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委員長の通信簿 2

 1時限目の授業は、国語。

 わざわざ自分の国の言葉を勉強する必要も無いとは思うんだけど、小学校も中学校もずっとこの授業がある。

 というか、漢字の読み書きとかさえ出来たら生きていくのに特に問題は無いと思うんだけど。

 古文とか絶対にこれから使う機会なんて無いだろうし。

 そんな退屈な授業を右から左へと受け流しつつ、俺は特に意味も無いことを考えて時間をつぶしていた。

 まぁ、退屈な授業なら良くやることだけど、意味もなくノートに落書きをしてみたりとか、意味不明な空想にふけってみたりとか、あるいは脳内で物語を構築してみたりと。

 脳内で物語の構築か……昨日、キサラがそんなことを言っていた気がする。

 会話していた時間はとても短いし、話した内容も大したものじゃない。

 だけど、キサラと話をしている時、ものすごく楽しいと感じていた。

 それに、印象に残っていた単語に『物語を想像する』っていうのがあったような気がする。

 みんな、退屈なときにすることは大体同じなんだなって、ちょっと可笑しくなってすこし頬が緩んだ気がした。

 さて、とりあえずキサラのことは置いておいて、今回俺が考えていたこと。

 それは、魔法について。

 もし、魔法があったなら俺はこんなにも退屈をしなかったかどうかって言う、ものすごくどうでも良いことで、実際には無いんだからものすごく不毛なことだ。だけど、ただの時間つぶしだから考えること自体に意味を求める必要も無いし、意味が在ってもなくてもどうでも良い。この退屈な授業が終わるまでの暇つぶしだから。

 

 もしも俺が魔法を使えたなら何をするんだろう。

 いったいどんな魔法が使えるんだろう?世界を変えてしまえるような、ものすごい魔法とか使えたりするんだろうか?

 もしもそんな魔法が使えるのなら、俺の日常はもっと違うものになっていたりするんだろうか?

 世界を左右する戦いに巻き込まれたりとか、どこかの権力者が俺の力を求めて争ったりとか……

 なんだか、全然楽しそうに思えないな。

 退屈はしなさそうだけど、楽しくなかったら意味が無い。おもしろくなかったら意味が無いと思う。

 それは退屈よりも酷い、ただの苦痛でしかない。

 だから、魔法とかそんなものがあるのも面白いかもしれないけど、世界を左右する戦いに巻き込まれたくなんかないから、ほんのちょっとだけの力でいいと思う。

 というよりも、『楽しくなる魔法』っていうのが一つだけ在ったらいいと思う。

 『楽しくなる魔法』っていうのがあるなら、俺の毎日は楽しいことでいっぱいになると思うから。

 

 ◇


 今俺は草原の真ん中に立っている。

 周りには、これまで一緒に旅をしてきた仲間たちが立っている。

 魔法使いに、戦士、盗賊と職種様々な仲間たちが微笑みながらこれからのことについて語りかけてくる。

『魔王をどうやって倒そうか?』

『あいつは、強いからまずは装備を整えてから』

『なら、俺のスキルで村人から巻き上げればすぐに金は作ることが出来る!!』

『お!それ名案だ!!』

『よし!じゃあ早速金持ちが居そうな村へと旅立つか!』

『賛成!』

 行き先が決まったところで、村がある方向へと足を動かしだしたときだった。

 草原をなでる風に乗って、声が聞こえた気がした。俺は歩き出そうとした足を止めるのだった。

「……ろ。も……る………だぞ」

 何を言ってるかわからない。

 だけど、それはとても弱弱しくてとても小さい。

 多分妖精たちが俺たちのことを応援してくれてるんだろう。

『お〜い!早く行くぞ〜!』

 仲間たちが足を止めて俺を待っていてくれた。

『おう!今行く!』

 そう、先に駆けていった仲間たちを追って俺も走り出した。


「起きろ!!」

 

 耳元でいきなり叫ばれた。

 耳から脳みそまで、ものすごい衝撃が響き渡ってきた。

 さっきまで見ていた夢さえも、どこか遠くまで吹き飛ばしてしまうような衝撃。たぶん、とても面白い夢を見ていたはずなのに全然思い出せない。

 覚醒しきっていない頭で辺りを見渡してみると、机をくっつけたりお弁当を出したり、さらには購買で買ってきたと思われるパンを明けようとしていたり。そこにはまるで、昼休みであるかのような光景が広がっていた。

 そして、俺の耳元で大声を出したのはほかでもない佐奈だ。その隣にはちゃっかり北原が立っていたりする。

 あくびをしながら背中を伸ばす。すると、バキバキととても嫌な音がした。

 どうやら、机に突っ伏した状態で固まってしまっていたみたいだ。

 まだ重たいまぶたをこすりながら佐奈に尋ねた。

「まだ1時限目の休み時間なのに、みんなどうしてご飯を食べようとしてるんだ?もしかして、早弁が流行ってきたとか?」

「何言ってんの?今はもうお昼休みだよ。っていうか、あんた1時限目の途中から今までずっと寝てて、たまに意味不明な寝言を呟いてたよ」

 は?今はもう昼休みだって?そう言われて時計に目をやった。現在の時刻は12時45分。

 昼休みが開始されて10分が経過したところ。……寝言で恥ずかしいことを言ってないかものすごく不安だ。

「休み時間のたんびに起こそうとしても全然起きないから、現実世界から逃げ出そうとしているのかと思ったぞ?」

 購買で買ってきたであろうパンの袋を机に置きながら北原そう言ってきた。つまり、俺は午前中の授業全てを寝て過ごしたことになる。

「マジで?」

「うん、マジで。それよりさ、さっさとご飯食べましょうよ。私お腹空いちゃった」

 そう言いながら、佐奈が隣の机を俺の机にくっつけてくる。

 北原もパンの袋を開けながら昼ご飯を食べる準備をしていた。それにならって、俺もカバンから弁当を……弁当を取り出そうとするんだけど

「……弁当が無い」

「何言ってんの?今日はおばちゃんが作らないって言ってたでしょ?だから、はい」

 そういって佐奈は俺に弁当を渡してきた。

「あ、そうか。今日は佐奈に作ってもらう日だったっけ?」

「そうだよ。だから、私に感謝しなさい。早起きして作ったんだから」

「なぁにぃ!!!平久保さんの手作り弁当だと!!お前ズルイ!!」

 自分のパンにかぶりついていた北原が、いきなり大声を出して叫びだした。周りのクラスメートたちの視線がこっちに集中するから、そういうのマジでやめて欲しいんだけど。

 だけど、周りの男友達からも北原と同じく

「なに!?平久保さんの手作りだと!!」

「白鷺め!許すまじ!」

 だとか、そんな不吉な言葉がちらほらと聞こえてくる。

「……うるさい」

 男子生徒の喧騒を打ち消したのは、佐奈の一言だ。その一言で、俺への非難が一蹴された。

 そして、佐奈は続けて口を開く。

「やっぱり、食事のときは騒いじゃだめだよね」

「「「「そうですよね」」」」

 男子生徒(北原を含む)の大合唱。佐奈の一言にこれだけの力があるなんて……たまに恐怖を覚えることがある。

 佐奈の一言で動かされる男子生徒って……まぁ、ファンクラブがあるって言う噂もあるし人気があるのは知ってるけど。

 男子生徒にここまで好かれていたら、女子からは冷たい目で見られがちだけど佐奈はそんなことは無い。竹を割ったようなカラッとした性格と抜群の容姿が相まって、男子と女子からの絶大な人気を持っているんだ。そんなやつが幼馴染だっていうのが俺の隠れた自慢だ。

 ちなみに、佐奈に弁当を作ってもらったときは、いつものこんな感じだ。

 箸を取り出して、弁当に手をつけ始めたところで北原が口を開いた。

「なぁ、お前今日はどうしたんだ?いつもは『授業くらい真面目に受けろよ』なんて言ってくるくせに。お前が寝てること自体珍しいのに、それも午前中全部寝てるとかさ。昨日何かやってたのか?」

「秋彦は昨日は2時ごろまで起きてたんだよ。いつもなら12時過ぎには寝てるのに。でね、そのことを朝登校中に聞いたりしたんだけど全然教えてくれなくて……。あ、そうそう!朝っぱらから秋彦が私にセクハラ発言してきたんだよ!どう思う?」

「うん、サイテーだ!これだからリア充は!!だから、その弁当のコロッケを一つ俺に献上しろ。そして、平久保さんに謝れ」

「ヤダね。そういうネタを振ってきたのは佐奈が先だ」

「あれ?そうだっけ?忘れちゃった」

 そう言って笑う佐奈。まったく、こいつは……佐奈の一言で俺はピンチになりかねないのにその自覚が無いんだ。まぁ、いつものことなんだけど。

 そう思いながら俺は箸を進める。というか、そんな言いがかりで何で弁当のおかずを北原にやらないといけないんだ。おかしいだろ。

「ずぅ〜っと気になっていたんだが、どうして白鷺と平久保さんっていつも一緒に弁当食ってんの?」

「「ん?」」

 ご飯を一口、口に含んだところで北原が話しかけてきた。佐奈も同じようにおかずを口に含んだところだったみたいで、同じような格好をしている。

「うわ〜、なんかこの二人息がぴったりだよ!なんだか、リア充の匂いがするよ!とても腹立たしいよ!」

「別に、リア充じゃないし。たまたまタイミングが合っただけだし。言われも無い苛立ちを向けられる筋合いも無い」

「そうそう、私たちが一緒にご飯を食べるのは一種のクセのようなものだし。それに、私も秋彦とばっかりご飯を食べてるわけじゃないよ?たまに女の子の友達とも食べてるし」

「たまに女子と食べて、ほとんど白鷺と食べてるってことじゃん!」

「まぁ、そうね。さっきも言ったけどクセだよ。今までずぅ〜っと一緒だしね」

「なに!?白鷺と平久保さんってずっと一緒なのか!?墓の中まで!?」

「「そこまで言ってない」」

 いちいちリアクションが大きい奴だ。っていうか、墓の中までって言うのは飛躍しすぎ。

「また息がぴったりだ!おじさん軽く感動したよ!そして、感動とは別の意味で涙を流しそうだ!……悔しくて」

「うざ」

 ちなみに、うざって言ったのは俺じゃない。佐奈だ。

 佐奈の一言に北原は石造のように固まってしまっている。あ、言い忘れていたけど佐奈は口が結構悪い。そして、頭も悪い。本人は努力を怠っているから悪いだけでがんばれば頭はいいって言ってるけど、成績が良いトコなんて見たことないから、そんな言葉は信用できない。

「なにか私の悪口言った?」

 熊も射殺せそうな視線を俺に向けながら尋ねてくる。どうして、心の中で思ったことが分かったんだ?

「いや、何にも。っていうか、俺はさっきからしゃべってないし」

「確かに。けど、なにかイラッと来たからもしかしたら変なことでも考えたのかと思ったわ」

 危ない。こいつ頭は悪いけど、勘だけは昔からすんげぇ良いんだった。今度から気をつけよう。

 納得がいかないって顔をしているけど、佐奈は食事の続きを始めた。

「で、話を戻すけどどうしてずっと一緒なんだ?」

 いつの間にやら復活した北原が尋ねてくる。

「ん?言ってなかったか?俺たち幼馴染なんだ」

「初耳だよ!!何それ!ギャルゲーの主人公か!?」

「なに言ってんだおまえ。気でも狂ったのか?それともリアルとゲームの区別がつかなくなったのか?かわいそうに」

「いやいや!俺は正気だよ!」

「あのさ、うるさいんだけど」

 北原の心に5000のダメージ。北原は再び石像になった。

「はい、ごちそうさま。私、弓道部のミーティングあるから行くね」

 佐奈は、弁当箱を片付けるとさっさと教室から出て行ってしまった。

「なぁ、平久保さんって俺に冷たくないか?」

「あいつはだいたいあんな感じだから俺は全然気にならないけど?」

 北原大きな溜息をすると、しゃべりだした。

「お前は良いよな。あんな可愛い幼馴染が居て。しかも弁当まで作ってくれてさ。俺も、そんな幼馴染が欲しいよ」

「そうは言うけど、あいつと居ると結構疲れるぞ?無理難題を吹っかけられたりとか、宿題教えろ!とか」

「いやいや、俺にはうらやましいようにしか思えないぞ!無理難題はおいといて、宿題を教えるってことは部屋で二人っきりじゃん!」

「そんな良いもんでもないってば。あいつすぐ寝るし、真面目に勉強しないし、ゲームし始めるし。教えてるこっちの身にもなってみろよ」

「いやいやいやいや、若い男女が一つの部屋で二人っきりなら、それはそれは大人の世界が広がってるんじゃないのか!?」

「馬鹿か?ちっちゃい頃からずっと一緒だった奴と今更二人っきりだからって、何にも思わないぞ?」

「ありえない!ゲームの中じゃ、そんなことが起こったら間違いなくえっちな」

「まて!それ以上言うな!!俺までお前と同じ眼で見られる!」

「うわ、なんかものすごく酷いことをいわれた気がする!」

「気のせいだ。だから、さっさとパン食っちまえよ。俺眠いから寝たいんだけど」

「つまり、俺が邪魔だって言いたいのか?」

「まぁ、はっきり言ってしまえばそんな感じ。まぁ、そこまで邪魔だとは思ってないから食うまで待ってやるよ」

 俺の言葉は、最後まで北原に伝えられることは無かった。なぜなら、『そんな感じ』まで言ったところで「ちくしょ!!!!!」って叫びながら教室からものすごい勢いで出て行ってしまったから。

 マジで騒がしい奴だ。

 というか、さっきからチラチラと今井がこっちを見てきたのあいつ気がついていたのか?

 とくに、幼馴染がどうとか言ってるときものすごくこっちを気にしていたぞ?

 北原に気があるんだろうけど、北原が全然気付いてないなんて……ちょっと可哀相だ。

 俺が伝えてもいいんだけど、勘違いだったら格好悪いし見とくしかないんだけど。

 弁当箱を片して、机に突っ伏す。

 弁当を食ってるときから、ちらちらとこちらの様子を伺っていた睡魔が、チャンスが来たとばかりに襲ってきた。

 5時限目の授業が始まるまでには起きようなんて考えながら、俺はすぐに深い眠りについていた。

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