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告解

うちの親は引きずり出してでも飯食わせに来てました。

 誰かがドアを叩く。布団にくるまり外界をシャットアウトする。暗闇だけが私を救ってくれていた。

「ご飯、ここに置いておくからね。お風呂も、自分の好きなタイミングで入っちゃってね。それと、辛いことがあればお母さんもお父さんも、お話聞くから。一人で思いつめないでね…」

私は誰かにうまく頼れない。これまでの人生、ずっとそうだった。誰かに期待すれば、それは必ず裏切られる。朔夜は私のことを素直という風に表現していたが、それは期待していないからにすぎない。

 あるとき私は先生に告白をした。

「先生、私女の子が好きみたいなんです。漫画みたいに男の子に対してドキドキしないんです。私はどこかおかしいのでしょうか?」

今思えば小学生の質問としては随分と大人びた質問で、あの時代にその質問は異端だった。

「そっか、悩んでるんだね。先生に相談してくれてうれしいよ。先生は、桐ケ谷さんがおかしいとは思わないよ?確かに、今の時代だと桐ケ谷さんみたいに悩んでる人は声を上げずらいけど、いずれは普通になるんじゃないかな?」

普通。その言葉は私を救ってくれた。今は異端として認識される概念がいずれは、普通として、人権を得る時代が来る。私はその話を聞いて心を躍らせながら家路についた。

 翌日、私のアブノーマルな性感覚はクラス中で笑いの種になっていた。

 私は両親に告げることもできず、毎日いじめられながら学校に通っていた。先生と目が合う度、先生は目を逸らした。今思えば、それは先生が漏らしたのではなく、この話をこっそり聞いていた児童がいたのだろう。

 中学校に上がるタイミングで都合よく親の転勤が決まった。私は新しい学校で美緒と出会い、同時にアブノーマルな性感覚を心の奥底に、私にも見つけられないところに仕舞った。

 中学時代、何人かの男子生徒と付き合ったことがある。誰もドキドキしなくて、付き合って一週間もしないうちに振ってしまった。私はやはり、どこかおかしかったのだ。

 そんな感情を発掘したのは、新宮透子だった。彼女は私のこの感情をおかしい、と思わず、むしろそっと受け入れていた。それは新聞部として色々な経験の末に生まれた、多様性なのだろう。彼女はこの恋を応援してくれるのだろうか?

 夜中に目が覚めた。月の光が私を照らしている。スマホを確認すると丁度一件の通知が入る。

「星の王子さま」

それだけ書かれたメッセージは御影朔夜のもので、文学少女らしい簡素なメッセージには文学少女らしい意図が隠されている、と信じた。

 真夜中の家を飛び出し、一冊の本を大事に抱えて月光の下走り抜ける。星の王子さまに挟まれていた栞が指し示すは近所の図書館。そこに彼女はいるのだろうか…

 祈りを携え私は図書館の前の広場、大木の下にへたり込んだ。久しぶりに運動をすると体は思い通りに動かないようだ。何度かつまずきスカートの端が破れてしまっている。親に怒られるな、と思い痛む足とスカートを眺めていると、誰かのつま先が視界に入った。上品なパンプスの持ち主は、御影朔夜。祈りは通じていたようだ。

「放課後はごめんなさい」

御影朔夜は私に深く頭を下げた。揺れる髪が月明かりに反射し、どんな闇よりも暗い様相を描いていた。今まで聞いたことのない声色の彼女は、お嬢様ではなく年相応の少女であった。

「いいんです。私は見放されたと思いましたけど、朔夜先輩は私のことちゃんと見守ってくれていたって、それがわかって私は満足していますから」

彼女は私の横に座り込むと、何があったのかを聞き出した。私は、一切の誇張をせず、御剣祷夜の思い、行動、そして、新宮透子のゴシップ。すべてをありのまま話した。私の朔夜への思いを除いて。

 すべてを聞いた後、朔夜は星々を眺めながら呟いた。

「人はなにかに意味を持たせようと努力するけれど、意味なんてただのおためごかしにすぎませんわ」

彼女はそういいながら紅茶を口に運んだ。静かに涙をぬぐいながら。

「どういうことです?」

「哀れな群衆はあなたと祷夜が二人でいることに意味を見出した。誰かを叩くための、意味を。そして祷夜は私を手に入れるために意味をつけて自分を王子として演じた。それらの行為には何の意味もありませんわ。文芸の美しさは、人の美しさはかこつけた人間の内側、その真理ですの。あなたもわたくしも、意味を持って何かを演じて生きているけれど、そんなの、人に対するただの押し付けで、人間は生きていることこそが美しいという事実を霞めてしまうものよ」

朔夜はペットボトルを置き、改めて私の方を見つめる。その瞳は一つの決意を孕んでいた。

「明日の正午、学校の中庭で待っていますわ。すべてを終わらせましょう」


冒頭のシーンはここです。でもこの部分だけ見るとペットボトルの紅茶とは思わなくて笑っちゃう。

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