異聞・シンデレラ
コンセプトは『シンデレラの家族にまともな人間を加えてみた』。
遠い昔、あるところにシンデレラという美しく優しい少女がいました。
彼女の家は裕福でしたが悲しいことに彼女の母親は早くに亡くなっていました。母親が死んでからはシンデレラは父親と二人で暮らしていましたがある日何をとち狂ったのか父親が後妻を迎えました。
母を失ったシンデレラのためなのかそれともただ単に我慢が出来なかったのかは知りませんがとにかくシンデレラに家族が増えました。
それからしばらくして父親は継母にシンデレラのことを頼むと息を引き取りました。
しかし人の心とは弱いもの。継母は遺された財産に目がくらみ次第に自分の娘を跡取りにしたいと思うようになりました。
しかしそうなると正式な跡取り娘であるシンデレラが邪魔です。継母には三人の娘がいますが皆連れ子なので相続権などないのです。
継母はシンデレラに辛く当たるようになりました。そんなことをしてもなんにもなりませんが鬱憤をシンデレラにぶつけて晴らすことにしたのです。
しばらくして長女と三女もシンデレラに辛く当たるようになりました。彼女達の行動は継母に流された部分もありますが彼女達もこの家に来るまでは決して裕福とは言えない暮らしをしていたので恵まれた育ちのシンデレラを妬んでいたのです。
しかし次女だけはシンデレラをいじめることはありませんでした。彼女はシンデレラが掃除を押し付けられればそれを手伝い、まともな食事を与えられなければ自分の食事と交換し、寝床を追い出されればこっそり自分の寝床に招き一緒に眠りました。
ある日シンデレラは次女に聞きました。
「お姉様、貴女はどうして私に優しくしてくださるのですか?」
それに対して次女はこう答えました。
「え? だっていじめカッコ悪いじゃない。 それに私って基本貧乏性なのよねー。 だからって訳じゃないけど今の暮らしに馴染めないから嫉妬する理由もないし何よりシンデレラ可愛いからね! 可愛い妹を愛でるのは姉の正当な権利よ!」
とりあえずシンデレラは次女が自分の味方であることだけは理解しました。
そんなある日のこと。お城から舞踏会の招待状が届きました。王子が花嫁探しのために舞踏会を開くとのことです。
「もしかすると王子様のお嫁さんになれるかも」
「いいえ、もしかするとじゃなくて必ずお嫁さんになるのよ」
そんな感じに長女と三女は大はしゃぎし継母はそんな娘達のためにドレスを用意しました。
ですがシンデレラには留守番するように言いつけました。はっきり言ってただの嫌がらせです。
さて、一方結婚はできれば恋愛結婚したい派の次女はまったくはしゃいでいませんでした。むしろめんどくせえとか思っていました。
そんな時、シンデレラが泣きながら次女の部屋に入ってきました。
「どうしたのシンデレラ?」
シンデレラは継母に舞踏会に行くことを許されず留守番を言いつけられたことを話しました。それを聞いた次女は「あの腐れババア……」と怒りました。
そこで次女は自分のドレスをシンデレラにあげることにしました。
「シンデレラ、私のドレス着て舞踏会行きなよ」
「えっ、でもそうしたらお姉様が……」
「いいのよ。 別に王子様に興味ある訳じゃないしぶっちゃけめんど……こほん、私よりシンデレラが行った方が私も嬉しいわ」
そんな感じでシンデレラを押しきると次女はドレスをシンデレラ用に手直ししました。そして自分に出来る限り綺麗にドレスを飾り付けました。
しかし靴だけはそうはいきません。この時代の靴は安物ならともかく舞踏会に履いていく靴となるとほとんどオーダーメイドで貸し借りが難しいのです。だからといってサイズの合わない靴を履けば靴づれしてダンスどころではありません。
それにお城に行くには馬車も必要です。次女はどうしたものかと悩みました。
その時どこからともなく声が聞こえてきました。
「それなら私が助けてあげましょう」
「……? 誰?」
シンデレラと次女の目の前に魔法使いのお婆さんが現れました。
「貴女たちはいつも仕事を頑張る良い子ですね。 ごほうびに困っていることを私の魔法でなんとかしてあげましょう」
「いや突然そんなこと言われても、その、困る」
次女は突然降って湧いたファンタジー展開に困惑気味でしたがシンデレラは驚きこそすれあっさり受け入れました。次女はシンデレラは大物になると確信しました。
シンデレラは今足りないものをお婆さんに伝えました。
「ようし、私に任せなさい」
そう言うと魔法使いのお婆さんはカボチャを魔法の杖で叩きました。するとカボチャはどんどん大きくなり黄金の馬車になりました。
続いてネズミに魔法の杖で触るとそのネズミたちは立派な白馬に変わりました。
「質量保存の法則とはなんだったのかしら」
次女は未だ混乱気味です。
「さてっと、あとは靴ね」
「お婆さん、できればお姉様の靴を履いて行きたいわ」
お婆さんに頼めばとても素晴らしい靴を用意してくれたでしょう。ですがシンデレラは良くしてくれた姉の気持ちを大事にしたかったのです。
「なら、シンデレラが履けるようにその靴に魔法をかけてあげましょう」
そこにようやく混乱から回復した次女が口を挟みました。
「どうせだったらその靴シンデレラ以外に履けないようにしてよ。 盗難防止になるから。 あ、私のお願いはそれでいいわ」
お婆さんは頷くと靴にうんと力を込めて魔法をかけました。次女の思いやりに感動したのです。
「これで準備はバッチリね。 楽しんできなさいシンデレラ」
「靴以外にかけた魔法は十二時までしか続かないからそれを忘れないでね」
「ありがとうお姉様。 ありがとうお婆さん。 行ってきます」
シンデレラは馬車に乗ってお城に出かけて行きました。あとには次女と魔法使いのお婆さんだけが残されました。
帰る前にお婆さんは次女に聞きました。
「本当に自分のために願い事を使わなくていいのかい?」
「いいのよ。 私、幸せは自分の力で掴みとるって決めてるの」
次女は無駄に男前でした。でもそこで次女はあることを思い付きました。
「あ、こういうのはどうかしら―――」
さて、お城の大広間にシンデレラが現れると、そのあまりの美しさにあたりはシーンと静まり返りました。
それに気づいた王子様がシンデレラの前に進み出ました。
「僕と踊っていただけませんか?」
そうして二人は踊り始めました。王子様は一時も手を離しません。
楽しい時間はあっという間に過ぎました。気がつくともうすぐ十二時です。
「あっ、いけない。 もう帰らないと。 ……おやすみなさい王子様」
シンデレラは丁寧におじぎをすると急いで大広間を出ていきました。その際慌てた拍子に靴が片方脱げてしまいましたが取りに行く時間はありません。
シンデレラは後ろ髪を引かれながらも馬車に飛び乗ると急いで家に帰りました。
シンデレラの後を追ってきた王子様は落ちていた靴を拾うと王様に言いました。
「僕はこの靴の持ち主の娘と結婚します」
シンデレラが家に帰って来たのは十二時直前。魔法が解けるギリギリのところでした。
次女は余程楽しかったんだなと満足げに頷きましたが馬車から降りてきたシンデレラの顔色は優れません。
次女がどうしたのかと聞くと靴を片方落として来てしまったのだとシンデレラは申し訳なさそうに言いました。ですが次女はそんなこと気にしません。
「それくらい別にいいわよ。 それよりも今日は楽しかったんでしょ? 話を聞かせてちょうだい」
その日次女はシンデレラが楽しそうにする話を夜遅くまで聞いたのでした。
次の日からお城の使いが国中を駆け回り手がかりの靴にピッタリ合う女の人探しました。
不思議なことにその靴は誰の足にも入らずお城の使いを困惑させましたがそれでもお城の使いは持ち主を探し続けました。
お城の使いはシンデレラの家にもやって来ました。
「さあ娘たち、この靴に足が入ればあなたたちは王子様のお嫁さんよ」
「はい、お母様」
長女と三女は靴に足を押し込もうとしましたがどう頑張っても靴に入りません。
その時シンデレラを連れた次女が現れました。それを見たお城の使いは二人に言います。
「お嬢さん方、貴女たちもためしてみませんか?」
次女はシンデレラを前に押し出して言いました。
「いや私舞踏会行ってないんで。 それよりこの子にためさせてあげてください」
それを聞いた長女と三女は大笑いしました。
「何をバカな事を言ってるのよ」
「そうよ、あたし達にもはいらないのに……」
「うっさい黙れ」
次女は長女と三女を一喝し黙らせました。
次女に促されたシンデレラが靴を履いてみると魔法がかかった靴はシンデレラの足にピッタリでした。
みんなは一人を除き驚きのあまり口もきけません。次女はその影でガッツポーズしてました。
するとそこにあの魔法使いのお婆さんが現れました。
「これはおまけだよ」
お婆さんが魔法の杖を一振りするとシンデレラはたちまち昨日の美しい姿に変わりました。
「あっ、あのシンデレラが!?」
継母と長女と三女はヘナヘナと腰を抜かしてしまいました。
「さあ、未来のお姫様。 どうぞこちらへ。 王子様と王様がお待ちです」
シンデレラは一歩足を踏み出しかけ、次女を見ました。次女はにっこりと笑います。
「行ってらっしゃい。 幸せになってねシンデレラ」
「はい、お姉様」
それからシンデレラは王子様と結婚していつまでも幸せに暮らしました。
おしまい
「あ、そういえば私魔法使いのお婆さんの弟子にしてもらって魔女になったの。そこんとこよろしく」
「お、お姉様!?」
最後に次女が爆弾を落としたりしましたがそれぱ別のお話。
フリーダムファイター次女。
完全なる自己満足ですので細かいところは気にしないでください。
というかこれ一応二次創作なのかね?一応キーワードに入れたけど。