38 忠実過ぎる下心
自身でつねった頬からは痛みを感じる。
夢ではない。
「確認できた?」
彼女が少しおかしそうに笑って聞くが、お酒のせいもあってすぐに答えられない。
「ああ、幻覚なら、自身の痛みだけでは判別できないね。君は夢か幻かと言っていたんだもの。では、触れてみる?」
彼女の言葉を聞くやいなや、自身は椅子から腰を浮かせかけた。
が、彼女がスッと片手を差し出したことで、そのまま座ることになる。
自身はまた、衝動的に彼女を抱き締めようとしたようだ。
自身の欲望へ正直過ぎる行動に羞恥心を覚えながら、彼女の手に触れる。
記憶よりも小さな手、自身が大きくなったのだと分かっていても、彼女の手をしっかりと握った。
恋人同士のように握ったり、両手で包んだりしていた。
「確認できた?」
「あ、うん、できた。」
彼女に聞かれて答えたものの、彼女の温もりをまだ感じていたくて、彼女の手を離せなかった。
彼女は離す様子のない自身を見て、首を傾げて、少し困った顔をしつつ、まあ良いかとそのまま手を握らせていてくれていた。
また他愛もない話をする。
彼女が自身の目の前にいてくれる。
彼女の手を握りながら、また心の中で願ってしまう。
お願いだから、自身へ心を向けてほしい(無理だ)。
お願いだから、このまま離さないでほしい(自身を盾に彼女を脅すのか)。
お願いだから、せめて自身を心に刻んでほしい(やり方は1つしか思いつかない)。
君だけを愛してる、君がいないと自身の人生は色もなくて、未来も希望がないんだ。
彼女と会うのは、きっと今日が最後だ。
最後くらい、彼女の温もりを望んだっていいじゃないか。
彼女はできないことをできるなんて言わない。
それが相手にとって残酷な言葉や選択だろうと、その先にある更に残酷な未来を相手に選ばせない為に、必ず彼女は突き放すだろう。
そしてきっと、彼女なら自身の選択を尊重して、最後のお願いを受け入れてくれるんじゃないだろうか?
自身が理解した彼女の価値観なら、きっと最後くらいは受け取ってくれる。
嫌そうな顔はするだろうけど。




