シルバー エコーズ
冷たくも美しい冬の朝、1人の少女が静かな雪原に佇む小屋で目を覚ました。
長く銀色の髪が、窓から差し込む光と混じり合い、輝きを放つ。まだ目が覚めきっていない薄い意識の中で、彼女の心の奥にはまるで凍りついた湖の底に沈んだ記憶のかけらが隠れているような深い孤独感があった。
今から1年前の冬
少女が雪深い森の中で倒れていたのは、冬の厳しい寒さが山肌を覆い尽くす季節だった。
彼女は冷たい雪に包まれ、まるでそのまま白い世界に溶け込んでしまうかのように意識を失っていた。
そんな彼女を見つけ、助けたのは「アデラ」という年老いた女性だった。
アデラは雪原の小さな小屋でひとり静かに暮らしており、記憶を無くしていた少女に「セリーヌ」という名を与えてくれた。
アデラはセリーヌに様々なことを教えた。
アデラと過ごす日々の中で記憶を無くし行く宛も無いセリーヌは、そんな彼女に深い愛情と信頼を抱くようになっていった。
しかし一ヶ月前、アデラは病に倒れセリーヌの目の前で静かに息を引き取った。アデラは最期の瞬間まで優しく微笑んでいた。
アデラの死後、深い悲しみと地方特有の寒波に阻まれ、行く宛もないセリーヌは彼女と共に過ごした小屋を出ることができずにいた。
短い間ではあったが、アデラと過ごしたその小屋は彼女にとって唯一の居場所であったからだ。
だが、1人になってしまった今、セリーヌの心の奥底には、「自分は何処から来たのか?」「自分は何者なのか?」という事を知る為に再び歩み出さねばならないという小さな葛藤が芽生えつつあった。
「私はどこに行けばいいのだろう」セリーヌは自問自答する。声が冷たく静まり返った空気の中で響く。
しかし何度問うても彼女の記憶はまるで消えかけた蝋燭の灯火のように頼りなく揺れ、どこへ向かうべきかを教えてはくれなかった。