身支度
セリーヌとリアンナは森を抜け、広大な草原にたどり着いた。遠くには小さな町が見える。夕陽に染まる空を背に、リアンナが立ち止まり、目を細めた。
「ここから先は、少しずつ文明が戻る場所だ。けど、その分、危険も増す。」
セリーヌは頷きながら足を進めた。ここ数日の旅で彼女は少しずつリアンナへの信頼を深めていた。エルウィンは肩に止まったまま、目を閉じている。
町に入ると、喧騒と人々の活気に包まれる。市場では様々な商品が並び、旅人たちが賑わっている。
「ここで装備を整えよう。お前のその服装じゃ、いつまた寒さや襲撃に耐えられなくなるかわからない。」
リアンナがセリーヌを連れて向かったのは、小さな鍛冶屋だった。そこで二人は武器と防具を選び始める。リアンナが軽装の鎧を手に取り、セリーヌに持たせる。
「これなら動きやすいし、防御もある程度はできる。」
そのとき、店の奥から一人の青年が顔を出した。筋肉質で無骨な雰囲気のある青年だが、目元には優しさが見え隠れしている。
「いらっしゃい。何かお探しかい?」
リアンナがその青年に目をやり、軽く顎をしゃくった。「彼女の装備を揃えたいんだ。頼めるか?」
青年はセリーヌを見て、少し微笑んだ。「もちろん。君に合うものを探そう。」
セリーヌは緊張しながら頷いたが、どこか彼の優しい態度にほっとしている自分に気づいた。その後、装備を整え終えると、青年がふと声をかけてきた。
「君たち、旅をしているんだよね。この町から少し南に行った森で、最近妙なことが起きてるんだ。もし何か分かったら教えてくれないか?」
リアンナは少し眉をひそめた。「妙なこと?」
「そうだ。行方不明者が増えていて、森の奥から妙な音が聞こえるって話だ。」
セリーヌはその話に興味を引かれたが、リアンナは少し考え込むような様子を見せた後、青年に答えた。「状況によるが、暇があればな。」
その夜、リアンナはセリーヌを連れて酒場に入った。明るい光が漏れ出る店内は、旅人や町の人々で賑わっている。リアンナはテーブルに座り、セリーヌを向かいに座らせた。
「ここは情報が集まりやすい場所だ。耳を澄ませていれば、有益な話も拾える。」
セリーヌは少し驚きながらも、店内の賑わいを見渡した。そこには様々な人々がいる。腕に派手な刺青を入れた冒険者、楽器を奏でる吟遊詩人、そしてローブに身を包んだ謎めいた人物。
「何を探すべきですか?」セリーヌが小声で尋ねると、リアンナは小さく笑った。「答えは自然に見つかるさ。」
そのとき、隣のテーブルで何やら険しい口論が始まった。冒険者たちが一枚の地図を巡って言い争っている。
「この場所が本当に存在するなら、俺たちは一山当てられる!」
「馬鹿を言うな。あんな場所に行けば命を落とすだけだ!」
興味を引かれたセリーヌが耳を傾けると、リアンナが苦笑いしながら言った。「こういうのが典型的な冒険者の騒ぎだ。深入りするなよ。」
その夜、セリーヌはエルウィンを撫でながら窓の外を見つめた。彼女の心には、再び強くなりたいという思いが芽生えつつあった。リアンナの訓練や、青年から聞いた森の話、冒険者たちの熱気。
「リアンナさんみたいに強くなりたい。誰かを守れるくらいに。」
エルウィンがその言葉に反応するように小さく鳴き、青白い光をほんの少し放った。その光が彼女の手に触れた瞬間、セリーヌは一瞬だけ、何か深い記憶の欠片が頭をよぎるのを感じた。