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萌芽

思えばこの物語の発端となった女、それが新宮透子。

 「待たせてごめんね、よかったら一緒にデートをしよう、美緒ちゃん」

そういって祷夜は旧倉庫を後にした。残された私たちを美緒が心配そうな表情で見つめるが、祷夜の腕が首にかかり美緒は堕ちた。

 「先輩。その、ごめんなさい。多分、私のせいでこんなことになったんですよね」

粉々になった破片を見つめる彼女を見ているといたたまれなくなり、つい口に出した謝罪の言葉。彼女の耳に届いたらしく、虚ろながらこちらを見つめる。

「先輩、これSDカードですよね?もしかしたら、写真自体は残っているものがまだあるかも…」

「…もう、いいの」

彼女は俯きながらつぶやいた。

「大方、わかったでしょう?晴香さん。祷夜がどんな人物か」

私は首を大きく縦に振った。かつての美緒がそうだったように、大きな動作で彼女の心を少しでも晴らしたかった。私たち二人は被害者だった。

「私はね、罰を受けたの。面白半分にあなたを文芸部に誘った、罰。彼女の愛は尋常のそれとはまったく異なる様相を呈しているわ…カメラが壊されただけで済んで幸運だったと、考える方が自然なの…」

彼女は手で顔を覆った。また染みを作らないように。

「東雲は普通の学校じゃない。ここは神を祀るための聖堂、私たちはもはや異教徒。異教徒たる私たちに昇る朝日はもうないの…」

彼女は嗚咽を漏らし、うずくまってしまった。とても見ていられなかったが、その姿には同情せざるをえなかった。

 「私のせいで、こんなことに巻き込まれてごめんなさい」

一通り泣き終えた彼女は、大きく頭を下げた。

「いやいや、私、透子先輩のおかげで朔夜先輩とも会えたんです。朔夜先輩に会えたことに比べたら、こんなこと屁の河童ですよ」

大きく手を動かし彼女をなだめる。どうやら有効打であったらしく、彼女はしおらしく微笑んだ。

「あなたは文芸部に入って、朔夜先輩と過ごして本当に満足しているのね…」

「そりゃあもちろん!朔夜先輩、ここだけの話なんですけど…やっぱ何でもないです!」

「どうしたの?口止めされているのなら、深追いはしないけれど」

「口止めされてるのはされてるんですけど…個人的に人に言いたくないなって…」

透子の手が私の頬を撫でる。冷たく、細い指だ。

「…それって、恋だよね」

透子は私の心を見透かしたように語り掛ける。その言葉は私の心を大きくざわつかせた。

 思えば、弱っている朔夜を見たときに感じた感情は、小動物を愛でるそれに似ていた。はじめて朔夜の香りを感じたときも、なんだか心がざわついていたような気もする。そうか、これが恋なんだ。

「透子先輩、私、もう恋なんてしないって誓ったんです。私は本当に恋をしてるんですか…?」

「ええ、だってあなたの頬、こんなに赤くなってるんだもの」


カメラって高いらしいですね。かなり。

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