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息吹

作者: 彩田アヤト
掲載日:2026/06/29

 すごく、恥ずかしい、くしゃみの仕方を、してしまいました。

 私の場合、三回でるんです。

 悲劇は、三回目で起こったんです。

くしゅん。くしゅん。くしゅん。といけばいいものを。

 私はなぜ、くしゅん。くしゅん。……。ふがっ。

ふが?「ふが」とは何です。初めて聞きました。なぜ私は、「ふが」と言ったのでしょう。

「ふが」となってしまったので、くしゃみは不発に終わりました。

 元はと言えば、乗客が、いえ。子供が。子供がトンネルに入ったのに、気づかず、窓を空けてしまったからです。

窓を開ければ、石炭や灰、黒煙が、容赦なく、車内に入ってきます。私は、喘息持ちですから、くしゃみをするために、吸い込んだ、空気で、その後すぐ、むせたわけですが。

 子供からすれば、夜行電車の、窓の外。外の世界は、不思議なものかもしれません。窓の外は、黒い煙、もやもやで覆われて見えないものですから。その、もやもやをどかして、外の景色が見たかったのでしょう。

 子供とはなんて無邪気な。純粋な心の持ち主とは、どれほど美しく、可愛らしい。大人は、音で、トンネルに入ったな、と、認識し、すぐ、眠ってしまいます。

 けど、子どもは違いました。音が変わった、なぜ。なぜ音が変わった。今の外の景色はどうなっているのか。と、思考を巡らせ、行動に移しています。

 大人はつまらない。思考しないのです。固定概念に囚われて。自分たちは、まだ、まだ、強いと思い込んでいます。見てください。街の様子を。強いですか。本当に強いんですか。

 強いのなら、勝っていたはずです。幸せなはずです。今は、社会が不安定で、殺傷事件も多いじゃありませんか。

 子供からすれば、今の日本は、どうなんでしょう。空き地が多くて、野球が仕放題でしょうか。それとも、ご飯がなくて、つらいでしょうか。実家から、ふるさとから離れて、寂しいでしょうか。それでも、そんな日本にいながらも、無邪気に純粋に外の景色、外の世界を探しているんです。

 将来はそういう人が、革命を起こします。人々を幸せにします。大人には無理です。

 けれど、この子供も、いつかは大人になります。できることなら、純粋な心を持ったまま育ってほしいですが。きっと、叶わないでしょう。大人になれば、誰もが、頭が固くなるものです。子供のように無邪気になれません。残念な、羞恥心のせいでしょう。同調圧力のせいでしょう。子供は、まだ、それがわかりません。わからないからこそ素敵なのです。わからないからこそ、可愛い。

 本当に、今日はいいものを見せてもらいました。私は、先ほども申し上げたように、喘息持ちですから、戦場にはいけませんでした。私は、謂わば、死にぞこないの、文士です。友人が、恩師が、父が、お国のために死んで征きました。それなのに、私は、文士です。本を書いているんです。原稿用紙とにらめっこしているだけです。敗戦であろうと、私より、十分価値のある、素敵な、勇気あることを、皆様は成し遂げてくださった。それなのに私は、原稿用紙とにらめっこしてるだけで、生きているんです。

 けど、それもいいかもしれません。いいものが見れました。死んでいたら、見れなかったかもしれません。生きててよかった。

 けれど、同時に、なんの、役にも立てなかった、私が、子供のような、純粋な心を持っていない、私が。

 酷く、嫌なのです。

 本当に。

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