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繰り返す森
『何か』は森の中にいた。
自分は人間ではない何かだ。
それでも今日も、風が頰を撫でる柔らかさを静かに味わい、木々が揺れる音に、かすかな調べを感じ、陽の光が葉を透かして落ちる瞬間を、温かく、惜しむように見つめていた。
そんな『何か』の元に、一人の少女がやって来た。
白い服を着ている、泣きそうな表情の少女。
『何か』は、穏やかに声をかける。
潰れた瞳に、変わらぬ優しさが宿る。
「どうしてこんなところにいるの……?迷子になった……?」
少女は小さく首を振る。
声は震えていて、しかし必死に言葉を紡ぐ。
「私、貴方に会いに来たの……パパとママが喧嘩してるの……私、どうしていいかわからないの……だから、どうすればいいか、教えてほしいの……!」
『何か』は、その言葉を聞く。
この子にも、辛いことがあったのだろうと感じる。
心の奥で、何か人間らしいものを、
もう一度、取り戻そうとする。
決意を込めて醜い顔をゆっくりと上げる。
ゾッとするような。
歪んだ表情に変わる。
潰れた瞳に映ったのは、
遠くに立つボロボロの黒い服を着た少女。
彼女は、美しい満面の笑みを浮かべている。




