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16 残ったものは

彼女を抱き締めていた時間は、あまり長くはなかったと思う。

抱き締めていた手を離すと、彼女は振り向いて、自身を見てまた穏やかに言った。


「もういい?」

「…うん…ごめん。」

「何のごめん?」

「勝手に触ってごめん。」

「まあ、他人の体温とか匂いとか色々感じるから落ち着かないけど。別にいいよ。」


彼女に言われて、彼女の体温や匂いを意識して、一気に恥ずかしさでいっぱいになった。

彼女は自身が衝動にやったことに気付いているようだった。


「満足したの?」

「ああ…うん…その、あまり。」

「求める結果があるなら、手段は考えないとだね。」

「…そうだね。」


自身の好意は、幼稚園以来は明確に口にしていない。

幼稚園の時の告白以降、2人で遊んでいる時に何度か好意は匂わせたけど、ちゃんとは言えなかった。

彼女にまた好意を言おうかどうか少し悩んでいた。


「どうしたの?」


穏やかに言葉を紡ぐ彼女は、ここにいるのが自身ではない他の誰かでもきっと同じ対応をしただろう。

彼女の心には誰もいない。

自身を含めた同級生や学校の先生どころか、恐らく彼女の家族でさえも。

自身をどう思っているか?の答えは、きっと自身が想像できてしまった回答だろう。


「嫌いじゃないよ。」


でも好きという訳でもない。

彼女を衝動的に抱き締めて、彼女に触れた喜び以上に、自身の浅はかな行動への後悔と羞恥心、彼女の心が向いてないことを感じた虚しさが残っていた。


「そろそろ帰るね。また明日ね。」


いつの間にか彼女は帰り支度を終わらせていた。

彼女の言葉で我に返り、「あ、また明日」とだけ返して、彼女の後ろ姿を見送った。


彼女は誰にでも優しい。

彼女の優しさで、自身が苦しみや痛みを感じ始めていることにこの時気付いた。

それでも彼女への思いは手放せない。

彼女の、どんな心でも構わないから、向けてほしい。

たとえそれが好意ではなく、怒りや憎しみでももう構わなかった。

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