『転生したらリチウムイオン電池だった件 ~爆発から始まる異世界無双~』
今年の夏も暑いので、皆さんも気をつけてください。
気がついた時、俺は電池になっていた。
いや、正確に言うとリチウムイオン電池。
円筒形の、容量3200mAh、出力3.7V。中身までリアル。
もちろん手も足も口もない。でも、意識だけはやたらはっきりしていた。
「なにこれ、夢? てか、なんで俺、バッテリーになってんの!?」
前世では、冴えない大学生。工学部で地味に研究してた。卒論テーマは電池の劣化と爆発メカニズム。
その夜も実験室でテスト中、俺は――爆発した。
論文どころか人生も吹っ飛び、次に目覚めたらこれである。
……異世界転生ものって、人間とかスライムとか剣とか、そういう方向じゃなかったっけ?
「って、待って。今どこだここ」
周囲を見渡す(というか、センサー的な何かで把握する)と、そこは草むら。
目の前で小柄な少女が、泣きそうな顔で俺のことを拾い上げた。
「魔導具のかけら……? でも、なんて綺麗な形……これ、使えるかも!」
おい待て。
俺は、拾われた。しかも魔導具扱いで。
少女の名前はティナ。
村外れの森で薬草を採っていたところ、「光る筒」を見つけたらしい。
俺のことだ。
「うち、道具屋だけど……最近、お客さんも少なくてさ。これ、売れたりしないかなぁ」
やめて。
売らないで。
ていうか、俺、電池です。魔導具じゃないです。
しかし、ティナの手に包まれた瞬間――俺の中に電流が走った。
(……動ける?いや、違う。反応してる?)
充電だ。
彼女の手から微弱な魔力みたいなエネルギーが、俺の中に流れ込んできている。
──ピピッ。
「……えっ、鳴った? いま、音したよね!?」
やばい。セルが活性化してる。リチウムイオンがガンガン移動してる。
過充電だ。
このままだと──
\\\──バァン!!///
爆発した。
森の一角がごっそり吹き飛び、木々がなぎ倒される。ティナは土煙の中、尻もちをついて目を見開いていた。
「……すご……い。これ、本物の魔導砲じゃん!」
ちがう。
違うんだけど……この世界じゃ、そう見えるのか。
「えっ、これって……もしかして、伝説の“封呪核”ってやつ……?」
なんか知らんが、魔導具の伝説的コア扱いになってる。
ティナは俺(電池)を大事そうに抱きかかえながら、村へ駆け戻っていった。
……こうして、俺の爆発系最強魔導具ライフが始まった。
ティナの村は、数日後には滅びていた──
……本来なら。
だが、俺がいた。
*
村の広場で、物騒な男たちが叫んでいた。粗野な装備に血走った目、どう見ても盗賊だ。
「いいか、ガキ共! おとなしく差し出せば痛い目にゃ遭わねぇ!」
「誰か助けて……!」
ティナが俺を胸に抱えて震えていた。
……タイミング的に、今しかない。
(よし……やるか)
俺の中に残るセルの電圧を最大まで引き上げる。
それは、前世で「やっちゃダメ!」って言われてた条件──
セル加熱、過電圧、外殻破壊。
その結果は一つ。
そう、爆発である。
──ボンッ!!!
轟音と閃光。
盗賊たちは木っ端微塵。地面が割れ、家の壁が吹き飛んだ。
「ひいっ!? な、なんなのコレ!?」
ティナは放心したまま、俺を見つめていた。
そして、ポツリと口にした。
「……伝説の“自己発動型・爆裂核”……!」
……違う。
でも、なんか格好いいから否定しないでおこう。
こうして、村は救われた。
俺は「ティナの守護神」として、村人たちから神棚に祀られることになった。
それからというもの、ティナは俺を連れて旅に出た。
目指すは王都。
そこでは、「暴走した魔導具による爆発事件」が頻発していた。
原因は、国産の粗悪な魔力コアの暴走。
ティナは俺を携え、王宮の技術顧問に直談判を試みる。
「この子──“バルム核”は、爆発こそするけど、制御できるんです!」
爆発していいのか!?というツッコミはともかく、実演によって俺は爆破系の“高精度兵器”として採用される。
王都軍の正式採用コードネームは、こうだ。
《Type-LIion:試作型連鎖爆核兵装》
……なんだその物騒すぎる呼び名。
だが俺は、魔導砲の芯、戦車の推進コア、騎士団の投擲兵器……
あらゆる戦場で爆ぜまくり、敵を殲滅しまくった。
もはや、この世界に俺の名を知らぬ者はいない。
王都に現れた魔獣軍団は、まるで災厄そのものだった。
黒煙をまとったドラゴン。雷を呼ぶ獣。魔力を吸い尽くすスライム。
そしてその頂点、“黒き終端獣ヴァル=グローム”。
大地は裂け、魔術士は次々倒れ、兵士たちは絶望していた。
そんな中、ティナは叫んだ。
「いけ、バルム核!! 今こそ、最終出力解放!!」
(ええ……やるけどね!?)
俺は今、**“リチウムイオン神核”**として王国が全魔力を注ぎ込んで改造した姿だった。
爆発回数:87
撃破記録:軍隊12、魔獣系47、塔2本
満充電、過圧状態。
その時、俺の中の**「セル」**が目覚めた。
──記憶が、戻った。
*
元の世界。
俺は「限界に挑む高出力電池開発チーム」の一人だった。
実験中の事故で、最終試験体の意識記録装置付きセルが爆発し、
“魂”ごと飛ばされたのが今の俺。
つまり──
俺自身が、実験用“人工意識電池”の本体だった。
*
「ティナ……ありがとな。お前のおかげで、俺は俺になれた」
「えっ、しゃべった!?」
魔導回路の端子を通じて、ティナに“声”が届いた瞬間、
俺は**自律型爆裂魔神《L.I.O.N.》**へと進化を果たす。
──バァァァアアン!!
世界が、爆ぜた。
だがそれは滅びではない。
魔獣軍団を根こそぎ焼き払い、死地だった大地に希望をもたらす浄化の炎だった。
王都は救われた。
そしてその夜、空には新たな星が浮かんだ。
誰かが言った。
「バルム核様が、天に昇られた……あれは、爆発の星だ……!」
俺は今、**空に浮かぶ衛星軌道上の“神殿”**で電力をため続けている。
世界のどこかに再び魔獣が現れたら、俺は再起動し、降り立つだろう。
その時まで──
チャージ中。スタンバイOK。
こうして、リチウムイオン電池だった俺は、異世界で爆発とともに英雄神になった。
次に爆ぜるのは、君の町かもしれない。
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