30 郷愁と願い
高校生活を新しい環境で始めても、彼女のことを忘れることはできなかった。
既に最後に会ってから4年以上経っているのに、忘れられない。
思いも捨てられない。
彼女のことを理想化し過ぎているのではとも考えたが、記憶の限りそんなこともなさそうで。
そもそも理想化や美化してるなら、容姿だってもう少しよく思い浮かべるんじゃないか?
高校も残り半年と言ったところで、両親からどうしたいかを聞かれた。
わざわざ離れる意味はなかった。
ちゃんと考えたから、地元に戻ってそのまま働こうと思うと答えた。
そして、彼女のことを久しぶりに口にした。
彼女の近況を聞くと、高校卒業後は、地元の大学に進学するらしい。
てっきりもう少し上の大学に行くと思っていたので、驚いた。
聞けば、彼女の兄弟が一人暮らしで体調を崩したとかで、心配だから家から通ってほしいと親から希望されたらしい。
それでその大学に入れてしまうあたり、彼女は頭が良い。
仲の良い同級生も一次試験でたまたま近くになったらしいが、特に何も言っておらず、もう少し上の大学に行くと思っていたと驚いていた。
聞かれなければわざわざ言わないのも彼女らしい。
高校を卒業して地元に戻ってからも、彼女は自身に会わないように気を付けているのか、異様な程会わない。
弟は通学で使うバスでたまに会うらしい。
彼女が高校の時も同様にたまに会っていたらしく、特に変わりないとのこと。
最近服装が大人っぽくなったとか、化粧をするようになって大人びたとか、そんな話を家族伝いに聞いていた。
気付けば地元に戻ってきてから2年程経った。
その間彼女と会うこともない。
生活圏が丸被りしていてこんなに会わないとはと、彼女の徹底ぶりと自身の勇気の無さに苦笑いしかない。
彼女と会わない期間は、合計6年程経った。
それでも思いは消えない。
彼女と再会できたら、自身にとっての結論が出そうだと感じていた。
彼女がいない未来も、彼女がいない自身の人生も、自身にとって意味も価値もなさないということを、この時既に理解していた。
彼女と会わない限りは、踏み出すことはない。
何の色も意味もない人生を、ただ惰性で生きていく。
彼女と会えば、きっと自身はこの一線を越える決断をするんだろう。