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7 湖

日光に照らされて湖面が輝く。

白い波が寄せては返し、波の音が優しい音を奏でる。

俺たち二人は自然と歓声を上げていた。

「おお」

「わあ、きれい…」

「すごい大きさだ」

「おそらくこの湖はブラックシー。大陸の中心部に位置していて、大陸でもっとも有名な、でも見た者がほとんどいないと言われる湖です。ああ、ブラックシーを見ることができるなんて、思ってもみませんでした」

「磯の香りがするな」

「ブラックシーの水は塩辛いことでも有名です」

なるほど塩水湖か。周囲の高山の雪解け水が川になって全部この湖に注ぎ込んでいるのだろう。水分が蒸発して塩が残るというわけだ。

「魚がいそうだ」

「お兄様、シア、焼いたお魚が食べたいです」

たしかにさっきは肉を食べ逃したからな。

「ようし、待ってろ、大物を狩ってきてやる」

「釣るのではなく、潜って捕まえるのですか?」

「ああ、修練にもなるからな」

「私はあの川の河口でたき火を起こして待っています。今度こそ、頑張ってくださいね」

「わかった。腹ペコ王女が満足するような、絶品を狩ってきてやろう」

言うやいなや坂を駆け下り始める俺。

「うー、腹ペコ王女とかひどいです。確かに腹ペコですけど、ひどいです」

背に降りかかるそんな声を耳にして、笑みが浮かんだ。


道なりに走ってきたら、フェリシアが指差したのとは別の小さな川の河口に着いた。

本当にたくさんの川が流れ込んでいるのだな。

そこから湖に入ろうとして、海パンがないことに気付く。

うーん、服を着て泳ぐわけにもいかない。

まあ誰も見ていないし、仕方がないか。

シャツやトランクスまで全部脱いだ。

ついでに良い機会だからと川の水で洗って木の枝にかける。

この日差しなら数十分で乾くだろう。

よし行くか。

遠浅の湖に一歩一歩踏み入っていった。


ク、目が痛い。ゴーグルがほしいな。

潜水して魚を探していた俺は、目の痛さに耐えかねて水面に浮上した。

沖に出てから何分経っただろう。

まだ魚は一匹も取れない。

というかいまだ魚影を見ていない。

フェリシアには大口を叩いたが、現実は厳しいな。

やみくもに泳いでも魚は狩れない。

やはり普通に釣りをするべきだったか。

落ち込んでいたが、ふと見ると、近くに鳥の大群が集まっているのが見える。

もしかしたら、あの下に魚群がいるかも。

そう思うやいなや泳ぎだす。

数分泳いで潜ると…いた。

大群だ。しかもどれもでかいぞ。

体長は80センチから1メートルぐらい。鮭みたいな魚がうようよしている。

水をかいて一気に近づく。

やはり俺の筋力は強いようで、泳ぎも魚よりも速い。ありがたい。

魚群に突っ込み、適当に手を伸ばして一匹捕える。

がっちりホールドしそのまま浜へ。

ふむ、体長90センチくらいの鮭だ。

砂浜に放り投げる。

再び魚群へ泳ぎ、もう一匹捕えて戻る。

まあ二匹もいれば上等だろう。

服も十分乾いたようだし、これを着てフェリシアのところに向かうか。



走ること数十秒。

約束の河口に人影が見えた。フェリシアだ。

右手に掴んだ鮭を振って叫ぶ。

「おーい、シア、見ろ、大物だ…ぞ」

「きゃあ、お兄様、来ないでください」

フェリシアは俺を見て、裸で川岸にうずくまる。

「…なんで裸なんだよ」

「水浴びしていたんです。ずっとお風呂に入れなかったから。お兄様に変なにおいの子だと思われるのが怖かったから…ああもう、なんでこんなに早く戻ってくるのですか。普通はもっとこう、時間がかかるものじゃないのですか」

「いや、一刻も早く獲物を見せたくて、頑張ったからな」

「魚を取ってきてと頼めば、お兄様はしばらく戻ってこないと思ったのに…いい考えだと思ったのに」

「はっきりと、水浴びすると言えばよかったのだ」

「恥ずかしかったんです。ああもうお嫁にいけない」

「いやシア、おまえの色気のない胸を見ても、それだけでは別に何とも思わないぞ。だから安心するがいい」

「…なんですって。裸を見た挙句、その言いようですか…そういえばお兄様、戦闘経験がなくてお困りのようでしたわね。私がお相手しましょう。私、多少なりとも武術のたしなみがあるのですよ」

「そんな、妹と手合せなんて、よくないぞ。な。それに目のやり場に困るし」

「私の裸など何とも思わないのでしょう。なら問題ないではありませんか。異世界人のお兄様に、竜族王女の乙女の怒り、教えて差し上げます」

ゆらりと立ち上がるフェリシア。美少女だがその笑みは怖い。サメや肉食獣を連想させる。

口のまわりから紅の炎が漏れ出し、火の粉が散る。美しいが危険だ。

「いや、シア、顔が怖いから…わかった、参った、降参…ぎゃあ」

噴き出された炎のブレスに全身を焼かれ、絶叫を上げる俺がいた。



「なるほど、小さな重力下では、筋力は大幅に強まるものの、火力耐性を獲得するわけではないということか」

黒焦げにされた全身を痙攣させながら、俺は呟く。

「言いたいことはそれだけですか」

全裸で仁王立ち、腰に手を当てた姿のフェリシア。怒れる女神と言ったところか。

「火竜としてのシアの力、とくと味あわせてもらった。これからの戦闘において、火力職、遠距離戦闘職としてよろしく頼むぞ」

「お兄様への怒りが解けない限り、つい手元が狂って攻撃がお兄様に集中してしまうかもしれません」

「妹よ、攻撃が集中する時点で、つい手元が狂ったとは言えないのだ。それは故意というものだ」

「では、つい故意で攻撃がお兄様に集中してしまうかもしれません」

「そこはできれば恋の攻撃がお兄様に集中する、にしてほしいものだな」

「私の裸を見ても何とも思わない殿方と、恋などできるはずがないではありませんか」

「いやそれは誤解だ。羞恥で打ち震えているシアは、すさまじくかわいらしかったぞ。もう気絶しそうだった。確かに個々のパーツの魅力は足りないが、全体としてのかわいらしさは俺がかつて見たことがないものだった」

「…本当ですか」

「もちろん本当だ。その証拠に見ろ、顔を赤らめ体を隠すしぐさをするお前から、俺はもう目を離すことができないぞ」

「はぅ、見ないでください」

「そうだ、その表情だ、そのしぐさだ、俺はその表情としぐさをするシアを見ていれば、それだけでごはん三杯食べられるぞ」

「…お兄様が何を言っているかわかりません、…服を着たいので向こうへ行ってください」






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