バレスト
瘴気の森を抜けたセリーヌたちは、ようやくバレストの町にたどり着いた。石造りの家々が立ち並び、城壁に囲まれたこの町は、かつて交易で栄えた拠点だった。しかし、今は活気を失い、人々の顔にはどこか疲れた様子が見て取れる。
「ここがバレストか…。思ったよりも静かね。」セリーヌが辺りを見渡しながら呟く。
「瘴気の影響だろうな。」リアンナが険しい表情で答えた。「この町も完全に安全じゃない。注意を怠るなよ。」
町の広場では、何人かの住民が祈りを捧げるように地面に跪いていた。中央には大きな石碑が立っており、その表面には不気味な模様が刻まれている。
「またこの紋様…」リアンナが眉をひそめた。
「これも瘴気と関係があるの?」セリーヌが尋ねると、リアンナは小さく頷いた。「どうやらこの町でも何かが進行しているみたいだな。」
宿を取ろうとした一行は、町の人々から「夜は外に出るな」と警告を受けた。
「最近、町の外れで人が何人も行方不明になってるんだ。夜に歩いていた者たちばかりだと聞くよ。」宿の主人が怯えたように話す。
「それだけじゃない。」別の客が口を挟む。「行方不明になった人たちが、森の中で異形の姿になって戻ってきたって噂だ。」
その言葉にセリーヌは背筋が凍る思いがした。「異形って、どういうこと…?」
「瘴気に侵されたんだろう。」リアンナが低く呟く。「この町は、瘴気の影響が既に深刻だ。石碑もその一環だろうな。」
その夜、一行は町を見回るため、注意深く宿を出た。静まり返った町の路地を進んでいると、薄暗い街灯の下に立つ一人の男が目に入った。
彼は黒いマントを羽織り、鋭い目つきでセリーヌたちを見つめている。
「こんな夜更けに出歩くとは、命知らずだな。」男が冷たい声で言った。
「誰だ?」リアンナが警戒心を露わにする。
「ただの通りすがりさ。」男は小さく笑みを浮かべた。「お前たち、森を通ってきただろう?瘴気に触れて無事でいられるとは珍しい。」
「何が言いたいの?」セリーヌが尋ねると、男は彼女を一瞥して口元を歪めた。「あんたは…面白い存在だな。その鳥も含めて。」
エルウィンが鋭く鳴き声を上げ、男に敵意を示した。
「興味深い。だが、今日はまだ動かないでおこう。俺の名はザイファー。いつかまた会う時が来るだろう。」そう言って男は影の中へと消えていった。
「何者なのかしら…」セリーヌは呆然とその場に立ち尽くした。
その翌日、町の外れで新たな魔物の目撃情報を聞いた一行は、調査のため現場へ向かった。そこには、瘴気の影響で変異した獰猛な魔物が待ち受けていた。その姿は、かつて人だった名残を残しつつ、異形の混ざり合った恐ろしいものだった。
「これが瘴気に侵された者たちか…!」リアンナが叫ぶ。
セリーヌは槍を握りしめながら、自分の心がざわつくのを感じた。変異してしまったその魔物を見ていると、どこか痛ましい気持ちが湧き上がる。
「迷ってる暇はない!こいつらはもう助けられないんだ!」リアンナが叫び、剣を振りかざす。
セリーヌは決意を固め、再び冷気の魔力を解き放った。
「《フロストブレイズ》!」彼女の声と共に放たれた氷の刃が魔物を凍らせ、動きを止める。その隙を突き、リアンナが剣を突き立ててとどめを刺した。
戦いの後、現場には瘴気を放つ奇妙な装置が残されていた。それを見つめるリアンナは険しい表情で呟いた。「これは瘴気を人工的に作り出している装置だ…。こんなものを扱えるのは限られた連中だけだ。」
「まさか、あの男が関係してるの?」セリーヌがザイファーのことを思い浮かべる。
「可能性はあるな。」リアンナは鋭い目で答えた。「奴の正体を探る必要がある。」
一行はバレストの町を離れる決意を固めるが、その背後では、彼らを追う謎の視線があった…。