表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/12

3 兄妹

目が覚めると、眩しく輝く三重太陽が目に入る。

地球の太陽はもう少し穏やかだったな、いつかこの太陽に慣れる日が来るのだろうか。

思わずそんな感慨が浮かぶ。

たき火に薪をくべていたフェリシアが、俺が起きたことに気づき、

「おはようございます」

と笑顔を浮かべ挨拶してきた。

強い子だ。昨日、母の死を知ったばかりなのに。

いや、俺を気遣っているのだろうな。

「おはよう、フェリシア王女、よく眠れたか」

俺も笑顔を作る。うまく笑えているだろうか。

「はい、柏崎義人様」

「俺のことは義人でいいぞ」

「わかりました、義人様。私のことはシアとお呼びください」

「呼び捨てでいいのか?王女だろ」

「かまいません。お父様もお母様も私をシアと呼んでくれましたから・・・・・・・・お母様・・・・」

母親を思い出したのだろう。一瞬、顔を曇らせるフェリシア。

だがすぐ表情を改める。笑顔を見せようとするのだ。

無理をすることないのに。

子供は笑いたいときに笑い、泣きたいときに泣き、怒りたいときに怒るものだ。

自然な感情の発露を押し殺してほしくない。

「わかった、シア、よろしく頼む。それで早速だけど、シアはこれからどうしたい?頼れる縁者か知人がいれば、俺が送ってやるんだが」

誰もいなくても心配するな、俺が一緒に生きてやる・・とは気恥ずかしくて言えなかったが。

でも心の中でそう付け加える。

「ありがとうございます。・・・・そうですね、私は国に知人がおり、彼らに会わねばなりません。ですが今、国は敵軍に蹂躙されており、私は鵜の目鷹の目で捜索されているはずです。私と一緒にいることで義人様にも危険が及びかねません。ですからお気持ちはありがたいのですが、私は知人のところまで、私一人で参ります」

「なに、心配ないよ。不思議なことに、俺はこの世界に来て驚くほど足が速くなったんだ。危険があればシアを担いで逃げればいい。今ならどんな追手にも捕まらない自信があるから」

「足が速いだけで逃げ切れるわけがありません。たとえば寝込みを襲われれば、何もできずに捕まる可能性が高いでしょう。命を落とす可能性も」

「たしかに一人だと、寝ているところを襲われたらつらいな。でも二人なら、交互に起きて見張りをしていればいいんだから、捕まる確率もぐっと下がる。それになにより今現在、こんな僻地で二人ぼっちなのだから、個々に動くより協力するほうがよいと思うが」

「それではお言葉に甘えて、どうか私を人里まではお連れ下さい。ただそこから先は私一人で参ります」

「シアも強情だなあ。あのな、そんな物騒な状態の国を一人でうろつかせることなど、普通の子にも許可できないの。ましてや捜索されている王女なんてなおさらだ。いろいろ危ないうえに、目立ちに目立ってあっという間に捕まってしまうよ」

「そうなったらそれが運命です」

「いやいやそれ避けられるから。運命じゃないから。男の俺と一緒なら、変なちょっかい出されることも減るし目立つこともなくなるんだよ。無償で俺を危険にさらすのが後ろめたいというなら、傭兵契約でも交わせばいい。知人と会えたらその時に、何か報酬をくれればいいさ」

「着の身着のままで逃げてきたこの身には、報酬とすべきものなどないのです。

対価となるものがない以上、契約など交わすことはできません」

「その知人に対価を出してもらうとか」

「無断で知人の財産を対価にすることなどできません」

「こういうときはあれだ、国を取り戻したら褒美は望みのままにとか」

「そんな空手形を切るような、不誠実なまねはできません」

ダメだしを繰り返すフェリシア。うーん、すぐには言い返せない。

でも、さっきから聞いていれば、こいつ、俺のことや知人のことは気遣うくせに、自分の安全のことは何も考えていないじゃないか。本来真っ先に考えるべきことだろ。

やはりこいつは甘ちゃんの王女様だ。

少なくとも今は俺が助けてやらんとどうにもならない。

子供が一人で危険な国に帰るとかって無理・・・

ん、ちょっと待て、なにも今すぐ国に帰って知人と会わなきゃならないというわけでもないよな。なら

「ではドラゴニア以外の国へ行ったらどうかな。それなら危険はないんだろ。そこでしばらく静かに暮らしたらいい。知人には、時間をおいて会えばいいじゃないか」

「・・・義人様。大陸西岸でドラゴニア以外の国は、すべてドラゴニアの敵なのです。どこに行っても私が追われる身の上なのは変わりません。大陸東岸までいけば追われることこそなくなるでしょうが、文化風習がまるで違うので生活していくだけでも至難の業でしょう。それに私自身が今すぐドラゴニアに戻りたいのです。知人には、すみやかに会わねばなりませんし、ほかになすべきこともあるのですから」

だめだ、こいつ。どうあってもすぐに帰る気だ。こいつを一人でうろつかせれば、瞬く間に敵兵に捕まるぞ。そしたら俺がこの異界へ送られた意味がまるでないじゃん。あのお母さんも浮かばれないだろ。

「わかった、シアはドラゴニアに戻れ。俺は決して止めないから。ただ俺もシアと一緒にドラゴニアに行く、俺自身の意思としてだ。シアもそれを決して止めることはできないからな」

「私には止める権利があります。お父様、お母様が亡くなられた以上、私がドラゴニアの女王です。ドラゴニアでは私の言葉こそが法、私が、ついてくること許さぬと言ったなら、義人様であろうとだれであろうと、私についてくることはできないのです」

胸を張るフェリシア。なにドヤ顔しているんだよ# ムカつくな。なんというめんどうくさいガキだ。

「ああそうか、シアが女王だから、シアの言葉が法というわけだ。ところで俺がシアのお母さんに会ったとき、王様であるシアのお父さんはもう亡くなっていたのだから、シアのお母さんが女王だったわけだよな。ならその時のお母さんの言葉は、法ってことでいいんだよなあ。お母さんは俺に言ったぞ、『お願いです。この子を守ってください』と。当然、これも法のはず。なら今、俺がシアを守ろうとするのは法にかなう行為であり、シアがそれに反対するのは法に逆らう行為ということになるんじゃないか。シアは法に従って、俺に素直に守られるべきだと思うが」

フェリシアは口をパクパクさせている。

「俺は法にのっとり、ドラゴニアに入ってからもお前を守り続けてやる。知人の下であろうとどこであろうと送り届けてやるわ。それに逆らうことは法に逆らうことと知れ」

ふん、勝ったな。屁理屈王と言われたこの俺に、口で勝てると思うなど百年早いわ。

「・・・でも・・それでは私が義人様に一方的に甘えることになるのではありませんか。義人様に守ってもらい、義人様を危険にさらし、私は何一つ返せない・・・それではあまりに心苦しい・・」

フェリシアは、うつむいて消え入るような声でつぶやく。

短いやり取りでも十分わかった。フェリシアはあまりにまじめすぎ、他者に気を使いすぎるんだ。

他者、そうか、そこが問題か。

これを対価に絡めれば・・

俺の頭に天啓のようにあるたくらみが閃く。

「シアは俺に何一つ返せないと言うが、それは違うぞ。シアは今この時ですら、俺を満足させるに十分な、対価を差し出すことができるんだ」

フェリシアは青ざめ、身を震わせて数歩下がる。

「義人様・・邪悪な笑みを浮かべています・・まさか・・義人様はこの私の体を・・・」

「アホかい!お前まだ子供だろうが・・・いやいやそれも十分魅力的だが、シアにはもっと簡単にできて、もっとこの俺の心を震わせることがあるんだよ」

「それはどのような恥ずかしいプレイなのですか」

「なに、本当に簡単なことだ、俺を呼ぶ時の言葉に、微修正を施してくれればいいんだ。つまり・・以後俺のことは、気持ちを込めて、義人お兄様。と呼ぶんだ。それが、俺がシアを守ることに対して、シアが差し出すべき対価だ」

唖然とし固まるフェリシア。自分の恐るべき英知に恐れ慄き身を震わせる俺。

「義人様・・・それに何の意味があるのですか」

「義人お兄様、だ。・・シアにはわかるまい。俺の世界には妹萌えという文化があるんだよ。選ばれた者たちのみが味わうことができる極上の文化だ。それをこの世界でも実現しようというだけだ。義人お兄様、という一言で、俺は無上の愉悦にひたれるんだよ。さあ、義人お兄様、と言うのだ」

「・・・義人・・・お兄様・・・ああ、何か大切なものを失った気がするのですが、なぜでしょうか」

こうして俺とフェリシアは、義理の兄妹のようなものになったのだった。

もう他者ではない。俺は兄だ。だから気を使うな。自然な感情を晒していいのだ、フェリシア。

・・そういえば、いつのまにかフェリシアは自然な感情出しまくりになっていたような気もするが。あれ?


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ