旧友
セリーヌとリアンナは、瘴気に侵された魔物を倒した後、さらに奥へと進む。森を抜けた先に、小さな町が広がっていた。町の名前はハルステッド。冒険者たちの拠点であり、交易が盛んな場所だったが、どこか活気が感じられない。
「ここが次の目的地だ。」リアンナが肩にかけた鞄を軽く叩きながら言った。「魔物の件を報告し、しばらく休息するのも悪くない。」
セリーヌは疲労感を隠せないまま、町の門をくぐる。その瞬間、冒険者風の男たちがリアンナを見つけ、大声で話しかけてきた。
「おいリアンナ!久しぶりじゃないか!あんたが帰ってきたってことは、また厄介な依頼でも片付けたのか?」
リアンナは男たちを無視して進むが、セリーヌに小声で耳打ちする。「ここは情報が集まりやすいが、それだけ危険な人間も多い。油断するなよ。」
二人が向かったのは町の中心にある冒険者ギルドだった。中は賑やかで、依頼の掲示板の前に人だかりができている。セリーヌはその光景に目を輝かせた。
「これが…冒険者の世界なんだね。」
リアンナは受付に向かい、魔物の件を報告する。ギルドの受付嬢は真剣な表情で聞き入れ、何枚かの報告書を確認した。
「リアンナさん、瘴気に侵された魔物の報告はここ数ヶ月で増えています。それも、この周辺地域に集中しているんです。」
リアンナは顎に手を当てて考え込んだ。「この町にも瘴気の影響が出ているのか?」
「はい。近くの湖が瘴気に侵され、水源が汚染され始めています。このままでは町の存続にも関わります。」
「湖か…厄介だな。」
その時、背後から声がかかった。「おいリアンナ、また厄介事に首を突っ込むつもりか?」
振り返ると、黒髪で片目に傷を持つ男が立っていた。その顔には、かつてのリアンナの仲間らしい親近感があるものの、どこか険しい雰囲気も漂っている。
「…ダリル。まだこの町にいたのか。」リアンナが小さく笑う。
「お前が帰ってくるなんて珍しいな。そっちの子は…見慣れない顔だな。」ダリルの視線がセリーヌに向けられた。
セリーヌは少し戸惑いながらも頭を下げた。「私はセリーヌです。リアンナさんに助けられて…一緒に旅をしています。」
「そうか。」ダリルは興味深げに彼女を見つめた後、リアンナに向き直った。「湖の件で動く気なら、俺も同行するぞ。どうせ一人じゃ無理だろ。」
「一人じゃないさ。」リアンナがセリーヌを指して答える。
「…本気か?」ダリルは半笑いでリアンナを見た。「この子供が役に立つとでも?」
リアンナは微かに笑い、セリーヌに言った。「こいつに見せてやれ。昨日の魔物戦を思い出してな。」
ギルドの広場に集まった冒険者たちの前で、セリーヌとダリルが向かい合った。ダリルは木剣を軽々と振り回しながら言った。「俺を少しでも動かせたら認めてやる。」
セリーヌは槍を手にし、エルウィンが空から見守る中、深呼吸をした。彼女の中で、あの日の戦いの感覚が蘇る。
「行くぞ!」ダリルが一気に間合いを詰めて攻撃を仕掛ける。
セリーヌは驚きながらもリアンナの訓練を思い出し、体を低く構えて避けた。次の瞬間、槍の先端から冷たい空気が広がり、ダリルの足元に氷が張り始める。
「なんだこれは…!」ダリルが驚いて足を止めた瞬間、セリーヌは槍を突き出し、彼の剣を弾いた。
周囲が一瞬静まり返る。
「やるじゃないか。」ダリルは苦笑いしながら剣を下げた。「その力…本物だな。」
「ありがとう…ございます。」セリーヌは息を切らしながらも微笑んだ。
リアンナは腕を組んで満足そうに頷いた。「これで文句はないな、ダリル。」
ダリルは小さく笑い、「ああ、行くなら俺もついていく。こいつを見ているのが面白そうだ。」と言った。