影食い
旅を続ける一行は、バレストの手前に広がる広大な森へと足を踏み入れた。そこは「影食いの森」と呼ばれる場所で、昼間でも木々が陽光を遮り、薄暗い空気に包まれていた。この森には「影食い」という名で恐れられる魔物が潜むと伝えられていた。
「ねぇリアンナ、今更だけれど瘴気って一体何なの?」セリーヌが歩きながら問いかける。
リアンナは険しい顔で森を見渡しながら答えた。「瘴気は、この世界に古くから存在するとされる負のエネルギーだ。人々の怨念や絶望が凝縮され、空間そのものを侵食する。自然や生物を歪め、魔物を引き寄せる要因にもなる。」
ダリルが補足する。「ただし、瘴気には種類がある。自然発生的なものもあれば、人為的に作られたものもある。この影食いの森は後者だ。黒い法王のような者が実験や儀式に使った形跡がある。」
「瘴気は消せないの?」セリーヌが不安げに尋ねる。
「完全に消し去るのは難しい。ただ、一時的に浄化する方法はある。特殊な術式や力が必要だけどな。」リアンナが短く答えた。
その言葉に、セリーヌは自分の力が何かに役立つ可能性を感じつつも、それをどう引き出すべきか悩む自分を感じていた。
森の奥へ進むにつれ、足元から異様な音が聞こえた。暗い地面の影が揺れ動き、一瞬で周囲の空気が変わった。
「来るぞ!」リアンナが叫ぶ。
地面から現れたのは、「影食い」と呼ばれる魔物だった。それは影そのものが具現化したような存在で、実体を持たないように見えるが、その爪や牙は光を飲み込みながらも鋭い輝きを放っている。
「ただの狼じゃないわね…どう戦えばいいの?」セリーヌが槍を構えるが、相手の形状に戸惑いを隠せない。
「光を当てるんだ!」リアンナが叫びながら焚き火用の松明を取り出し、影食いに向けて投げた。火が影を焼き、魔物が一瞬動きを止める。
「攻撃のチャンスだ!」ダリルが剣を振るうが、影食いは再び姿を変え、空間を移動するように消えてしまった。
影食いが次々と現れる中、セリーヌは自分が動けないことに苛立ちを感じていた。しかし、エルウィンが頭上で力強く翼を広げ、森の上空を飛び回る姿を見て、ふと心が落ち着いた。
「自分にできることを見つけなきゃ…」セリーヌは冷気の魔力を槍に集中させ、周囲の空気を一気に凍らせた。
「《フロストブレイズ》!」彼女が叫ぶと、槍から放たれた氷の刃が影食いの群れを襲い、一瞬で動きを封じた。その凍りついた影をリアンナが仕留め、ついに戦闘が終わった。
戦闘を終えた後、一行は森の中央にある奇妙な遺跡を発見した。そこには瘴気を放つ黒い石柱が立ち、無数の紋様が刻まれている。
「この石柱が瘴気の源か…」リアンナが慎重に近づく。
セリーヌは石柱に触れようとしたが、リアンナが手を振り払った。「危険だ!触れるな。」
その時、石柱から低い声が響いた。
「我が主は目覚める…この地の全てが浸食されるのも間近だ。」
その言葉に一行は身構えたが、声の主は影食いのように空間に溶けて消え去った。
リアンナは石柱の刻印を見つめながら呟いた。「この紋様、どこかで見た気がする…」
ダリルが怪訝な顔で問いかけた。「どこで?」
「かつて私がいたギルドの文献だ。この紋様は禁術を使う者たちの間で共通して使われるものだよ。」
「禁術…」セリーヌはその言葉に反応し、心の中で一つの疑問が生まれた。それは、自分の力がなぜこの瘴気や魔物に反応するのかということだった。
リアンナは石柱の前で言葉を続けた。「この紋様が何を意味するのか、もっと情報を集める必要がある。この先のバレストで調べる機会があるはずだ。」