7 拗らせと悲しみ
彼女と遊ぶことも増えたけれど、彼女の心が自身に向いているわけではなかった。
川や山に行くと、彼女は特にどこか遠くを見ている。
隣にいるのに、2人きりなのに、ひとりぼっちのような気分になった。
彼女と同じ目線で景色を見てみたことがある。
彼女は小柄だったから、少し屈んで彼女の目線に合わせて見てみたけれど、特に見える景色は変わらない。
花を見つけた時、彼女の表情は少し綻ぶ。
動物を見ると、彼女の表情は少し楽しげ。
その表情を自分がさせてみたい、自分にも向けてほしい。
自身がふざけたり、冗談を言っても、彼女の関心は薄い。
ある時、彼女に見てほしい気持ちが我慢できなくなり、とにかく見てほしいと思って、ひどい嘘を言った。
「1ヶ月前、涸れ井戸に猫を落とした。きっとミイラになって、自身を恨んでいるだろう。」
彼女は特に気にした様子もなく、こちらを見なかった。
ただ一言だけポツリと呟いた。
「もしそうなら、罪を背負い続けるのはしんどいだろうね。」
嘘かどうかも言及しない、動物の命を奪った話を責めもしない、その場にいる自身への言葉ですらないような、そんな一言だった。
本当にやったなら、自身は罪に苛まれていただろう。
そんな自身にとっては、これ以上ない共感だったのかもしれない。
嘘だったからこそ、彼女の口にした言葉の意味も分からず、ただ困惑した。
すぐ隣にいるのに、手を伸ばせば彼女の顔にだって触れられる距離なのに、彼女がひどく遠くにいるように感じた。
彼女がここにいると今確認しないと、もう2度と会えないような焦りを感じて、気付いたら彼女の手を掴んでいた。
彼女は少し驚きつつも、「どうしたの?」と首を傾げた。
ああ彼女はここにいるとホッとすると同時に、彼女の目に、自身が映っていないこと、彼女の心が向いていないこと、それがひどく辛くて悲しかった。
お願いだから、近くにいる自身を見てほしい。
手を握っていても、彼女の心は向かない事実に、泣きそうだった。
きっと抱き締めても、同じなのだと思うには十分過ぎる出来事だった。