24.紙の味がする朝食
手から砂がこぼれ落ちていた。部屋の扉を開けて、呆然と立ち尽くす私を見つめ、ジュードが笑った。赤い布張りの椅子に腰かけている。足元には大量の砂。人間が全部、砂になったらきっとこれぐらいの量……。
「大丈夫だよ、死んでないから。シェリーもよくするだろ? こういう遊びかた」
足元にある大量の砂。カイの姿がどこにも見当たらない。血が沸騰した。これはレナード殿下の苦しみで、私の苦しみじゃないんだけど、制御できない。苦しみを発散させたい。気が付けば、ジュードを押し倒して、喉にナイフを当てていた。死んでないだろうけど、許せない。カイはレナード殿下が大事にしてる人なのに! ジュードがゆっくりと、赤紫色の瞳を見開いた。
「黙って!! 次、似たようなことをしたら絶対に許さないから。殺したら殺してやる!」
「……驚いた。変わったね、シェリー」
「遊びたいってうるさいから、付き合ってやってただけだ。お前が心配しているのを見ると、虫唾が走る。気持ち悪い!」
大量の砂が渦を巻いて、カイへ変化した。心配してあげたのに、顔色が悪い。大丈夫? 怪我はない? って話しかけようとしたら、さっさと部屋を出て行っちゃった。閉まる扉を見つめていれば、床からジュードが起き上がって、嫌な笑みを浮かべる。何も言わずに黙っていると、後ろから抱きついてきた。私の髪に鼻を押し当てる。
「残念だったね。シェリーも彼と遊びたかった?」
「ううん。余計なことしないで」
「余計なことって? どういうこと? 言ってくれなきゃ分かんないよ」
「これも含めて全部。誰のことも傷付けないで、塔にいる人達は全員」
「っあ……」
首筋を撫でてきた手首を捻りあげたら、傷付いた顔を見せ、手首を押さえた。ジュードはいつも私のものを欲しがるから。前は何とも思ってなかったけど、今は怖い。だって、レナード殿下がいるから。
「時計は壊れたら直せばいいけど、人はそういうわけにもいかないでしょ? だから、気をつけて。じゃないと叔父さんに言いつけてやるから。役立たずだって!」
「頼むよ、シェリー。あの人が俺のこと嫌ってるの、知ってるだろ? 容赦がないし……。いつだって口実を探してる、俺を痛めつける口実を」
「なら、余計なことしないで。言っておくけど、私だってジュードを躾けるつもりでいるから」
思いっきりすねを蹴り飛ばしてやったら、うずくまった。もう一度蹴り飛ばして、転ばせる。何回かお腹と顔を中心に蹴ったあと、顔を覗き込んでみた。黒髪が顔にかかっていて、表情が見えない。小さく咳き込んだ。お腹を抱えたまま、静かに黙ってる。
「意外。もっと抵抗するかと思ってた」
「……意味のない暴力は振るわないから」
「じゃあ、意味がある暴力ならいいの? レナード殿下だったら、きっとこう言うわね。おかしい、異常だって、我慢しなくてもいいんだよって」
私達、おかしいんだ。でも、これが一番効果的だからしょうがない。早くレナード殿下のもとへ行かなきゃ。会いたい、会いたい、早く。部屋から出て、扉を閉める直前、床に転がったジュードが呟いた。
「変わってなくて安心したよ。おやすみなさい、シェリー。良い夢を」
「……おやすみ。次、同じことしたら許さないからね!」
返事はなくて、ただ笑うだけだった。今度同じことをしたら、服を剥いで、庭に椅子を出して縛りつけて、骨が折れるまで殴ってやる! そうでもしないと、きっと分かってくれない。叔父さんがよく、こうやって躾けていた。私のことも、ジュードのことも。
塔の寒さが服の隙間から這い登ってきて、体を冷やしてゆく。でも、大丈夫。レナード殿下に会ったら、寒さなんて全部吹っ飛ぶから。血の匂いが漂ってきた。底が見えない螺旋階段を降りている最中、自分の体からずっと血の匂いが漂ってくる。
(危なかった。守りきれる? レナード殿下のこと)
レナード殿下のお母様のように、全身の血を抜かれて殺されないようにしなくちゃ。私の大事な大事な王子様。城に戻ると、レナード殿下が両腕を広げ、歓迎してくれた。王妃様の浴室を借りて、砂埃や血を洗い流して、ベッドへ潜り込む。
ようやくほっとできた。塔のベッドとは何もかも違う。ふかふかで、広くて、シーツがさらさらで肌触りが良い。鼻の下までシーツを持ち上げ、天蓋の裏を見つめる。本当に良かったのかな? 一人で眠っちゃって……。スリッパに足を入れて、ベッドから抜け出す。
カウチソファーで眠っているレナード殿下を覗き込んでみたら、すやすやと眠っていた。疲れたみたい。私の王子様、本当に守りきれる? 怖かった、死んで守りきれないことが。死んだあと、モリスさんに怒られちゃいそう。レナード殿下は何も知らずに、ただただ眠っている。すぐ近くの床には、獣姿のエナンドが寝そべっていた。
バレないようにこっそり近付いて、レナード殿下の頬にキスしてみる。小さく唸ってから、口角をゆったりと持ち上げ、微笑んだ。じっと寝顔を眺めていたら、もにょもにょ言いながら寝返りを打つ。どきどきしちゃった、起きたのかと思った。しばらくの間見てたけど、起きる様子はない。ああ、良かった! くちびるに指を添えてみたら、どっと疲れがやってきて、肩から力が抜ける。
(キスは前にもしたことあるけど、バレたくなかった。起きたら、もしも起きちゃったら、殴って寝かしつけなきゃ……)
早足で戻って、ベッドへ潜り込む。まだ心臓が騒がしい。私の王子様。本当は二人きりで暮らしたかった。私が強かったら、一人で守り通せたのに。誰もいらない、王子様以外いらないのに。二人きりで暮らしたら、すっごく楽しいはずなのに……。ふと、ユーインのことを思い出した。前のように胸は痛まなくて、眠気に耐えられず、まぶたを閉じた。
鳥のさえずりが聞こえてくる、遠くの方から。朝ご飯の匂いと支度してる気配。慌ただしく誰かが行ったり、来たりしててうるさい……。シーツに包まったら、誰かが「おはよう、シェリー」って言う。レナード殿下?
手を伸ばせば、すぐ握ってくれた。温かい手。指先がちょっと冷えてるけど。それに細い。まぶたをゆっくり開けてみたら、そこには満面の笑みを浮かべるジュードがいた。思いっきり渋面になった私を見て、さらに笑い、ぎゅっと手を握り締める。
「おはよう、シェリー! 目が覚めた? ゆっくり寝たいのなら、俺の部屋に行く?」
「どうしてここにいるの……? 塔にいるんじゃないの?」
「うん。でも、シェリーのことが心配だから、あのあとすぐ戻ってきたんだ。ほら、何かあったら困ると思ってさ。叔父さんに任されてるし」
「頼んでないのに~……!!」
「まあまあ、そう言わずに。心配したよ、昨日は。あのシェリーがボロ雑巾みたいに扱われて、負けちゃうなんて。やっぱり、俺が守ってあげなくちゃね」
「バカにしてる?」
「まさか! 怪我してるんだし、ゆっくり休んだ方がいいよ……」
起き上がろうとした私を制して、寝かしつける。不満! ジュードに雑魚扱いされるなんて、耐えられない。今日から猛特訓しなきゃ、猛特訓。綺麗な洋服とお菓子、紅茶と花に囲まれてたから弱っちゃったんだ、私……。天蓋の裏を睨みつけていると、レナード殿下がやって来た。私の手を握っていたジュードが、すぐさま立ち上がる。
「これは、レナード殿下」
「言っただろ? シェリーに近付くなって」
「申し訳ありません。熱を測っていたんですよ。昨日、大怪我したばかりですから」
「シェリー、おはよう。痛いところはないか? 大丈夫か?」
「大丈夫です、おはようございます……」
もにょもにょと返事しながら、目を擦っていると、レナード殿下が笑ってくれた。ここがお城だからか、白いシャツの上にグレージャケットを羽織ってる。ぼんやり眺めていたら、私のおでこに手を当てた。ジュードよりも太くて、ごつごつしてる指先。でも、肌がなめらかでほっとする。
「よし、熱がないみたいで良かった。食べられるか? 運ばせようか」
「あ、レナード殿下。俺が運びますよ。こういうことは従兄弟にお任せください」
「レナード殿下と二人きりで食べたいです……」
「えっ?」
二人が驚いたあと、顔を見合わせる。すぐ同時に笑い出した。何なの? むかつく。ジュードがレナード殿下と仲が良さそうで嫌だ。昔から、私のものを欲しがってきたジュードなのに……。異物を異物扱いしてないレナード殿下なんて嫌、見たくもない。シーツの中で丸くなったら、レナード殿下が背中に手を添えてきた。
「分かった。シェリー、二人で食べよう。テラスに椅子を二つ並べて」
「危ないから嫌です……。レナード殿下の顔なんて見たくありません、消えてください」
「俺がソファーで寝たから? ひょっとして怒ってる?」
「ご機嫌です、私は」
「んんん……。何がだめだったんだ? 眠たくてご機嫌ななめとか?」
「レナード殿下、従兄弟の俺に任せてください。朝食の続きをさあ、どうぞ」
「しーっ! 俺が朝食を食べてるって聞いたら、シェリーが拗ねるだろ? やめてくれ、一旦静かにしてくれ」
全部聞こえてるから。食べたんだ、へー、ふぅーん。でも、私、そんなことで拗ねたりしないもん。ただ、起きるまで待っててくれなかったんだなとか、ご飯食べてる最中なのに一緒に食べようって言ってきたんだ、ふぅんって思うだけだから。よりいっそう丸くなって、外界との繫がりを遮断していたら、レナード殿下が溜め息を吐いた。
「ほら、見てみろ。拗ねたじゃないか」
「……レナード殿下はシェリーのことをよくご存知なんですね」
「うん、変わってて面白い。シェリーはちょっと不器用なんだ。言いたいことが上手く伝えられないだけなんだよ」
私の肩を揺さぶってくる。心配してる、伝わってくる。胸の奥がきゅっとなるの、心地良くて苦しい。いつもレナード殿下はこんな気持ちでいるの? 分からない、頭が混乱する。くらくらする。禁術の後遺症が残ってるのかな。お腹も空いてきた……。ぐーっと鳴り始めたお腹を抱えて、背中を丸める。ジュードに会いたくない、どこかに行って。
「ジュード。悪いが、二人きりにしてくれないか?」
「分かりました。無茶させないでくださいね、シェリーは俺の大事な人ですから」
「分かってるよ、大丈夫だ。君の大事な従姉妹だし、丁重に扱うよ」
「あ、どうします? 朝食の残りは」
「テラスに運んでくれ、あとで」
「分かりました。パンを一つだけ貰っても?」
「……どうぞ」
「ありがとうございます。じゃあ、頂きますね」
ジュードが私に優しく微笑みかけてから、立ち去った。レナード殿下。眺められていることに気付いたのか、こちらを振り返る。慌ててシーツの中に戻ろうとしたら、手首を掴まれた。涼しい表情で椅子に腰かけ、さっきのジュードのように、私の手を握り締める。柔らかくて温かい……。
澄んだ蜂蜜色の瞳がまっすぐ見下ろしてくる。あ、死ななくて良かったかも。ピアに殺されそうになった時、死にたくないなんて思わなかったのに。手を握り締められて、見つめられている今、死にたくないと思うなんて。
「どうしたんだ? シェリー。何が嫌だったんだ?」
「ジュードと仲良くしてるところ……」
「っふ、ぶふ」
「笑うようなことなんですか?」
「もちろん。聞いたか? あいつ、俺のパンだけじゃなくてシェリーも奪うつもりだ。従姉妹なら結婚出来るからって」
「結婚なんて絶対したくありません……」
「本当に? 良かったよ。追い出そうと思ってたから。新しい護衛を追い出さずに済んで良かった」
肩をすくめながら、嬉しそうな笑みを浮かべる。ほ、本当に嬉しそう。一気に体温が上がった。今日はもう二度とベッドから出ないぞって決意してたんだけど、出てもいいかも。見上げていたら、今度は悲しそうな笑みを浮かべる。
「一緒に朝食を食べないか? 二人の話を聞かせてくれ」
「二人?」
「うん、小さい頃の話が聞きたい。何をして遊んだとか」
「二人で拷問したり、刃物の扱いを学んだり、銃の練習をしたり……」
「血腥い話以外で頼む。そういうのは聞きたくないんだ、朝だしね」
「寝る前だったらいいんですか?」
「そういうわけじゃないよ。かろうじて夜かな? 夕食を食べる前なら」
「分かりました。じゃあ、次からそうしますね」
「待った、違う、違うから……」
いつでも血腥い話は嫌だって、しつこく言われちゃった。洗面所で歯を磨いて、ジュードが持って来た白いブラウスとズボンに着替える。こんな、ふりふりしたブラウスじゃなくてもいいのに……。胸元のリボンを引きちぎろうかなと思いつつ、泊まった小部屋から出ると、王妃様とレナード殿下が立っていた。紺色のジャケットとスカートに身を包んだ王妃様がこちらに気付き、優雅な微笑みを浮かべる。いつもと違って、優しい雰囲気だった。
「おはよう、シェリー。よく眠れた?」
「は、はい」
「どこでも好きに使ってちょうだい。テラスも私専用で、誰も入ってこれないから」
「ですが、なるべく室内で食べた方がよろしいかと」
「あら、大丈夫よ。テラスって呼んでるけど、中庭のようなものだから。外の景色が映し出されてるの」
わざわざ、テラスに幻影スクリーンでも置いてあるの? 気になる。わくわくした表情の私を見て、レナード殿下が微笑んだ。王妃様にお母さんだって思ってることがバレたからか、すごく緊張してる。綱渡りしながら、水を飲んでるような緊張感が伝わってきて、落ち着かない。ごめんなさい、レナード殿下。嫌がらせしちゃって。
「王妃様、じゃあ、シェリーと二人で食べてきても?」
「ええ、仲良くね。そうそう、腕が立つ魔術師を護衛につけたから。頼りなさいな」
「ロダンではないですよね?」
「ロダンは国王陛下の側近でしょう? 使いません。私だって嫌よ、あんな男」
つんと顎を逸らしてから、レナード殿下を優しく見つめ、「護衛が扉の外で控えているから、いつでも呼びなさい」と言った。温かいハーブティーが、胸にじんわりと染みてゆくような喜びが広がっていった。良かったですね、レナード殿下。涙が出そうになるぐらい、嬉しいんだ……。でも、澄ました表情で「ありがとうございます、王妃様」と言うだけだった。不器用なのはレナード殿下じゃない?
「じゃあね、シェリー、レナード。私は夜まで帰って来ないから、好きに使いなさい。ちゃんとここにいるのよ、二人とも」
「はい、かしこまりました」
「心配なさらなくとも大丈夫ですよ。早く行ってください」
「お土産を持って帰ってくるわね」
数人の女性と共に、部屋から出て行った。これから公務なのかな。扉が閉まったのを見届けてから、レナード殿下が今にも崩れ落ちそうな表情で、息を吐き出した。そんなに緊張しなくてもいいのに。お母様って呼べばいいのに。背中に手を添えると、おでこに手を添えた。
「お母様って! 呼べるわけないだろう……」
「あれ、聞こえたんですか。すごいですね」
「時々心の声が聞こえるんだ。シェリーは?」
「レナード殿下に拒絶されてます。だから、聞こえないんでしょう。私に聞かれるのがそんなに嫌ですか?」
「誰だってそうだ。聞かれるのは怖い」
「私は怖くありませんよ。レナード殿下になら、何を聞かれてもいいです」
おでこから手を離して、見下ろしてきた。レナード殿下。禁術で一緒になった時から、不思議な気持ちが胸を占める。ずっとずっと一緒にいたい。レナード殿下の中に残った、私の欠片が呼んでいるみたい。頬に手が触れた。海から離れた魚、片翼を失った鳥、もう歩けなくなった犬、指輪が入っていないリングケース、歌えなくなった歌姫……。
私も彼らと同じ気持ちになる、一瞬だけ。さらに近付いて、キスしてきた。昨日こっそりキスしたことを思い出して、心拍数が速くなる。ぎゅーっと目をつむっていたら、今度はおでこにキスしてきた。目を開けば、照れ臭そうな笑みを浮かべる。
「可愛い。……王妃様に暴露して、気が済んだか? シェリー」
「はい! とっても!」
「良いお返事だ。さて、どうしてくれる? あんな気持ちを味わうのは散々なのに、夕食に招待されたんだ。行きたくない」
「じゃあ、一緒に食べましょうか。レナード殿下をからかってくる人がいたら、気絶させますね」
「頼もしい。ああ、真に受けないように。今のは冗談だからな?」
「はぁ~い……」
「不満そうだ」
今度は頬に両手を添えて、キスしてきた。舌が入ってきたから、じたばた暴れて唸れば、笑って離れていく。油断ならない。じっとり睨みつけていたら、どこ吹く風で「さて」と言った。奥の部屋へ続く扉を眺めている。
「行って朝食を食べよう。支度出来ているかもな。ジュードは素早いんだ」
「……ジュードは昔から、私のものを壊して楽しむくせがあるんです」
「言ってたね。でも、シェリーと一緒だよ。ちょっとばかり不器用で、壊れてる。大丈夫、適切に扱えば問題なんて起こさないさ」
「まったく気にしてないでしょう?」
「うん。実は、シェリーがジュードのことを意識してなきゃそれでいい。何の心配もいらない」
「レナード殿下……」
「まあまあ、ご機嫌直して。心配いらないよ?」
レナード殿下がくすくす笑って、肩に手を回してきた。分かってないんだ。分かってないから、怖がってないんだ。私は怖いのに、気にしてくれない……。白いタイルに、優美な装飾がついた白い手すり。眼下には、芝生に覆われた丘と木立が広がっていた。遠くの方には青い海まである。風がそよぎ、私の黒髪を揺らしていった。もやもやが吹っ飛び、思わず駆け寄って、テラスから身を乗り出す。
「信じられない! 全部、これ全部……」
「そう、絵だ。魔術仕掛けの絵とテラスを繋げてある」
「た、高いでしょう? 本物にしか見えなくて綺麗」
「実際はちょっと芝生があるだけだよ。中庭になってる。そこに絵が飾ってあるから、よく見てごらん。端っこの方をよく」
「切れ目が……」
「そう。よーくよく見たら、これが絵だって分かるはず。さ、食べようか。予想通り完璧だ」
「……」
テーブルにフルーツジュースが入ったコップが二つ、籠に入ったパンと、食べかけのサラダとヨーグルト、目玉焼きとベーコンが載ったお皿がトレイの上に並べられていた。ジュードらしい。でも、不気味。大人しくしてるなんて。レナード殿下が笑顔で椅子を引いてくれたから、仕方なく座る。不満そうな私とは違って、レナード殿下はご機嫌だった。
「城の方が美味しいよ、ご飯」
「毒見します!」
「いや、大丈夫。ジュードのメモが残されていた、ほら」
レナード殿下がコップを持ち上げながら、メモ用紙を見せつけてくる。走り書きで“毒見はもう済ませました。シェリーは疑うだろうけど”って書いてある……。ものすごく嫌な気分になった。メモ用紙を睨みつける私を見て、レナード殿下がおかしそうに笑う。
「毒見してみる? はい、あーん」
「……」
「ご機嫌ななめだ。良かった、ジュードと仲が悪くて。心配せずに済む」
トマトを一切れ、ベーコンを一口、パンの端っこ、フルーツジュースをほんの少しだけ口にしたけど、気分が晴れない。一通り私に毒見させたレナード殿下が、安心して、口へ目玉焼きの白身を運んだ。どうして? 嫌な予感がする。あのジュードが大人しくしてるわけないのに。バーデンもいないし、不安。
「いざとなったら、ジュードを殺してもいいですか?」
「許可しよう。完全な味方だとは思えないし」
「……意外です。反対されるかと思ってました」
「シェリーが警戒してるからね。肌を刺すほどの警戒心が伝わってくる。それと、城よりも塔のご飯が美味しいと思っていることもね」
「だって、まずいもん……」
「まずくはない。味がしないの間違いじゃないか?」
「ううん、まずいです……」
苦々しい表情で食べる私を見て、笑っていた。味がしない。綺麗なテラスで食べる、素敵な朝食は紙の味がした……。




