救われた者達の後
お読み頂き有難う御座います。
「陛下、城内は落ち着いたようです」
「そうか、怪我人は?」
「軽症のものばかりです」
「何よりだ」
碌に手入れが行き届かない古びて静かな建物は、何時もと違って軍靴の音が響いていた。
三国の国境を守る場所。嘗ては三国から潤沢な資金と人材を集め、捜査官や騎士が沢山出入りしていた。
しかし、王国が資金を渋り、形骸化した今となっては高貴な血の避難所となっている。
「それで、聖女様は」
「眠っている」
「そうですか、お労しい……」
「哀れな少女だ」
クロシェットの上司……群島の国の国王は、何時もの緩い雰囲気のまま、悲痛な顔をする騎士に頷いた。
「ですが、彼女の演技のお陰で、反乱軍を一掃出来たのですから」
「演技……」
演技と言っていいのだろうか。
本人は、古い神殿のお伽噺……。
精霊に身を捧げて、成り代わって貰ったと思い込んでいる。
そして慕っていた姉達の名前も、自分の名前も忘れてしまった。
戦後でゴタゴタしているとはいえ、調べれば分かる筈なのに、どうしても邪魔が入る。
誰かが、意図的に邪魔しているかのように。
「私怨が有ったとはいえ、精霊に身を捧げるなんて、並大抵のお嬢さんに出来ることでは有りませんよ」
「心を病んでしまっただけではないのだろうか。痛んだ心が、傷を庇っているのでは」
仕草も声も性格も笑顔も同じなのに。
僅かに過ごしたとはいえ、あまりの変わりように国王は少し納得がいかなかった。
「言葉だけで、あれ程の厄介者達を痛めつける術、中々出来ることでは有りません。我が国の精霊のお導きです」
「彼女は我が国の民ではなかったのだが」
「それでも我が国を救ってくださったのですから。陛下、聖女様がお目覚めになられましたら是非お目通りを!」
部下の騎士は、聖女にすっかり魅入られたようだった。
彼女の身内を傷付けて罰を受け、牢屋で朽ち果てそうになった者達のように。
内乱は、収まった。
ある日。
聖女と名乗る、しかし名を忘れた少女の導きを、半信半疑で受け入れてから。
たった半年余りで収まった。
戦略も、敵の懐柔も、瓦解も。
勿論、戦後処理が残っているから直ぐにめでたしめでたし、とはいかない。
聖女は、戦後処理にも手を貸すのだろうか。彼女の強かさを持ってすれば楽になることだろう。
だが、国王はこれ以上聖女に頼るのが、気が引けた。
復讐を終えた彼女は、人ならぬ精霊の成り代りなどではなく。
心を壊して何もかも忘れているただの少女、なのではないか。
国王はそんな彼女を利用してしまった償いは、生涯負うつもりだった。
奥の部屋からは、物音1つしない。
国王は願った。
眠って、もう何もしなければいい。
時が心を癒すかどうかは、誰にも分からないけれど。
目覚めて、何かを少女が求めた時に。
手を貸せるひとりでありたいと。
お寒い中、お読み頂いた貴方に感謝を!




