√A.怠惰の憂鬱
―1人目はね心理殺人者なんだって―
彼の名は青空音遠はこの高校の二年生だ。
根暗で暗い雰囲気だが唯一の最近の楽しみは旧校舎に来ることだ。
そもそも、オカルト系が好きという事もあるが、本当の目当ては旧校舎2階の図書館だ。処分もされず今も残っている。
ここの本をあさるのが最近の日課だ。たまに思わぬものと出会う事もある、それも楽しみの一つであるが、オレが気になるのはやっぱりこれだ。
「オカルト集シリーズ」オカルトモノを集めた作品だ。№01から№50まであるらしいがまだ大半が見つかってないのが現状だ。
そもそも、ここにあるのかさえ怪しい。
ギシギシと音遠が動くごとに大きな音で床が鳴る。年期の入った建物の為、倒壊の噂もされているが、旧校舎であるものの実際は今でも使われており、理科の教材や美術の作品などが置いてあり、校舎内で出来ないものづくり部などは|旧校舎(こちら側)に来て制作している。噂の絶えないお約束の旧校舎とは違い結構な割合で生徒や教員が出入りしている。
ギシギシという音が遠くの方から近付いて来る。
「……無いなーどこに落としたんだろう?」
と、男の声だ、野太く渋い声では無く若めの声質を持ち、明るめの青年と思しき美声だ。しかも、この声は聞き覚えのある声だ。
聞き覚えのある声の持ち主を見る為に、一度部屋を出た。するとそこには、紛れもなく音遠の(一応)友達のあいつが奴がいた。
この学校の男子制服のブレザーをボタンを止めず、中にVネックのニットベストを着て、上から二番目のボタンまで止めず着くずしたシャツをその中に着ている。シャツの襟に赤いネクタイを結びニットベストの中に入れている。血のように真っ赤な格子柄の指定のズボンを履いている。セパレート・ウエストバンドに向かって右側にウォレットチェーンが付いてある制服を着た、茶髪で癖毛が目立つ、目付きは丸目でイケメンの分類に入る程、整った顔立ちをした美少年だ。どこか柔らかそうで優しそうな趣があり、微笑を絶やさない。見た目からして、何でもできそうな完璧超人のオーラの様なものが滲み出ているっていうのが学校内での外観印象だ。実際は物凄く趣味が変であり、人を見透かした様な目を持ち、人を観察することに秀でている。どんな時にでも冷静心を保つ精神力を持ち、イケメンの分類でも全く馬鹿では無く常にテストでは学年上位を死守し続けている。要領も良く、軽率な態度が目立ち人を茶化すことが多く、逆撫ですることもある。その上演技力が高く大抵の男女は騙される事さえ分からないほど芸達者であり、性格が悪いとも言える。そいつの名は堂島桐也。こいつがオレを勝手に友達に入れている張本人だ。
覗き込んだオレに築いたのか、あたかも平然にいつもの様になられなれしい口調で話しかけられた。
「あ。ネオ」
音遠をネオと呼び始めた人物でもある。
「どうしたんだい?こんなところで会うなんて?」
「お前に言われたくない」
「え?あ、うん。そうかもね」
少し、戸惑う拍子を見せたが、一つ間を置き、もう一度話しかけられた。
「でさ、「やるせないパンだ」のキーホルダー見なかった?」
やるせないパンだ、とはその名の通り横たわったパンを食べるパンダのグッズである。そこまでは名前を含み可愛いものの、ビジュアルがいまいち――というよりこれは無い。と、オレは断言できる。横たわった三等身弱のパンダが横に横たわりこちらを向いて口から血をたらし、パンダだが目つきが悪い。黒い斑点模様はあるものの目の下には大量の隈があり鋭い目つきで見てくる。これを可愛いという堂島もどうかと思う。それについて聞いたところオレに似ていると言われたことがあるが、オレは断じて否定した。昔を辿れば、ネコタマンと呼ばれる猫は許せるものの妙にグログロしい幽霊のストラップや、やる木梨と呼ばれる梨の顔だけの何それと言われそうな微妙なビジュアルが可愛いと言って集めていた。だが実際商売的には失敗だったらしく直ぐに消えていった。この様な趣味を持つ事はクラスのメンバーは知っている為に、残念なイケメンが定着しかけているのが現状。
「あれか……?オレは見てないが、ここで落としたのか?」
「そう見たいなんだよ。……困ったな……」
と、遠回しに助けてくれと言っている様なそぶりを見せつつも、ソッポを向き右手で腰を押さえ左手で頭を掻いた。
「見てないんならいいよ」
それじゃあ、と音遠を通り過ぎていった。
相変わらずよくわからない趣味をしている。そんな、よくわからない奴だ。
再度、旧図書室に戻ろうとすると、
――悲鳴が轟いた。
校舎内の遠くの方から聞こえたが、あまり大広間というわけではないため、声が分散されず反射し奥の声が聞こえたのだろう。その声はさっき、堂島が向かった場所だった。
さすがに、あんな悲鳴を聞いたため図書室に戻るわけにもいかない。そう思った音遠はまた、図書室を後にして音の聞こえた方に走ると色々まずいのでなるべく早歩きで向かった。
そこには一人の女子生徒がいた。一緒にもう一人いた。それは紛れもなくさっき会った堂島だ。
その後ろと言うか、窓の外には、サイドテールの女性が首を吊った状態で死んでいると思われる。
女子生徒は目を見開き、死んだ魚の様な目になり、腰が抜けた様に両足の間にお尻を落として座っている。この学校の女子生徒のブレザーを着て、リボンを襟に結んでいる。制服の下にニットカーティガンを着て、その下にシャツを着ている。ローライズ並の短さのプリーツスカートで血のように真っ赤な格子柄。セパレート・ウエストバンドに向かって左側にウォレットチェーンが付いてある制服を着た、足にはタイツを履いている。目つきは大きな双眸でややつり目気味で、黒髪かつロングヘアーで、後ろ髪も切りそろえている 姫カットと呼ばれる髪形だ。その髪を両側面から後頭部にかけてまとめ、後ろで1つに赤いリボンで結んでいる。クラス内でも人気の者でモテている女子生徒の羽場識乃さんだ。同級生だが何故か無意識に「さん」付けしてしまう程の人だ。
堂島は制服のズボンから派手なオレンジ色の携帯電話を取り出し、二つ折りの全面がオレンジ色の何処かレトロ感がある携帯を開き、触り始めたがその指が急に止まった。
「…………っ!」
と、驚きと同時に唇を噛んだ。
「ど、どうしたんだ?」
「……あ、いや。……まあいいか、携帯持っているか?」
ああ、と言い、スクールバックから取り出す。音遠は堂島と違いフューチャーフォンではなくスマホだ。そのスマホを起動させた。
「どうだ?繋がるか?」
顔面上のアンテナを見るが、一つもついてない。というか圏外だ。一応もしかしたと思って、電話をかけてみるが、当たり前に繋がらなかった。
「……無理みたいだ」
「そうか……窓の外には死体……繋がらない電話……」
小声でブツブツと言うと、
「要するにっ!」
歯を食いしばり、時計回りに一回転しその勢いで踵でガラスを蹴ったが、ヒビ一つはいらなかった。
「何故に踵落とし??」
「だって突き指したくないからね」
「そ、そうなのか??」
と、音遠は首を傾げた。
「……でも、やっぱりか。これで分かった事が少し増えたね」
一人だけ納得ようだが、音遠にはさっぱり分からなかった。
「どういうことだよ」
「閉じ込められたんだよ」
音遠は呆然とする。
「ほ、他の窓も駄目なのか」
「……でも、これは僕の推測でしかないけどね。全部のガラスを見たわけじゃないから」
親指を唇に当て悩んでいる。嘘臭い同時にだが、今回は何故か信用出来る様な気もしなくもないが、音遠のプライドが許さなかった。
「手分けし――」
「それは危険だと思うよ」
と、音遠を遮って割り込んできた。
「現状、固まっていた方が安全だと思うよ。今、この旧校舎がどうなっているのか分からないからね」
御尤もだ。
「ならどうする?」
「助けを呼びようがないからね」
「分かりきってることだろ?」
んー、と悩みこむが、結論は出なかったようだ。
「安全そうな部屋にいた方がいいかもしれないけど……まあ、ここに居てもな。部屋と出口を探すぞ」
と、放心状態の羽場さんを堂島が背中に背負い走り出した。ギシギシと物凄い音を立てている。
「お、おい!あんま走るな、落ちたらどうする」
「その時はその時だよ」
いいのかよそれで、と内心音遠はそう思うが、声には出さなかった。
走り回ること数分が経過しただろうか?廊下の突き当たりを曲がろうとするが、何かに築いた様で音遠の前に手を出して動きを止めた。こういう時のあいつはどこか頼もしい。
「どうかしたか?」
「聞こえないか」
すると、別のところからギシギシと足音が聞こえてくる。
だ、だれだよ、いっいったい?!音遠は目がグルグルとし意識が遠のきそうだ。だったが、
「……うっううっ」
と、いまにも泣きだしそうなその声はこちらに近づいてくる。なんだか怖さが半減した。
「ど、どこだよ~ここ?」
弱々しいその声の人物は角を曲がってきた。
「ひゃっ!?」
その角を曲がった直後に堂島達が居た為に驚きのあまり、尻もちを付いた。
その身体はガクガクと震えている。
「お、落ち着いて、ね?」
と、堂島は子供をあやす様にしゃがみ込んだ。
羽場さんと同様に女子制服のブレザーを着て、リボンの代わりにクロスタイをしている。ローライズ並のこのプリーツスカートで血のように真っ赤な格子柄。セパレート・ウエストバンドに向かって右側にウォレットチェーンが付いてある制服を着た、足にはルーズソックスを履いている。頭にはバッチやチェーンを付けた猫耳の耳カバー付き帽子をかぶっている。少し垂れ目気味でけだるそうな印象与える。赤茶の外はねショートヘアーの女子生徒だ。名前は確か猫崎明日葉だ。彼女も小柄な体格ながらも列記とした同級生だ。
「ところで明日葉さん、外に出られる出口見なかった?」
「ぼ、ボクは、そこから入ってきたけど」
と、さっき来た場所を差した。
「裏口だね。……行ってみようか」
と、堂島はまた走り出した。
よくそんなに体力持つな、と音遠は内心ではそう思った。
その、裏口の前まで来ると、ドアノブ式の扉が合った。
堂島はそのドアノブを握り、がちゃがちゃと引いたり押したりするが、開かなかった。
「……やっぱりだめか」
「えっ?そんなっ?!ボクが来た時は確かに開いてたのに」
と、急に出てきた。急に背後に立たれたため焦った。
「脅かすなよ」
「これじゃあ、本当にクローズド・サークルのなりかけみたいじゃないかっ!」
と、堂島が苦い顔で言った。
「く、くろーずど・さーくる?」
「オカルトには無いの?」
と、聞かれたが、
「オレが知ってるのには無いな」
と、返答した。そうか、と一呼吸置き、
「クローズド・サークルまたはClosed Circleって言われている、何らかの事情で外界との往来が断たれた状況、あるいはそうした状況下でおこる事件を扱った作品を指したミステリ用語の一つだね、まさしく今がその状況に近いんだよ。まあ、この中では事件は起こってないけど、その外では起こってるみたいだけどね」
「どういうことだよ。オカルトならまだしも「ミステリー」って何でそんな事になってるんだよ」
「僕に聞かれても知らないよ。まあ、それよりも、どうやって脱出するよりも、どこで考えるかだよ」
「どうしてだ」
「こんな所で立ち話するのかい?僕は嫌だよ」
「……わかったよ」
あまり乗り気ではないが、渋々付いていくことにした。
探し回る。
と、旧校舎にある元教室を探す。
「ここは?」
一指し指で音遠が差したのは旧理科室だ。
薬品などが管理されている教室だ。今でも準備室として使われている。
「……ここはかなりまずいよ」
と、口元を制服の袖で隠す。
「危険物類が充満してる。微かだけど漏れだしてる。設備的には申し分ないけどここは離れた方がいいよ」
と、すぐさまその場を離れた。
「……でも、おかしいな。理科準備室として使われてるはずなのに、こんな状態になってるなんて」
堂島は鼻が敏感なのだろうか?そう、音遠は思った。
「……なら、旧図書室は?あそこなら問題ないよね?」
音遠はまた提案した。
「行ってみるか」
と旧図書室に向かった。
埃だらけなのが何分問題だが、広々とした空間である。
「ここなら問題ないと思うよ」
なんで、こんな事になったんだよ、オレはただ本を見てただけなのに、こんな所に閉じ込められる羽目になって、心の中で愚痴をこぼす。
埃を払い四つの椅子を座れるようにした。そこには円を描く様に時計回りに音遠、猫崎、堂島、で、放心状態だったがようやく動けるようになった羽場さんの順に座った。
「まずは、この状況をどうしようか」
まずは堂島が喋り出した。
「どうもこうも、脱出するに決まっている」
「でも、どうやって?」
「ここに来るまでどこも開いてなかったらしいですね」
と、音遠、猫崎、羽場さんの順に次々に口を開く。
「じ、地面を掘る?」
「どうやって?」
「……壁をぶち抜く?」
「そんなことしたらこの建物自体が倒壊しかねないですよ」
ことごとく音遠の案は論破される。
「ならどうしろって言うんだ」
「だから、それを考えてるんだろ」
また堂島に正論を言われた。渋々大人しくした。
「……では、気を取り直して。クローズド・サークルじみているらいしですが、殺人が起こる可能性はあるのですか?そうなれば本当にクローズド・サークルになってしまいます」
「真っ先にそれを言っちゃうの?」
ド直球な羽場さんの回答に首を傾げながら呆れた表情の猫崎が言った。
「さあ。わからないね。相手の深層心理が読めないと、どうとも。まあ、僕的には何事もなく皆で脱出できればいいけど。人間ってものは恐ろしいからね。言葉ではそう言っても追い詰められれば何をするか分からない」
お前がそれを言うか、と突っ込みたくなる気持ちを必死に押さえた。
「それでは、おちおち寝ていられませんね。夜更かしはお肌の天敵ですが」
と、少ししょげた表情を浮かべた。
「まあ、それが一日で終わればだけど」
それに止めの追い打ちをかける様に猫崎が言った。
「そうだね。一刻も早く脱出できればいいけど。もしかしたらこのまま――」
遮る様に大声で、
「も、もうやめてください!!」
羽場さんは目を閉じ必死に耳を両手で押さえた。
「……そうだね。話を戻そうか。まずはどうやって脱出するか、だね。何かある?レディーファーストで」
堂島が右手を出した。
そして、羽場さんが先陣をきる。
「そうね。ここの扉と窓本当に開かないの?」
「ああ」
「でも、今までの話を聞いて思ったんだけど、それって、桐也君しか触ってないんだよね?それっていくらでも誤魔化し様が出来たんじゃないの?」
「え?何で僕が皆を騙す必要があるのさ?」
「それもそうだよ」
少し焦る表情を浮かべた堂島の後に椅子から前のめりになり猫崎が続いた。
首を傾げながら、
「考え過ぎなのかな?」
「そうだよ」
「まあいいけど」
と、その話はそこで終わった。
「なら次ボクね」
はいはーい、という感じで猫崎が手を上げた。
「あの旧理科室についてなんだけどさ。やっぱおかしいよね。確かに桐也の言うとおり微かにだけど嫌な臭いがしたけど。あの旧理科室は未だに準備室として使用されてるって、桐也もあの時言ってたしさ。あんなんじゃ、準備なんてどころじゃないよ。……まさか薬品でも割れたのかな?」
ムスッとした。
「さすがにそれは確かめようがないね。でも、もしかしたらあの中本当にやばいかもしれない」
「まあ、ボクもあんまり深い事はわかんないんだけどさ。はい、ボクの話し終わり」
と、自分で終わらせた。
「じゃあ、僕だね。扉と窓と理科室は言われたけどまだおかしな点はあるよ」
「何なの?」
と、猫崎が聞いた。
「どうして僕らが集まったってこと」
「確かにあまり疑問には浮かばなかったけど、言われてみればそうね」
俯き右手を口に当て羽場さんは悩む。
「偶然にしては出来過ぎだしね」
堂島は話を続ける。
「どういう経緯でここに来たのか、教えてくれる?まずは僕からね。僕は今日の理科の準備でここに一度来てたんだ。授業が終わって築いたことなんだけど僕の携帯ストラップが無い事に気が付いて、放課後旧校舎と通った場所を探してたんだ。結局今も見つかってないんだけどね」
苦笑しながら頭を掻いた。
「それってどんなの?」
「「やるせないパンだ」っていう奴」
「んー。どれかはさすがに分かんないけど見てないな」
「私も見てないわ」
「どこ行っちゃったんだろ。本当に、まいったな。それを探している最中に旧図書室で会ったのが、ネオなんだけど」
「ネオ?」
「居たっけそんな人」
と、羽場さんと猫崎が顔を合わせた。
「…………喋っていい?」
「あ。音遠君のことですか。いいですよ」
と、羽場さんに優しい声で言われた。
「オレは旧図書室で本を見てたよ」
「そうなの?」
「でも、今日はあんまり見れなかったけど。堂島と悲鳴のせいで」
「ごめんなさい」
と、羽場さんが謝った。
「私は美術の時間の美術品を旧校舎に戻して帰ろうとしたら、出くわしたのよ。アレに」
アレと言うのは多分窓の外に会った死体だろう。
「それだけ?」
羽場さんに対してはどこか辛口な猫崎だ。
「ボクはものづくり部に行こうと思って旧校舎まで来たんだけど、よくよく考えると今日部活ない事に気が付いて帰ろうとしたときに、桐也達に会ったけど」
「だから泣いてたのか」
と、あざ笑う様に音遠が言った。猫崎は顔を赤く染め、
「し、仕方ないでしょ!恥ずかしかったし!」
「でも、どうして裏口からきて表口に来てたの?」
今度は堂島が聞いた。
「ただの癖なの。部室は裏口から言った方が近いし、帰り道は表口の方が近いから」
「そうなのか」
バッサリと切った。
「それじゃあ、全員それぞれの理由があったということか」
「みたいですね」
「ようは収穫ゼロ」
「だね」
と、猫崎がつまんなそうに頭の後ろで腕を組んだ。
そろそろ暗くなってきた。電気はあるものの、年期が入っている為、電気さえつかない。そもそも、電線が繋がってるのかも不明だ。そこまではさすがに確かめようがない。普段からさほど明るくは無いため、懐中電灯を持参していた音遠は懐中電灯を点けた。形状は少し変わっており、ランタンの様な懐中電灯だ。
「でも、一日だけだとしても男女が一緒ってのは色々まずくないのか?」
と、音遠が言いだした。
「なら、一応探してみるか?」
「こんな暗い中をどうやって?懐中時計はもう無いが」
「携帯で何とかなるだろ」
携帯を取り出し明かりとして使い、前を照らした。それにつられる様にして、音遠も、携帯を取り出し前を照らした。
「それじゃあ、何かあったら呼んでくれよ」
そういい、音遠と堂島は部屋を後にした。
「うん」
「わかりました」
猫崎と羽場さんは同時に返事をした。
床はギシギシと音を立てる。明かりは二つの携帯の小さな明かりしかないため、かなり暗い。
「……やっぱり暗いな」
「なら。引き返すか?」
……気のせいか?何か様子がおかしい、そう思った。なんの根拠もない、曖昧でしかない。いつもの嫌がらせ的な言動もなく、大人しい。顔も、どこか苦い表情を浮かべている。
「どうかしたのか?」
「ん?いや。何も無いけど?」
空元気の様な微笑を浮かべる。
「そうなのか?いつもと雰囲気が違う気がするが……」
「そう?こんなものだと思うけど」
首を傾げた。
――女の悲鳴が轟く
その声がした方を向いた。そっちは、音遠達が来た方向からだ。
「あっちって!」
と、音遠が言いながら、堂島を残し一人で引き返した。
旧図書室に入るとそこには、
――彼女がぐったりとしている
「…………っ!?」
音遠は声も出なかった。
羽場さんが、倒れている。
胸には刃物が刺さり、血を流している。その羽場さんの前に座り込んだ、猫崎が居る。
「……な、なんで……ど、どうなってるんだ?!……君が……殺ったのか?」
「……ボ、ボクが?……あれ?なんで、血?どうしてボクに血が?――!!お、おい!識乃!!どうした!おい!起きろよ」
倒れた羽場さんを猫崎がゆする。
「猫崎が殺したんじゃないのか?」
「そんなわけないだろ!ボクがやるわけないだろ!!」
身振り手振り必死に言い訳をし誤解を解こうとする。
「そ、そうなのか?……なら、誰が」
ようやく追いついて来た堂島が息が荒くなりドアの角を掴んだ。
「……ど、どうした?――!!」
羽場さんに築いた。
堂島も旧図書室の中に入ってきた。
「どうなってるんだ!!……本当に死んでるのか?」
「……何で見ただけで信じるってわかるだんだお前は?!」
「少し冷静になった方がいいよ、疑心暗鬼になったらまた起きるよ」
音遠は黙った。
堂島は一度息を整え、羽場さんの前に片足を付き座り込んだ。
「……い、息はしてないみたいだね。心臓も動いてない。脈もだね。身体も少し冷たい。致命傷は恐らくこの刃物だろうね。死後から、それ程時間は経ってないってことだね」
と、淡々と羽場さんの身体を触り確かめる。
「当たり前だ。オレ等が出てってからそんなに時間は立ってない」
「だね。でも、この刃物って言うかナイフかな?いや、工具?みたいな形状だね。この形……アーミーナイフの一部か?」
「アーミーナイフって確かツールナイフみたいな奴だよな」
音遠の知っている知識を掘り出した。
「まあ、一緒のものだからね。なんで、アーミーナイフの一部があるんだ?持ってきたのか?誰が?」
「知らないから」
「……まあ、そうなるよね」
腰を上げ、立ち上がった。
「でも、ここに居たのって。君だけだよね」
と、右の腰に右手を当て、猫崎の方を向いた。
「ボ、ボクじゃない!?」
「でも、君しか考えられないんだよ。明日葉さん」
犯人はお前だ、といかにも言いそうな探偵ものを思い出す台詞だ。
「ボ、ボクは覚えてないんだ!」
「覚えてない?ショックで記憶を失ったのか?」
猫崎の顔が真っ青となり、
「で、でもこれだけは覚えてる。記憶を失う前、識乃が襲いかかって来たんだ!本当だ」
「……帰り討ち」
ボソッと小声で音遠が言う。
「……え?」
堂島が考えるのをやめ、音遠の方を向いた。
「「致命傷」「血痕」「凶器」「工具」「アーミーナイフの一部」「私物」「殺人」「計画」「失敗」「図書室」「異常な理科室」「ものづくり部」「やるせないパンだ」「開かない窓」「閉じ込められる」「窓の外の死体」「繋がらない携帯」「偶然の出会い」」
「な、なんなの?」
「「嫌がらせ」「悪口」」
「僕も死にたくないからね、これで」
と、堂島は何かを知っている様な口ぶりで図書室から出た。
「は?な、なんなんだよ!」
「「失う前の記憶」「ショック」「記憶の欠落」「消失」「元からない」「入れ替わり」「別の人格」「記憶の共有」「不可」「障害」「人格」「解離性人格障害」「二重人格」」
「な!どうしてそれを。――な~んて言うと思ったのか?」
猫崎が急に豹変した。だが、音遠はそのまま続けた。
「「10分もたたない」「帰り道」」
――音遠の意識はいつの間にか遠のいた。
それは、電源を切られた機械のように、唐突に、一瞬に。
『ニュース速報です』
『本日何者かに殺された4人の男女の死体が発見されました』
『4人は同じ学校の学生であり、交友関係は不明とのこと』
『少年の真下には一冊の本が落ちており、片腕となり椅子に縛られた状態で発見された』
『その状態から警察は事件の線で捜査を進めている模様』
『――それでは、次の演目です』