ギャルさんと友達になりたい
記念すべき初配信が終わった翌日、僕は朝食を食べながら学校生活について考え事をしていた。
というものの、もういっそ女子として登校してしまおうかと考えてしまったのだ。女の子になってしまってから、教室に入るたびに何か視線を感じるし、包帯で隠しているせいでお胸はずっと窮屈で暑苦しい。
しかし、やっぱり女の子になりました、って明かすのは怖い。心は男で体は女というややこしい状況にあるから、男子のグループにも女子のグループにも馴染めず、クラスで浮くかもしれない。気持ち悪がられるかもしれない。
だからまだ、男の子として通いたい。でもいつかは、女の子として登校したい。まぁ、担任の浅木先生になら言っても良いかもしれない、とは思ったけどね。
お胸に関しては、ネットで調べてみると、ブラジャーをちゃんと付けないとお胸が服と擦れて大変なことになってしまうらしい。痛いのは嫌だし、何か病気にでもかかってしまったらたまったもんじゃない。だからブラジャーはなんとしてでも買いたい。
「だけど、やっぱり女性用の下着を一人で買いに行くのはなぁ……」
というわけで、僕は誰か女の子に下着を買ってもらいたいのだ。
つまり、女の子の友達が欲しい!という結論に至った。今のところ、女子と接点があるのはこの前お話しした杉山さんのみなのだが、いきなり杉山さんと友達になれっていうのはハードルが高すぎる。最初に戦う敵がラスボスみたいなものだ。
「やってみないと、始まらない…。ま、まずは挨拶からかな?」
考え事をしながら歩いていたら、もう教室の扉の前に立っていた。
何事もやってみないと始まらない。そんな前向きなスタンスを持ちたい僕は、杉山さんにまずは「おはよう」と言ってみることにした。
僕は隅にある僕の席に早歩きで向かい、バッグを置いたら勢いを止めずに、杉山さんの机に一直線に向かう。
「あ、あの、杉山さん………」
そう僕が話しかけると、座っていた杉山さんは心底驚いたように目を見開いた。
「え、どうしたん?黒影っち。も、もしかして…」
杉山さんに少し戸惑いの色が見えるが、僕は勢いを失わないように次の言葉を放つ。
「す、杉山さんにどうしても言いたいことがあって……!!」
「え?え?それってもしかして、こ、こくは…?だ、ダメだよ黒影っち!せめて教室から移動しないとみんなに見られ…」
「あ、あの!」
「う、うん!?」
「お、おはようございます…」
「へ?」
杉山さんはぽかんと口を開けて、まるで思考が止まったかのような状態になってしまった。でも、冷静に考えれば、置物だと思っていたコミュ障が急に挨拶してくるんだよな…。ちょっと行動が不審者すぎないか?僕。
少しまずいと僕は思い、「そ、それじゃぁ…」と言ってそそくさと自分の席に戻り、殻に閉じこもるかのように持ってきた本を開いた。
……これは失敗してしまったかもしれない。僕はさっきの行動を思い返し、赤面した。
◇
朝早くになぜか目が覚めてしまった私は、やることがないので仕方なく学校に向かった。
教室の扉を開けると、そこには数人の生徒がいたが、黒影っちの姿は見当たらなかった。黒影っちに恋愛感情を向けているわけではないと思うのだが、どうしても目を離せない何かが彼にはある。しかも、もともと女の子っぽかった彼は、最近なぜかさらに女の子っぽくなってきたのだ。なんなら私より可愛い。
黒影っち、早く来ないかなー。
そんなことを考えつつ、私は自分の席に座り、歴史のノートをぱらぱらと見返していた。
そして数十分後、なぜか黒影っちが目の前にいた。
「あ、あの、杉山さん………」
今日も黒影っちは、私がふぅと息を吹けばすぐ飛んでいきそうな感じだ。
そんなことより、黒影っちが自分から声をかけることなどほとんどありえないのに、今日は私の目の前で、私に喋りかけている。あまりの異常事態に私はある考えに至ってしまう。
「え、どうしたん?黒影っち。も、もしかして…」
そう。学校生活の一大イベント、告白である。
私は友達の明美から、「朝早くに男子から声をかけられる時は、だいたい告白!あなたも気をつけなさいよ!」とつい一昨日言われたばかりなのだ。
黒影っちが、ましてや私に告白するなど考えられないが、あまりに明美から言われたシチュエーションそっくりすぎて、私はどうしたら良いのか動揺していた。
別に、黒影っちのことが嫌いなわけじゃないよ!?で、でも、心の整理というものがあるというかなんというか…
すると黒影っちが次の言葉を放つ。
「す、杉山さんにどうしても言いたいことがあって……!!」
こ、これ告白確定じゃん???
え、どうしよう、黒影っちって私のこと好きなの?
とりあえず私は何をすべきか、必死に思考を巡らせる。
えっと、明美はなんて言っていたっけ…「とりあえず噂はすぐに立つから、告白されそうになったらとりあえず人気のない場所に移動しなさいよー。」って言っていた気がする…なぁ。
「だ、ダメだよ黒影っち!せめて教室から移動しないとみんなに見られ…」
「あ、あの!」
「う、うん!?」
黒影っちが、私の言葉を勢いよく遮る。
普段はあんなにおとなしくて可愛いのに、いきなり強引な姿勢になる黒影っちのギャップに、私はお腹が熱くなるのを感じた。
私、ついに人生初の告白されちゃうんだ____
でも黒影っちなら___
「お、おはようございます…」
「へ?」
そういうと彼は、とてとてと自分の席に戻って行った。
ただの挨拶やったんかーーーい。
途端に変な勘違いをした自分が恥ずかしくなってきた。私は羞恥で赤くなった顔を隠すように机に突っ伏し、彼を盗み見た。
ふんっ。もう当分黒影っちとは口をきいてやらないんだからね。
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