34.お願い、助けて
体が燃えるように熱い。息が思うようにできなくて苦しかった。息を吸うたび、吐くたび、嫌な頭痛に襲われる。目から勝手に涙がこぼれ落ちた。苦しい、胸の奥が締め付けられて痛い。時々、強烈なめまいがして視界が一回転する。私が回っているのかな、ベッドに横たわっているだけなのに。
こういう時、お母さんが恋しくなる。瓦礫に押し潰されて、白い腕が床の上に投げ出されていた。お母さん、お母さん。でも、こういう時、面倒を見てくれたのは決まってお父さんだった。冷たい手のひらで、あつあつのおでこを包み込んでくれた。
窓辺にはピンクの分厚いカーテン、飾りは星のガーランド。床にはおもちゃと木馬があって、ベッドは部屋のすみっこに置いてあった。狭いベッドはふかふかで寝心地がいい。常にピンクベージュ色のカバーがかけられていた。不思議と住んでいた家のことを思い出す。
「……うん、まだ熱が下がらないね。苦いお薬飲んでみよっか」
「嫌だ~……!!」
「シェリー、終わったら遊びに行こう。苦しいのが終わったら遊びに行けるよ」
「お父さん、あのね、シェリー、海を見に行きたい! また貝殻拾いたいの」
「じゃあ、お薬飲まないと。頑張ろうか」
お父さん、知ってたよ、私。お母さんはユーインの方が好きだった。お父さんはそのことを隠してたみたいだけど、分かっちゃったよ。死ぬ間際にね、お母さんは私のことを気にしなかったんだ。ユーインをお願いねって言ってた。
(あれ? お父さんはなんて言ってたっけ、死ぬ間際……)
事故の記憶は曖昧で上手く思い出せない。まっさらなカーテンの向こうでお父さんが慟哭して、何か言ってるような気がしたけど、すぐに溶けてなくなった。私の体、どうしちゃったんだろう。ひっきりなしに吐き気とめまいがする。歯の付け根が震える。寒いのに、関節が熱くて痛い。お腹の底が気持ち悪くてふわふわする。
(水、水、飲まなきゃ)
喉がカラカラだ。今すぐ冷たい水をたっぷり飲んで、熱を少しでも和らげたい。でも、寝転がっているだけでつらい。毛布の中で体を折りたたみ、自分の手を握りしめていると、孤独感が増した。誰も気にしてないのかなぁ、私のこと。
真夜中だから? 苦しいよ、助けて。どんどん熱が上がってきた。さっきはそこまで酷くなかったのに……。ドアの開く音がして、誰かが部屋の中に入ってくる。敵だったら死んじゃうかも。だけど、敵はドアから入ってこないよね。誰かが毛布を剥いで、汗で濡れた髪の毛に触れる。
「可哀相に。大丈夫? シェリー」
「どうして、ジュードなの……。私の恋人だったら良かったのに」
「元気そうだね。あーあ、シェリーが恋愛で浮かれるタイプだと思ってなかったよ」
「だって、レナード殿下が……」
何度も繰り返し、蜂蜜色の瞳を嬉しそうに細めて「俺の恋人」って呼んでくれたから。浮かれているのはレナード殿下だと思う。私の看病ができなくて、悔しそうな顔をしていた。反論したくても、熱のせいでできない。意識が朦朧とする。ジュードが無理やり私を抱えて、ベッドに腰かけた。少し動くだけでも関節が痛み、めまいに襲われる。
「水だよ、ほら、口を開けて」
「ん……」
冷たいものがぬるりと口の中に入ってきた。最初、水かなと思ったけど違う。ジュードの舌を噛みちぎってやりたくなったけど、ぐっと耐えて、強く噛む。笑いながら離れていった。こんなに体が重くて、頭が痛くて、吐き気がするのに……。殺意が湧いた。暗がりの中で私と同じ、赤紫色の双眸がこっちを覗き込んでくる。
「ごめんごめん。次は絶対に水だから。口移しで飲ませてあげるからね」
「な、い、気持ち悪い」
「本当に? 夜明けまでかなり時間があるけど? 約六時間、誰の助けも借りずに、水を飲まずに耐えられるんだ。へえ」
「……クズ!」
「上手に発音できました。ほら、わがまま言わずにちゃんと飲もう?」
「う~、やだ……」
ジュードにとってはこれ、わがままなの? 嫌だ嫌だ嫌だ……。でも、ここで飲まないと死んじゃう。喉が渇きすぎて苦しい。熱を少しでも下げないと命に関わる。どうしちゃったんだろう、私の体。喉、ぜんぜん腫れてなかったのに。
口移しを拒めなかった。ジュードが私に深くキスして、ぬるい水を流し込んでくる。飲んだら、間髪入れずにもう一度流し込んできた。それがしつこく何度も繰り返される。休む暇を与えたくないって言ってるみたいだった。私の肩を支える手に力が入って、爪が肌に食い込む。眉をひそめると、まぶたにキスされた。
「……もう少し飲む?」
「いら、ない、もう嫌だ! あっち行って、放っておいて!」
「火傷しそうなくらい熱いね。よく効いたみたいでほっとしたよ」
「な、にが」
「ブレンドして混ぜたんだ、飲み物に。大変だった。シェリーは毒に耐性があるからさ。生半可なものだと効かないだろうなぁと思って、片っ端から取り寄せて試してみたんだ」
抑揚がない声で淡々と語り出した。私、油断しちゃったの? ジュードから差し出されたものを平気で、食べて、飲んで……。自分のことが許せなかった。レナード殿下は禁術の影響で熱が出たんだろうって言ってたけど、違ったんだ。毒を盛られていたんだ。自分のことが許せない。ジュードが朝食を運んできた時、私。あることに気が付き、ぞっとして背筋が震える。熱も吐き気も吹っ飛んだ。
「待って、レナード殿下には!?」
「……盛ってないよ。不敬罪はとっくの昔に廃止されたけど、処刑されたら嫌だからね。サムさんが俺のことを秘密裏に殺すかもしれないし」
「じゃあ、今後も? レナード殿下には盛らない?」
「いい質問だ、どうしようかな。……それでこそシェリーだよ」
私が両手で思いっきり首を絞めているのに、楽しそうに笑ってる。だめ、力が入らない。気管を絞める力が残ってないんだ……。私のバカ!! 過去の自分を罵ったってどうにもならないけど、めちゃくちゃに罵ってやりたくなった。どうしてジュードを信用したの!
話も常識も通じない相手だって分かっていたのに。ぬいぐるみをずたずたに引き裂くような男なのに。私の手から力が抜けたのを見計らって、首から手を外し、愛おしそうに頬擦りしてきた。視界が揺らぐ。熱のせいで、自分を責めることさえできない。
「呼吸が荒くなってきたね。お薬、じゃなかった、解毒薬でも飲む?」
「……ジュード、なんで? 理由は?」
「んー、嫌がらせかな。シェリーがレナード殿下のことを気に入ってたから」
「いや、がらせって……叔父さんの指示じゃないの?」
「っはは、あの人、モリスさんの犬だからさ。おかしいよね、ヘマしたんだ」
「犬?」
「おっと、詳しく言ったら怒られそうだからやめておくよ。シェリー、俺にキスをして。キスしてくれたら、解毒薬飲ませてあげる」
「ふざけないで、いい加減にして!」
内臓がぐつぐつと鍋で煮られたかのように、熱くなっているのに、怒りで頭が冷えていった。これも全部、ジュードが盛った毒のせいなんだ。レナード殿下とようやく、のんびりお茶とお菓子が楽しめると思っていたのに!
悲しかった、苦しかった。初めて感情的に魔術を使った。ぼんっと爆ぜる音がして、ジュードがくぐもった悲鳴を上げながら、目元を押さえ、のたうち回る。体が床へ投げ出された。とっさに受身が取れなくて、頭を強く打った。
(……痛い、血の味がする)
舌を噛んじゃったかも。それよりほっぺたと頭が痛い。ぐわんぐわん視界が揺れる。だめだ、頑張らないと。多分、ジュードは私と取引するつもりだった。解毒薬と引き換えに無茶な要求をする。キスだけじゃ終わらないでしょ、絶対。解毒薬を持っているはずだから、探さないと……。ベッドの上で動く気配がした。首の後ろの毛がぶわっと逆立つ。
「あーあ、そんなにレナード殿下が大事? 変わったよね、シェリー。変わった」
「生きているものは何でも変わるわ。草だって冬になれば枯れる」
「でも、変わらないでいて欲しかったんだよ。俺が変えたかったのに!」
「うあぁっ!?」
いきなり手が伸びてきて、私の黒髪を掴み、引っ張り上げた。頭皮に強烈な痛みが走る。でも、無理。これ以上はもう抵抗できない……。頬を片手で掴まれた。
いつの間にかジュードが立ち上がっている。足先が一瞬浮いて、もがけば、ぺたんと足の裏が冷たい床につく。何とか首を動かして見てみたけど、見えなかった。暗闇に覆い隠されている。
「ねえ、俺さ、初めての友達は我慢できたんだ。だって、シェリーがいずれ殺すから」
「な、んの話……?」
「ほら、シェリーの友達の話だよ。叔父さんが用意してくれた」
「思い、出したくないの。やめて」
「もしかして罪悪感? 俺には何も感じてないのに?」
あの子には酷いことをした。逃がしてあげればよかったのかもしれないけど、ユーインの足がかかっているからできなかった。足を治すためにはお金がいる。それも、大金が必要。大金を用意したかったら、体を売るか、殺すかしかない。
私は殺す方を選んだ。大人の相手をさせられて、目が死んでいくジュードを見ていたから。それと、叔父さんは少しだけ私に優しかった。勧められはしなかった。私と年が近い女の子を連れて来て、こっそり一年後にやれと言うような人だったけど。自分の楽しみのために、嬲ったりはしなかった。
嫌がらせもなかった。ジュードにだけは違ったけど。やがてジュードの手が、頬から喉元へ移っていった。声は震えていて、物悲しげだった。
「本当に俺のことなんて気にしていないんだね。何年も前に死んだ友達のことがそんなに大事?」
「……私を殺すの?」
「まさか! 殺したりしないよ、喋れなくなっちゃうから。生きてる人間の醍醐味だろう? 喋れる」
「っう!?」
慌てて否定するくせに、私の喉をゆっくり絞めていった。ああ、そう。そうなの。殺すつもりはないけど、嬲って遊ぶつもりなんだ。熱は下がるどころか、上がる一方。視界もバカみたいに回ってる。でも、苦しくはなかった。怒りと屈辱で喉から火が噴き出そう。
「俺はね、悔しいんだ。いつかシェリーの一番になれると思っていたのに!」
「ならな、はっ、あああぁ……!!」
「大丈夫、殺しはしないから。どうする? 一緒に寝てくれる?」
「なん、で、そんなことを」
「一晩、一緒に寝てくれるだけでいいんだ。解毒薬も渡すよ」
あ、私、間違えちゃったんだ。ジュードの執着心を侮っていた。最初、大人しかったから。レナード殿下の恋人になって浮かれる前に、清算しなくちゃいけなかった。ジュードにとって私は特別な存在。私からすれば、羽虫以下の存在だけど。
選択を間違えちゃったんだ……。自分の甘さが憎い! 喉を絞められ続け、視界が狭くなってきた。まずい。毒のせいで意識が朦朧としてるし、抵抗できない。
(分かってるんだけど、この期に及んで……レナード殿下に助けて欲しいって思ってる)
助けは来ないの、分かりきっているくせに。視界の端っこがどんどん暗く染まっていった時、ジュードが手の力を緩める。ようやく胸いっぱいに息が吸えた。
「っは、は、あ……」
「友達ならまだ我慢できたんだ。でも、恋人だろ? しかも、レナード殿下のことを特別な目で見ている。羨ましいよ」
「と、う、げふっ、とう、く、特別な目って?」
「気付いてない? すごく優しい目で見てるよ。羨ましい。だから、嫌がらせで毒を盛ったんだ」
「……しょっちゅう、熱が、出ていたのは」
「俺のせいだよ、毒を盛ったんだ。でも、レナード殿下は喜んでくれた」
「ううん、しんぱ、心配してくれたもん」
「いや、喜んでた。武器を持たなくなって安心していた」
それは私を怪我させたくなかったから。ジュードは何も分かってない。でも、私も前までそうだった。一緒だから何も言えない。とにかく、この場を切り抜ける方法を探さないと。私の首を絞めるジュードの手に触れたら、少し笑った。まだ力は入ってない。
「でも、今度はレナード殿下に嫌がらせしてみようかな? ねえ、知ってる? 癒しの血ってさ、病気にだけ効くんだよね」
「病気にだけって、あ……」
「毒には効かないんだ。面白いよね、万能薬なんて存在しない。で、どうする? このままだと視力を失っちゃうけど」
「……」
「考えてる暇はないよ、シェリー。俺にキスしてくれるだけでいいんだ。キスして一緒に眠るだけ。二人でレナード殿下に嫌がらせしよう」
嫌がらせにしかすぎないんだ、これ。知ってたけど、理解に苦しむ。腹が立って目潰ししてやろうと思ったら、あっさり止められた。手を掴まれ、指に思いっきり噛みつかれる。
「いたっ!? 痛い痛い!! も、う、やだっ、やめて!」
「全身にキスマークをつけようかな? その前に少しだけ毒を飲んで。元気すぎる」
「……狙いは? 一体何?」
「さっきも言ったんだけどなぁ。もしかして、叔父さんのせいにしたい? 申し訳ないけど、俺が好きでやってることだよ」
「視力を失うって、あとどれくらいで?」
「ああ、それ、嘘。怖がるかなと思ってさ」
ふざけるのもいい加減にしてって、元気があれば叫んでいたのに。急に私の腰を抱き寄せ、首筋に吸いついてきた。ぬるりと、舌が皮膚の上を這う。身震いする。熱が苦しい、もう嫌だ、ベッドで眠りたい。自力で立つことさえできなくて、ジュードに寄りかかる。嬉しそうに私を支えながら、また首筋にキスしてきた。
「全身に痕を残せば、さすがに疑うだろ。目立つところに残さなくちゃ」
「……ジュード」
「恨む? 恨んでいいよ。残念だったね、俺のこと警戒してたのに。失敗しちゃったね」
もういい、殺す。熱のせいで上手くコントロールできないから、私も死んじゃう可能性があるけどもういいや。レナード殿下の顔が浮かび、消えて、次はユーインの顔が浮かんだ。ごめんね、謝りたかったんだけど。遺書、書いておけばよかったかもしれない……。
指先に魔力を集中させた瞬間、ふいにドアが開いた。廊下からの明かりが真っ暗な部屋を照らす。手のひらに眩しい炎を浮かべているエナンドが入ってきて、びっくりしたように足を止めた。
「あれ? ジュード? ってうわぁ~……俺、見ないふりした方がいい? でも、あれ? 確かシェリーちゃんってジュードと仲悪かったよね?」
「助けて、お願い」
初めて人に助けを求めたかもしれない。重傷を負って瀕死になった時、バーデンが現れたけど、その時はユーインのために「死ねない」と言って取引した。一度も助けて欲しいなんて言わなかった。バーデンは助けて欲しいかって聞いてきたけど。
目から涙がこぼれ落ちる。悔しくて、自分のことが情けなかった。人に弱いところを見せたら、自分の弱いところを客観視してしまって、崩れ落ちそうになる。もう無理。耐えられないし、止まらない。硬直するジュードの服にしがみついたまま、ずるずると床へ座り込む。座った瞬間、さらに涙があふれ出した。
「お願い、もっ、もう嫌だ。怖いよ、助けて……」
「ジュード、一線を越えたな」
明るく燃え盛る炎が飛んで来て、目の前にいるジュードを吹っ飛ばした。派手な音を立てて、サイドテーブルが引っくり返る。その拍子に水差しが落ちて割れた。暗い部屋の中に、真っ赤な炎に覆われた猛獣が立っている。違う、エナンドだ。神々しく見えた。手を伸ばして赤い毛皮に触れたら、べろんって顔を舐められた。くすぐったい。
「エナンドさん……。あーあ、寝てるかと思ったのに」
「泣かせちゃだめだろ? そんなことも分からないのか」
「これぐらい、平気ですよ。シェリーは俺のことなんて微塵も気にしていないので」
「黙れ! もういい、口を開くな」
鋭くて低い声だった。エナンドさんがここまで怒るのって珍しい。襲いかかってきたジュードに対して吠え、唸り声を上げながら噛みつき、床へ引きずり倒す。まるでおもちゃね。子どもがおもちゃを振り回すかのように、エナンドさんがジュードの体を放り投げた。鈍い音が響き渡る。
力の差は一目瞭然。焦っていて魔術が使えないだろうし、どう足掻いても幻獣のエナンドさんに勝てない。床に座り込んで眺めていたら、人の姿へ戻った。
「久々に抑えが効かなくなりそうだ! 悪いけど、手加減するつもりはさらさらない」
「……殺す? 俺のこと」
「君達はもうちょっとよく考えた方がいい。殺すか生かすかの二択じゃない。支配するっていう選択肢もあるんだよ!」
「っうわ!?」
廊下からの光が一瞬だけ、エナンドさんが持っている鎖を照らした。何が起きてるんだろう、分からないんだけど……。お水が欲しい。床に寝そべって息を荒げていると、エナンドさんが近寄ってきて、抱き起こしてくれた。
「ごめん、大丈夫? お待たせ」
「……レナード殿下が良かったけど」
「だよね! ごめんね!! あー、もー、俺、タイミング悪いなぁ。前もこんなことなかった? もっと早く助けに来てたら、泣かせずに」
「でも、すごくほっとしました。ありが、とう……」
「シェリーちゃん。うわ、あっつ!! 死ぬ? 大丈夫!? 熱が高すぎてやばい!」
「解毒薬が、ジュードのポケットに……」
「解毒薬? あいつめ」
空気が冷えた。へー、エナンドさんも殺気が出せるんだ。気絶しているらしいジュードの服を探って、解毒薬を見つけてくれた。でも、ジュードのことだから、毒薬入りの瓶に解毒薬って書かれたラベルを貼っているかもしれない。そのことを説明すれば、叩き起こして聞いてくれた。もう一度私を助け起こして、口元に瓶を押し当てる。
「で、でも、嘘吐いてるかもしれないし……」
「大丈夫、大丈夫。隷属の首輪って知ってるかな? まあ、黒いと言うか、違法のアイテムなんだけど。さっきつけたから嘘は吐いてないよ、大丈夫」
「知ってます。飲む!」
「よしよし。やっぱり知ってたか~」
これでようやく楽になれるんだ! でも、一口飲んでみたら、すごくまずかった。嫌、飲みたくない。口を閉じて拒絶したら、エナンドさんが焦って揺らしてきた。
「何やってんの!? 全部飲まないと効き目がないって言ってたんだけど!?」
「腐ったフルーツに、鳥の糞を混ぜたような味がします……」
「飲んだことないよね? 腐ったフルーツに鳥の糞なんて。さあさあ、飲んで! 何かあったら俺がレナード様に怒られる」
「……」
「シェリーちゃん? だめだよ、飲みなさい。ほら、早く飲んで!」
「う~……」
苦くてまずい。焦げた鳥の糞のような匂いがするのに、甘ったるい。最悪の味。一生懸命飲んだら、ほっとして息を吐いていた。変なの。いつもふざけているのに、空気が張り詰めている。焦った表情で見つめられたら落ち着かない。飲みきったら、ハンカチで優しく拭ってくれた。
「……待ってて、レナード様を呼んでくるから」
「でも、起こすのは」
「申し訳ないって? 別にいいんだよ。明日、予定があるわけじゃないし。こうなってしまった以上、呼んだ方がいいと思う」
「その前に水をください。は、吐き気がします……」
「分かった、待ってて。あ~、俺、水差し割っちゃったんだ。どうしようかな」
口の中がネバネバしてて最悪。絶対眠れない、熱が高いしって思ってたのに、眠っちゃった。肌触りが良い毛布に包まって、水差しの欠片をあれこれ言いながら、拾い集めるエナンドさんを眺めていたせいかも。すごくほっとした。もう大丈夫。人に助けを求めようってあんまり思ったことないけど、いいんだ、これで。私、助けを求めてもいいのかもしれない……。




