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4 重力

「ところでシア、なぜたき火を続けている。もう夜は明けたのに。それに熱いだろ」

「え、えーと、たき火が消えそうになったので、消えたらまずいのかと思い、薪をくべ続けたのですが・・・いけなかったですか」

ワタワタ両手を動かしつつ答える義妹王女。

あ、やばい、かわいい。

つんとしている時とはまた違う表情がいいな。

俺はロリコンではないはずだが・・・・

いやいや俺は兄なのだ。妹を愛でるのは兄として当然の心境のはず。

「いけなくはないさ、日中でも危険な獣を避けるのに、たき火は有効だからな、シア」

そんな内心を表に出すことなく、落ち着いた笑みを浮かべて静かに答えてみる。

うん、まさに妹想いの優しい兄の、完璧な態度だ。

「はい、何か失敗したのではないかと焦りましたが、そうでなくてよかったです」

妹よ、その焦ったしぐさがツボだったのだよ。これからも機会を見つけて焦らせよう。

「とはいえ、俺が起きた以上、獣が来てもシアを抱えて走って逃げればいいのだから、もうたき火は消そう。なにより火事になると危ないからな」

俺はそう言って立ち上がり、水はないかと見回すが、あいにく近くに水はない。

やむなく、薪についた火を踏み消し始める。

すると、火の粉が飛んできて、踏み消している俺の足にかかった。

「熱っ」思わず叫んで飛び上る。

ぎゅん

へ?いや軽く飛び上がっただけだぞ なにこれ いったい何十メートル上がるんだよ!

高い高い高い高い怖い どこまで上がるんだ

あ、ここまでか

ということは当然次は落ちるわけで

落ちる落ちる落ちる落ちる落ちるやばい俺死ぬ

絶叫をあげつつ落ちていく俺

地面が近づく もう死んだな、と思ったが、大した衝撃もなく片膝をつくだけで着地。

良かった、生きている。異界では毎日が冒険だな、


俺はここで考えてみる。

俺はこの世界に来て、とても速く走れるようになった。

体が軽くなった。

驚くほど高くまで飛び上れるようになった。

フェリシアは呆れるほど軽い。

フェリシアのお母さんも軽かった。

フェリシアのお母さんは地球で「重い」と数回言った。

フェリシアのお母さんは地球で身動きできなかった。


うん、わかった。

この世界では、重力が、地球よりもはるかに小さいんだ、おそらく地球の数千分の一程度なのだろう。

だから俺はすさまじい速さで走れるし、驚くほど高くまで飛び上れるのだ。


いやちょっと待て。ホントにそうか。

たしか低重力下で走るときは、最大摩擦が小さくなるから、まるで氷の上を走るように足が滑って速く走れなくなるんじゃなかったか。

こういう時は、SFでは、速く走るために靴を改造するなりして最大摩擦を大きくするんだよな。

俺の何の変哲もない黒色トレッキングシューズには、そんな改造は施されていない。

そう思って靴を見てみると・・


靴裏に何か黒い液体がべっとりついているんだけど

靴の色と同じだからわからなかったのか

これなんぞ

指ですくうとねばねばする

接着剤かよ

なんでこんなものが・・

ああ、そういえば、俺が最初に目覚めたとき、赤青黒白の花畑の真ん中だったよな

おそらく、あの黒い花に含まれていた液かなにかだ

それが強い粘性をもっていたので、花を踏みつけた時に靴にその液がついて靴の摩擦力が大幅に上がったんだ

ちなみにシアに尋ねてみると

「詳しくは知りませんが、工場や建設現場で使う接着剤の中には、花を原料とするものもあるらしいですわ」

とのこと

うん、思った通りだ

ということで、この世界は重力が極端に小さい世界だということが確定した



その後、空腹を感じた俺たちは、先ほど高空から見えた林に向かった。

やはり体が驚くほど軽く感じる。

フェリシアは俺の腕の中。「またお姫様抱っこされるなんて・・・」と頬を染めていたけれど、本当にお姫様だから問題ない。

あまり速いと風が痛いというので、ゆっくり走る。

林に果物でもあれば、と思ったのだが、ビンゴだ。

ピンク色の桃のような果物がたわわに実っている木を発見した。

もいで一口かじると、たっぷり水分を含んでいて甘い。

俺もフェリシアも夢中で食べた。

桃もほとんど重さを感じなかったけれど、しっかりお腹にはたまってくれる。

不思議ではあるが、素直に喜んでおこう。


渇きと空腹を満たした後、俺は今の力を確認することにした。

林を出て花畑にもどるとフェリシアを座らせ、まずは跳躍を試みる。本気で飛ぶと低くたなびく雲を突き抜けた。今度は落下時も慌てない。着地するときにテレマークをいれる余裕ぶりだ。

フェリシアが笑顔で拍手してくれている。ちょっといい気分。

次は腕力だ。

この世界は重力が極端に小さいので、俺の腕力程度でもこの世界ではすさまじい威力なのではないかと思ったが、まさにその通りだった。

片膝をついた状態で地面に正拳付きをすると、大地が揺れ地面に蜘蛛の巣状の割れ目が走る。突いた場所には、黒い穴が穿たれた。どれほど深いかわからないが、かなりの威力だ。

走力の確認はやめておく。

フェリシアを抱いたままでは本気で走ることはできないし、かといって一人で走るとその間一人になるフェリシアが心配だったからだ。

昨日は空飛ぶ巨大蜂から余裕で逃げられたのだ。地上で暮らす生き物に捕えられることはあるまい。今はそれでいいだろう。


とりあえず、敵に遭遇しても、逃げることができるだけでなく、ある程度は戦えることが分かった。

とはいえ安心することはできない。

まず、俺には戦闘経験がない。基礎能力が高くてもそれだけで生き残れるというのは甘い考えだ。

そこで獣を狩るなどして経験を積む必要がある。草食獣なら食糧にもなるし一石二鳥だろう。

次に、より重要なことだが、今の俺の桁外れの身体能力は、地球の大重力の下で培われた筋肉と骨によるものなので、この世界の小さな重力に慣れて筋肉と骨が衰えるとともに、次第に衰えるという問題がある。

そこで筋肉と骨の弱化を防ぎ身体能力を維持するために、きわめて重い防具を手に入れ、常時それを着用し、体に、地球で暮らすのと同程度の重力をかけ続けるべきだろう。

そして戦闘時にはそれを脱ぎ捨て力を顕現させるのだ。

この世界の重力は地球の数千分の一だと思われるので、この世界の防具の重さも地球の防具の数千分の一と思われる。

そこでこの世界の防具の数千倍の重さの防具を身につければ、地球と同じ重力を、筋肉と骨にかけ続けることができるはずだ。

そういう防具を探すために、町の防具屋を訪ねる必要がある。それほど重い防具を町の防具屋で見出すことができるか疑問だが、俺に作るスキルがない以上、できるだけ重いものを入手するしかあるまい。

さもなければ、せっかく手に入れたこの力、みすみす失うことになるのだから。

 これからしばらくの間、戦闘を続ける限りは、戦闘経験が増えつつ身体能力が衰えていくことになる。

 このことを心にとめておかねばならない。


Arcadia様の

「重力が軽い状態で普通に生活できるか」

における議論を参考にさせていただきました。

ありがとうございました。

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