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夜の衝動第3章

葵は後悔していた。


彼に恐怖を感じたことも、彼の前から逃げてしまった事も。


“あんなに苦しそうな涼、初めてだった・・・”


だからこそ今必死で彼を探している。


無論、こんな時間に女が一人で出歩くことがどれほど危険か十分に理解してだ。


しかし、どれほど走っても涼の姿は捉えられない。


焦りが胸中を支配していくように、明るかった月もいつしか暗い雲に覆われていた。


上がった息を整えるため、いったん両膝に手を当てて立ち止まる。


涼の行きそうな場所を冷静に考えてみたが、皆目見当もつかない。


「何も知らない、隣人か・・・。」


そっとつぶやいて、奥歯を噛み締めた。


呼吸が整い、あたりが急に静かになる。


ふと、どこからとも無く唸り声らしきものが聞こえてきた。


耳を澄ませる。


犬や、猫のものでは無い、これは・・・人間の声。


「涼!」


叫ぶと同時に葵は走り出していた。


声はそう遠い場所からしたものではない。


目の前を遮る古いマンションを越えた所に声の主はいた。


“涼!それに、神宮寺先輩・・・?”


立ち入り禁止の立て札がある公園。


近く取り壊される予定になっていた場所だ。


その中ほど、そこで二人の男、神宮寺秀次と大御前涼は対峙している。


だが、その光景は明らかに異様だった。


神宮寺は天を仰ぐように両手を広げ、何かを叫んでいる。


いや、あれは咆哮というべきなのだろう。


涼はというと、じっとその姿を見ているだけで、たじろいでいる様も見受けられない。


まるで、これが当たり前という風に。


唐突に咆哮がやんだ。


目線を神宮寺に戻す、瞬間目が合う。


思わず小さく悲鳴が出る。


笑っていた。


普段の紳士的なイメージの彼からは想像もつかない様な狂喜を湛えて。


鳥肌が立つ。


首筋を冷たいもので撫でられた時の様な。


神宮寺は突然の珍客に一瞥をすると再び目の前の敵を見据えた。


涼はゆっくりと構えをつくった、胸の傷が疼いた。


爆砕。


地を穿ち神宮寺が跳躍した。


二人の拳が交わる、衝撃で砂塵がたつ。


威力は互角、共に必滅。


全身を駆け巡ったであろう痛みすら無視して二撃目が放たれる。


顔面を狙った上段蹴り。


涼は上体を反らしてそれを避わす。


前髪が数本、宙を舞った。


すかさず目の前に来た足を掴み思いっきり真後ろに投げつける。


神宮寺の体が公園のフェンスに当たるのも待たずに振り向き、その後を追う。


しかし、それは大量の土煙によって阻止された。


同時に神宮時の気配も消えてなくなっている。


全神経を集中させ姿を消した敵に備える。


刹那。


煙幕を突き破って拳が現れた。


涼の左。


超高速の正拳突き。


即座に認識し首を捻り回避しようとするが、避けきれず拳は首筋を掠める。


真っ赤な鮮血がぱっと舞った。


素早く右に退き間合いを取る。


轟音と共に神宮寺の周りの土煙が吹き飛ぶのが見えた。


その足は不自然に沈んでいる。


それは拳を繰り出すときの踏み込み。


それとは別に二本の線が引かれている。


これも神宮寺がつけたもの。


涼に投げ飛ばされた瞬間体を捻り、地に手を着いて減速すると共に土煙を巻き起こした傷跡。


生温かいものが流れてくるのを感じ涼は首筋を押さえた。


切れた場所が悪かったらしく血がとめどなく溢れてくる。


このままでは十分と立たぬうちに満足に動けなくなるだろう。


しかも全力で出せる攻撃は後一回が限度。


力を込めた一撃を出せばどれほどの出血があるか想像もつかない。


ならば次で決着がつくのは必然。


「俺の時間に、とんだ災難だ・・・跡形もなく殺してやる。」


遠くで神宮寺が笑っているのが見えた。



土煙を吹き飛ばす爆音によって葵は我に返った。


見れば、二人は最初と同じように向き合っている。


ふと、あたりが少し明るくなった。


雲の間から差し込んだ月光が二人を照らす。


まるで今夜のステージ、主役はこの二人だと言わんばかりに。


その時、葵は気づいた。


涼の首筋を黒い液体が流れている。


それは今が夜であったからであって、

もし今が昼間であればそれが赤い色をしていたことが一目でわかっただろう。


葵は理解し、そして目を覆った。


おびただしいほどの・・・鮮血だった。


にもかかわらず、涼は再び構えをつくる。


なぜ、そこまでして戦うのか。


葵にはわからなかった、でもたとえどんな理由があろうとも二人は止めなくてはならない。


それは無意識の内に発せられた命令。


必死に声を出そうとする、叫ぶこと意外思いつかなかった。


しかし、意に反してなかなか声が出ない。


“早く、早くしないと二人が・・・!”


じり、と足をする音が聞こえた。


すう、と整えた息遣いも。


次は、断末魔の悲鳴か。


二人が跳び立つ。


それが今の葵には、はっきりと見えた。


「やめてーーーっっ!」


力の限り叫んだ。


目の前では涼が驚いた表情で葵を見ていた。




一瞬、無防備になった涼に神宮時のひじ打ちが迫る。


肉が抉られる鈍い音。


腰を低くした体勢から繰り出された肘打ちは深々と腹に突き刺さる。


そして、ほんの少しだけ涼の体を持ち上げた。


胃の内容物と血の混じった液体を吐いて涼の体がくず折れる。


だが、完全に倒れる前にその体は神宮寺によって支えられた。


地に伏すことすら許されず限界を迎えたその体は、ただだらしなくその四肢をぶら下げる。


「死ね」


無慈悲な言葉。


神宮寺の腕が振り上げられた。


その時、薄れ行く意識の中で涼は見た。


振り上げられた神宮寺の腕を掴む女の姿を。



――病院

この章はほぼ友達にまかせっきりでほとんど手をつけてないや、すんまそ。

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