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試練


セリーヌが村に滞在して数日が過ぎた。体力を回復した彼女は、村人たちの仕事を手伝いながら、静かな日々を過ごしていた。エルウィンは相変わらず彼女の肩や屋根の上で村の風景を見下ろしている。


しかし、平穏は長く続かなかった。ある日、村を襲う異変が起きた。


夕方、村外れの森にある畑が荒らされたという知らせが村中に広がった。犯人は大型の獣らしい。足跡を辿った村人が確認したところ、かなり危険な存在である可能性が高いという。


「どうするんだ、村長?」

焦る村人たちの声に、村長の老人が困惑しながら答えた。

「討伐隊を出すにしても、皆が暮らしに追われている中では人数が足りん。どうしたものか…」


セリーヌはそのやり取りを宿屋の片隅で聞いていた。


「危険な獣…?」


彼女はリアンナの言葉を思い出した。「自分を守る術を覚えなければ、命を落とすことになる。」

胸の中で緊張が高まる。自分は村人たちの助けになれるのだろうか。だが、エルウィンが彼女の肩に軽く止まり、その青い瞳でじっと見つめた。


「…わかった。行くよ。」


決意を固めたセリーヌは村人たちに近づき、勇気を振り絞って言った。


「私も…手伝います!」


村人たちは驚いた様子で彼女を見つめたが、村長は静かに頷いた。

「わかった。だが、無理はするな。まだ若い君に全てを任せるわけにはいかん。」


こうして、数人の村人とともに、セリーヌは森へと向かうことになった。


森は冷たく静まり返っていた。雪の積もった道を慎重に進む一行の前方に、大きな唸り声が響く。音の主は、巨大な白い狼のような獣だった。全身に霜を纏い、青白い目で人間を睨みつけている。その姿は、ただの動物ではないように見える。


「やっぱりただの獣じゃないな…!」村人の一人が震える声で呟いた。


セリーヌは手にした槍を強く握りしめた。目の前の存在が、自分の命を奪うかもしれないという恐怖が体中を駆け巡る。それでも、彼女の肩に止まったエルウィンが静かに羽ばたき、再び前方を指し示した。


「怖がるな…大丈夫。」自分に言い聞かせるように呟きながら、セリーヌは前に進み出た。


狼が低い唸り声を上げ、飛びかかってくる。その瞬間、リアンナに教わった動きを思い出し、体を低く構える。敵の攻撃をかわし、槍の先端を突き出すも、分厚い毛皮に弾かれる。


「くっ…!」


何度も倒れながら立ち上がるセリーヌの姿に、村人たちが息を呑む。そして、エルウィンが上空で鋭い声を上げ、青白い光を放った。まるで彼女に新たな力を与えようとしているかのようだった。


セリーヌの心が静まり、冷静に敵の動きを見極める。狼が再び飛びかかってきた瞬間、彼女は槍を振り上げ、狼の脇腹を正確に捉えた。


獣は大きな叫び声を上げ、雪の中に倒れ込んだ。息を切らしながらも立ち尽くすセリーヌに、村人たちの歓声が響いた。


その夜、村ではささやかな宴が開かれた。セリーヌが命懸けで守った村を、村人たちが心から感謝していた。


「君はただの旅人ではないな。」村長が笑いながら言った。


セリーヌは頬を赤らめながら首を振った。「私だけじゃありません。エルウィンがいたから、私はあの狼に立ち向かえたんです。」


エルウィンは焚き火のそばで静かに佇んでいたが、その瞳にはどこか誇らしげな光が宿っていた。


「君は特別な力を持っているのかもしれないな。」村長の言葉に、セリーヌは少しだけ微笑んだ。

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