助っ人
セリーヌは木の棒を握りしめ、冷たい汗を額に滲ませながら男たちの動きを注視した。エルウィンが頭上を舞い、彼女を守るように鋭い鳴き声を上げている。だが、相手は慣れた狩人だ。すでに包囲されつつある状況に、セリーヌの心は焦りで締め付けられた。
「これじゃダメ…!守られるだけじゃ、いつか追い詰められる!」
再び襲いかかってくる男に向かい、セリーヌは本能的に足を踏み出した。無我夢中で棒を振るうと、偶然にも相手の槍を叩き落とすことに成功した。だが、その振動で手が痺れ、武器を手放してしまう。
「ちっ、小娘が!」
男は苛立った表情で地面から槍を拾い上げる。その瞬間、エルウィンが低空飛行で男の背後に迫り、再び鋭い爪を振り下ろした。男が痛みで叫ぶ中、セリーヌはその隙をついて後退し、雪深い茂みに隠れた。
その時だった。鋭い弓の音が空を切り裂き、男たちのうち一人が肩を押さえて膝をつく。続けて、堂々とした声が響き渡った。
「よそ者に手を出すとはいい度胸だな!この地は私の縄張りだ!」
現れたのは長身の女性だった。黒髪を高く結い、猟師のような装いを身にまとった彼女は、弓を片手に毅然と立っていた。その背後には大型の犬が一匹控え、低い唸り声を上げている。
「誰だてめえ!」
男たちが叫ぶが、彼女は弓を構えたまま微動だにしない。冷たい笑みを浮かべて一言だけ返した。
「私に挑むなら命を覚悟しな。」
その言葉に気圧された男たちは、武器を下ろして後ずさり始めた。最終的に「つまらん獲物だ」と吐き捨て、雪道を引き返していった。
セリーヌは雪の中から恐る恐る顔を出した。女性は弓を下ろし、犬の頭を軽く撫でながら彼女の方を向いた。
「怪我はないかい?」
その柔らかな声に、セリーヌは思わず涙ぐんだ。
「ありがとう…私、どうしていいか分からなくて…」
エルウィンが再び肩に降り立ち、彼女の頬に翼を触れるように撫でた。その温かさに、セリーヌは少しずつ落ち着きを取り戻した。
女性は自分を「リアンナ」と名乗った。かつてこの辺りで暮らしていた村の生き残りで、現在は狩猟と旅を生業にしているという。
「こんな所で一人で旅しているなんて、命知らずだね。それとも…訳ありってところか?」
リアンナの問いかけに、セリーヌは記憶喪失であることを話した。
「そうか…辛いね。でも、あんたにはその鳥――エルウィンだっけ?ちゃんとした相棒がいるじゃないか。」
リアンナはエルウィンを見て微笑んだ。その一言に、セリーヌの胸が少し温かくなった。
「エルウィンって…本当に良い名前だと思う?」
彼女が尋ねると、リアンナは真剣な顔で頷いた。
「ああ、とても特別な響きがする。まるで運命に導かれるような名前だ。」
その言葉に、セリーヌは自分が無意識のうちにエルウィンという名前を選んだことに何か意味があるのではないかと思い始めた。