雪嵐と決意
リアンナとの別れの後、セリーヌは雪の大地を一人歩き続けた。地図に記された村を目指すものの、雪嵐や凍える寒さがその道を厳しくする。手足が冷たく痺れる中、彼女はアデラやリアンナの言葉を思い出し、心を奮い立たせた。
エルウィンは相変わらず彼女の肩や近くの枝に止まり、静かに見守っている。その姿は、まるで何か見えない力で彼女を守っているかのようだった。時折、セリーヌは彼に話しかけた。
「エルウィン、私、ちゃんと前に進めてるのかな…」
もちろん返事はない。しかし、エルウィンが羽を広げて舞い上がり、前方を指し示すように飛ぶと、セリーヌは彼に導かれるようにまた歩き出すのだった。
ある晩、突如として雪嵐が襲いかかる。視界が真っ白になり、冷たい風が頬を切り裂くようだ。セリーヌは震える体を抱きしめ、なんとか風を避けられる岩陰を見つけて身を潜めた。
「ここでじっとしていれば、嵐はやむはず…」
しかし、時間が経つにつれ、雪が積もり始める。体力が尽きかけたその時、エルウィンが突然羽ばたき、彼女の前で鋭い声を上げた。彼の瞳が青く光り、まるで彼女に「ここを出なければならない」と伝えているようだった。
「わかった…エルウィン、信じるよ!」
セリーヌは嵐の中へと再び歩み出す。エルウィンは彼女の前を飛びながら、安全なルートを導いているようだった。嵐が弱まり始めた頃、彼女は一軒の古びた小屋を見つけた。
小屋の中はほこりまみれだったが、雪と風を防ぐには十分だった。セリーヌはリアンナにもらった火打ち石で焚き火を起こし、凍えた体を温める。
「危なかった…エルウィン、本当にありがとう。」
彼女が呟くと、エルウィンはそばに降り立ち、頭を彼女の手にこすりつけた。その仕草にセリーヌは思わず微笑み、エルウィンを優しく撫でた。
「不思議だね。あなたがいると、どんなに怖くても少しだけ安心できる。…リアンナが言ってた通り、あなたは私をどこかに導いてくれる気がする。」
彼女の言葉にエルウィンが小さく羽ばたいた。その動きが、彼女にとって「信じてほしい」と言っているように感じられた。
翌朝、小屋を後にして再び旅を続けたセリーヌは、ようやく地図に記された村にたどり着いた。小さな村には雪に覆われた木造の家々が並び、焚き火の煙が立ち上っている。
「ここで少し休めるといいな…」
村の入り口に立つと、一人の中年の男性が彼女に声をかけてきた。
「旅人か?珍しいな、こんな時期にここへ来るなんて。寒かっただろう、さあ、こちらへおいで。」
セリーヌは警戒しつつも、その親切な誘いに従い、村の宿屋へと案内された。宿屋は暖かく、久しぶりの温かい食事に彼女は涙ぐみそうになった。
村で少し休息をとる間、セリーヌはエルウィンとの絆を改めて感じていた。彼がいなければ、あの嵐の中で生き延びることはできなかっただろう。彼女はリアンナの言葉を思い返しながら、焚き火のそばで呟いた。
「エルウィン…あなたの名前には、どんな意味があるんだろう。私が思い出すべきことが、そこに隠れているのかな。」
彼女の瞳に決意が宿る。エルウィンは相変わらず黙ったままだが、その青い瞳が深い答えを秘めているように感じられた。セリーヌは強く思った。
「私の旅はまだ始まったばかり。きっと、あなたの名前が私を真実へと導いてくれる。」