と、明日葉が聞いた。
「どうして僕らが集まったってこと」
「確かにあまり疑問には浮かばなかったけど、言われてみればそうね」
俯き右手を口に当て識乃は悩む。
「偶然にしては出来過ぎだしね」
堂島は話を続ける。
「どういう経緯でここに来たのか、教えてくれる?まずは僕からね。僕は今日の理科の準備でここに一度来てたんだ。授業が終わって築いたことなんだけど僕の携帯ストラップが無い事に気が付いて、放課後旧校舎と通った場所を探してたんだ。結局今も見つかってないんだけどね」
苦笑しながら頭を掻いた。
「それってどんなの?」
「「やるせないパンだ」っていう奴」
「んー。どれかはさすがに分かんないけど見てないな」
「私も見てないわ」
「どこ行っちゃったんだろ。本当に、まいったな。それを探している最中に旧図書室で会ったのが、ネオなんだけど」
「ネオ?」
「居たっけそんな人」
と、識乃と明日葉が顔を合わせた。
「…………喋っていい?」
「あ。音遠君のことですか。いいですよ」
と、羽場さんに優しい声で言われた。
「オレは旧図書室で本を見てたよ」
「そうなの?」
「でも、今日はあんまり見れなかったけど。堂島と悲鳴のせいで」
「ごめんなさい」
と、識乃は謝った。
「私は美術の時間の美術品を旧校舎に戻して帰ろうとしたら、出くわしたのよ。アレに」
アレと言うのは窓の外に会った死体のことだ。
「それだけ?」
識乃に対してはどこか辛口な明日葉だ。
「ボクはものづくり部に行こうと思って旧校舎まで来たんだけど、よくよく考えると今日部活ない事に気が付いて帰ろうとしたときに、桐也達に会ったけど」
「だから泣いてたのか」
と、あざ笑う様に音遠君が言った。明日葉は顔を赤く染め、
「し、仕方ないでしょ!恥ずかしかったし!」
「でも、どうして裏口からきて表口に来てたの?」
今度は桐也君が聞いた。
「ただの癖なの。部室は裏口から言った方が近いし、帰り道は表口の方が近いから」
「そうなのか」
バッサリと切った。
「それじゃあ、全員それぞれの理由があったということか」
「みたいですね」
「ようは収穫ゼロ」
「だね」
と、明日葉がつまんなそうに頭の後ろで腕を組んだ。
そろそろ暗くなってきた。電気はあるものの、年期が入っている為、電気さえつかない。そもそも、電線が繋がってるのかも不明だ。そこまではさすがに確かめようがない。普段からさほど明るくは無いため、懐中電灯を持参していた音遠君は懐中電灯を点けた。形状は少し変わっており、ランタンの様な懐中電灯だ。
「でも、一日だけだとしても男女が一緒ってのは色々まずくないのか?」
と、音遠君が言いだした。
「なら、一応探してみるか?」
「こんな暗い中をどうやって?懐中時計はもう無いが」
「携帯で何とかなるだろ」
携帯を取り出し明かりとして使い、前を照らした。それにつられる様にして、音遠も、携帯を取り出し前を照らした。
「それじゃあ、何かあったら呼んでくれよ」
そういい、音遠と堂島は部屋を後にした。
「うん」
「わかりました」
明日葉と識乃は同時に返事をした。
床はギシギシと音を立てて、旧図書室から出て行った。
一つ間をおき。
「行った?」
明日葉が言った。
識乃は自分の鞄をゴソゴソとあさり始めた。
すると、何かを取り出し明日葉目がけて怒りにまかせ突進した。
「ちょっ!?」
それを明日葉はギリギリかわす。だが、明日葉を追うようにその手に持った刃物を振りまわす。
一向に当たらない。確かに運動神経は明日葉より識乃は劣っている。
「…………うざってぇーな!!」
と、急に明日葉の口調が変わった。さっきまで避けていた明日葉と一転し、好戦的の様に前に踏みこんできた。
識乃が持つ、刃物を奪い取り、識乃を倒した。
――叫ぶ
そこからは何も覚えていない。
『ニュース速報です』
『昨晩何者かに殺された4人の男女の死体が発見されました』
『4人は同じ学校の学生であり、交友関係は不明とのこと』
『少女の胸部に刃物が刺さった状態で発見された』
『その状態から警察は事件の線で捜査を進めている模様』
『――それでは、次の演目です』