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聖女の愛は透けて突き刺さる  作者: 宇和マチカ


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8/8

救われた者達の後

お読み頂き有難う御座います。

「陛下、城内は落ち着いたようです」

「そうか、怪我人は?」

「軽症のものばかりです」

「何よりだ」


 碌に手入れが行き届かない古びて静かな建物は、何時もと違って軍靴の音が響いていた。

 三国の国境を守る場所。嘗ては三国から潤沢な資金と人材を集め、捜査官や騎士が沢山出入りしていた。

 しかし、王国が資金を渋り、形骸化した今となっては高貴な血の避難所となっている。


「それで、聖女様は」

「眠っている」

「そうですか、お労しい……」

「哀れな少女だ」


 クロシェットの上司……群島の国の国王は、何時もの緩い雰囲気のまま、悲痛な顔をする騎士に頷いた。


「ですが、()()()()()のお陰で、反乱軍を一掃出来たのですから」

「演技……」


 演技と言っていいのだろうか。

 本人は、古い神殿のお伽噺……。

 精霊に身を捧げて、成り代わって貰ったと思い込んでいる。

 そして慕っていた姉達の名前も、自分の名前も忘れてしまった。

 戦後でゴタゴタしているとはいえ、調べれば分かる筈なのに、どうしても邪魔が入る。

 誰かが、意図的に邪魔しているかのように。


「私怨が有ったとはいえ、精霊に身を捧げるなんて、並大抵のお嬢さんに出来ることでは有りませんよ」

「心を病んでしまっただけではないのだろうか。痛んだ心が、傷を庇っているのでは」


 仕草も声も性格も笑顔も同じなのに。

 僅かに過ごしたとはいえ、あまりの変わりように国王は少し納得がいかなかった。


「言葉だけで、あれ程の厄介者達を痛めつける術、中々出来ることでは有りません。我が国の精霊のお導きです」

「彼女は我が国の民ではなかったのだが」

「それでも我が国を救ってくださったのですから。陛下、聖女様がお目覚めになられましたら是非お目通りを!」


 部下の騎士は、聖女にすっかり魅入られたようだった。

 彼女の身内を傷付けて罰を受け、牢屋で朽ち果てそうになった者達のように。



 内乱は、収まった。

 ある日。

 聖女と名乗る、しかし名を忘れた少女の導きを、半信半疑で受け入れてから。

 たった半年余りで収まった。

 戦略も、敵の懐柔も、瓦解も。


 勿論、戦後処理が残っているから直ぐにめでたしめでたし、とはいかない。

 聖女は、戦後処理にも手を貸すのだろうか。彼女の強かさを持ってすれば楽になることだろう。

 だが、国王はこれ以上聖女に頼るのが、気が引けた。


 復讐を終えた彼女は、人ならぬ精霊の成り代りなどではなく。

 心を壊して何もかも忘れているただの少女、なのではないか。

 国王はそんな彼女を利用してしまった償いは、生涯負うつもりだった。


 奥の部屋からは、物音1つしない。


 国王は願った。

 眠って、もう何もしなければいい。

 時が心を癒すかどうかは、誰にも分からないけれど。


 目覚めて、何かを少女が求めた時に。

 手を貸せるひとりでありたいと。


お寒い中、お読み頂いた貴方に感謝を!

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