表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
元暗殺者と魔術師殿下による、癒しのティータイム  作者: 桐城シロウ
二章 禁術の行使で変わった運命
56/74

20.バーデンの罪悪感

 






 衣擦れの音が響いていた。薄暗い。ヘリンボーン柄の厚地カーテンが、陽射しを遮断している。屋根裏部屋のようなホテルの一室にて、こちらに背を向けて立ち、シャツに腕を通していた。シェリーとよく似た黒髪と赤紫色の瞳。以前は痩せていたが、あらわになった背中には筋肉がついている。


 あれなら少しは役に立つだろうと考えながら、黒いズボンに黒いシャツを着たバーデンが足を組み直す。いかにもカビ臭そうなシングルベッドから、中年親父の嫌な匂いが立ち昇ってくる。当の本人は澄ました表情で俺のことを出迎えたが、客の男は焦っていた。そそくさと、逃げるようにして部屋から立ち去った。眠たそうな赤紫色の瞳を向けながら、ジュードが衝撃的な一言を放つ。


『あれ、珍しいね。バーデン。ひょっとしてお客さんとして来た?』


 今、思い出しても腹が立つ! そんなわけないだろう。シェリーに言われてやって来たと思わないところが、シェリーにそっくりだ。……いいや、頓珍漢な考えをあまりしなくなった。寂しいとも、残念だとも思っている自分に腹が立つ。くそったれ! 


 イライラしながら、目の前にいる仮想の敵の足を、思いっきり蹴り上げていたら、今度はジャケットを羽織った。ライトグレーのジャケットだ。明るい色が似合わない。浮いているような気がした。片眉を持ち上げ、睨みつけていたら、涼しい表情で向き直る。


「お待たせ、バーデン。シェリーはどう? 元気?」

「元気だ。恋人ができて浮かれてやがる」

「へえ、恋人。……シェリーは俺と一緒だと思ってたよ。壊してやろうかな、どんな男?」

「温室育ちの王子様だ。お前とは違って、人を殺したこともない」

「じゃあ、シェリーと俺はまだ一緒だ。良かったよ、同業者じゃなくて。複雑な気持ちになるところだった……」


 ジャケットのポケットから、使い捨てブラシを取り出した。丁寧に黒髪を梳いてゆく。耳を澄ませば、小さな鼻歌が聞こえてきた。どうしてこいつはご機嫌なんだ? あのシェリーに恋人ができたんだぞ!? 本人は認めていないが。


 こいつらを相手にしていると、人外者である俺の方がよっぽど人間らしいなと思う。そのまま大人しく待っていたら、おもむろに梳かすのをやめて、ブラシをポケットの中へしまった。しかし、今度は手鏡を出して、自分の顔を確認し始める。いつまで待たせる気なんだ、こいつは。


「おい、どうする? 来るのか来ないのかはっきりしろ」

「行くよ、もちろん。叔父さんからの命令でもあるし」

「っは、大人しく叔父さんと呼んで、崇め奉ることにしたのか。良い心がけだ。これでジェームズのストレスが少しは減るだろうよ」

「心の中ではお父さんって呼んでるけどね。死んで欲しいみたいだ、俺に」


 乾いた笑みをこぼしながら、ジャケットの襟を正す。何を考えているのかよく分からない赤紫色の瞳は、暗く沈んでいた。そういや、シェリーもこんな顔をしていたな。一時期。いつからか、ぼんやりした表情で人を殺すようになったが。


 夢を見ているような、虚ろな赤紫色の瞳。あれが良かったのに、今ではすっかりつまらなくなった。しかし、悪くはない。そう考えている自分に吐き気がした。まさか、情が湧くとは……。膝の上で指を組み合わせ、まっすぐ見つめ返す。ジュードの口元に笑みが浮かんでいた。


「バーデンはあまり俺と喋ってくれない。シェリーとは喋ってくれるのに」

「そりゃそうさ。仲良くお喋りしたい相手じゃない」

「シェリーはどうしてる? 喋りたいな。電話番号渡したのに」


 残念そうに言いながら、俺の隣へ腰かけた。距離がやたらと近い。ぶん殴ってやろうか、こいつ。ぐっと、急に顔を近付けてきた。殴っても蹴っても、こいつのくせは変わらない。諦めるしかない。立ち上がるのは癪だ。逃げているわけじゃないが、そういう風に見られるのはごめんだ。落ち着きなく足を組み直してみたが、にこにこ笑い、すぐそばで一時停止していた。不気味だ。


「あいつは忘れてるぞ、電話番号のことなんかすっかりな。それか、魔術手帳を頼らずに俺を頼ればいいと思ってる。意思の疎通が出来てないな、お前ら二人は」

「違うよ、シェリーが俺のことを拒んでいるんだ。あーあ、がっかり。分からせてあげないと」

「……好きじゃないだろ、別に。お前はおもちゃに執着してるガキそのものだ」

「好きだよ。でも、俺のことを好きになってくれないんだ。諦めるしかない」


 常に否定から入る。鬱陶しい。シェリーにはない、こいつ特有のジメジメとした暗さが苦手だ。誰にも似ていない。父親にも叔父にも、祖父にも。舌打ちをしたら、肩をすくめた。俺が悪いと言わんばかりの態度だった。


「ねえ、レナード殿下ってどういう男? 気になるな」

「どうって……。飄々とした優男だ。帰る。いつ来るか早く言え」

「嫌だ、ごめんだ。言ったらバーデン、いなくなっちゃうだろ? 俺と少しは話そうよ。じゃないと行かない」

「っおい! 俺が膝枕するのはシェリーだけだ、離れろ!」


 黒髪を掴んでみたが、薄く笑うだけだった。面倒臭い。親の愛情を知らないで育ったせいか、人にも人外者にもこうやって執着する。だが、好都合だ。このまま髪の毛を何本か引きちぎってやろうかと思いながら、掴んでいると、柔らかな嘲笑を浮かべた。


「なあ、バーデン。残念なんだろ? 面倒見が良くなった。シェリーにかまわれていない証拠だ」

「……」

「俺が殺してやろうか? シェリーのお気に入りだなんてつまらない。羨ましい。守れって言われてるけど、まあ、最悪の場合、叔父さんに殺されて終わりかな? でも、いいと思う。別に。父さんが俺のことを覚えててくれるのなら」

「シェリーとお前は微妙に違う。出来の悪いそっくりさんを見ている気にさせられる」

「そっくりさん? 酷いな、人外者と一緒にしないでくれ。でも、シェリーに嫌われるからやめておくよ。その代わり、抱かせてくれるかな」

「手を出そうとしたら殺すぞ!」

「お父さんだ。バーデンだって、恋愛感情なんてないだろ?」


 だからどうした。それの何が面白い? あーあと呟き、笑いながら頭の後ろで手を組んだ。足も組み、怠惰なポーズでくつろぎ始める。殺してやろうか、こいつ。イライラをおさめる方法は一つしかない。脳内で何回か殺せば、それで済む。


 顎に手を添え、静かに見下ろしながら、脳内で何回も殺していると、殺気を感じ取ったのか、薄く笑いながら起き上がった。しかし、すぐに寝そべった。枕に頭を預けて。


「シェリーは俺のものだったのに。楽しかったなぁ、昔よく遊んだんだ。覚えてる? バーデン。おじいちゃんだからもう覚えてない?」

「誰がおじいちゃんだ! お前らの物差しで語るな」

「はいはい、ごめんね。いいなぁ、シェリー。居場所を見つけたんだ。もうボールを投げつけても、投げ返してくれないのかな……」

「お前に頼みたいことがある」

「頼みたいことって? あ、歯を磨いてくる」

「おい!」

「少しだから待ってて。いいだろ? これぐらい」


 自由気ままなところはシェリーにそっくりだ。さて、どうするか。この妨害も命令違反の一つか? でも、あいつはシェリーと一緒に住みたがってる。願いを叶えてやりたい。でも、シェリーには恨まれるだろうな。決まってる。あいつとシェリーなら、あいつを選ぶ。


 喉が乾いた時、瑞々しいフルーツじゃなくて、自然と水に手が伸びるのと一緒だ。微妙に劣る。天秤にかけたら、その違いは明白だ。両手を組み、静かに待っていたらようやく来た。口の端には、白い歯磨き粉がこびりついている。手には黒いボストンバッグを持っていた。


「で? 俺に頼みたいことって?」

「……まずはバッグを置け。ゆっくり聞く気はないのか」

「このホテルにはあまり長くいれないんだよ。あーあ、ホテル代出してね。人外者が目につかないところに行かなくちゃ」

「シェリーとレナードの邪魔をして欲しい。守りつつ」

「ふぅん、難しそうなこと言うね。よし、乗った」


 ジュードなら、あれこれ聞かずにすぐ乗ってくると思った。予想通りだ。口元に笑みが浮かぶ。立ち上がりつつ笑った俺を見て、少し不思議そうな顔をした。その顔はシェリーにそっくりだった。


「バーデンはどうして邪魔して欲しいんだ? 二人のことを応援してないの?」

「お前も見れば分かるさ。シェリーがこれ以上変わるのはもう、うんざりだ。子どもを生むだの何だのと言いやがって」

「ふーん。可愛いだろうな、シェリーの赤ちゃん。俺が一番最初に抱っこして、キスするんだ」

「気色悪いことを言うのはよせ、帰る!」

「今晩中に行くよ、待ってて。シェリーにそう伝えて?」


 当たり障りのない微笑みを浮かべた。何も言わずにホテルの客室から出て、ドアを閉める直前、背後で呟く。


「シェリーに会えるの楽しみだな。その王子様とやらにも」







 手首のかゆみが取れない。ベッドのそばに座り込んで、ついつい掻きむしっちゃう。変な呪いでもかけられたのかな? 昼間、使役獣の糸が巻きついた部分に、うっすらと赤い跡が残ってる。かーゆーいー……!! 変な呪いかけられた、絶対。焦げ臭くはないけど。


 鼻を近付け、ふんふん嗅いでみても、ボディーソープの甘い香りがするだけ。諦めて、床へと手首を投げ出す。来るかな、今夜。来るような気がした。レナード殿下は避難させたから大丈夫だけど……。今頃、怒ってるかな? でも、王妃様のそばが一番安全だから。


 レナード殿下の部屋にある壁掛け時計がチッ、チッ、チッと、規則正しい音を立てている。ダークブラウンの木で出来た時計はモリスさんからのプレゼントで、そのことを語る時、レナード殿下が優しい目をしていた。懐かしそうな、寂しがるような表情を浮かべ、ゆっくりと言葉を選んで語っていた。


『プレゼントというよりも、この部屋の家具を揃える時、モリスが買ってきてくれたものなんだ。これでいいですかって言って。だからまあ、厳密に言うとプレゼントじゃないな。俺からすれば、プレゼントなんだけど』


 胸が狭くなった。心臓を軽くプレスされたら、こんな気持ちになるのかな。マットレスの横に背中を預けて、膝を立てる。大丈夫、動きやすい服装にしたから。打撲や切り傷、骨折をある程度防いでくれる白いTシャツとズボンをバーデンがくれた。高いのに、これ。普通の服に見えるデザインで、高機能な戦闘服はびっくりするほど高い。


 これを渡してきた時のバーデンの顔を思い出した。二の腕をぎゅっと握り締め、うつむく。……バーデン、変わっちゃったな。目がいつもより優しい気がした。でも、思い浮かぶのはレナード殿下。恋しいのもレナード殿下。会えなくて寂しい。ちょっと離れたぐらいで、こんなにも寂しくなるの?


(私、レナード殿下のことばっかり考えてる。どうしよう? 離れられなくなったら)


 住む世界が違うのに。お友達のヴィオレッタさんにもやんわり告げられた。離れた方が賢明かもしれませんねって。私もそう思う。忘れられたくないし、深い関係になりたくない。どうしよう? 今までこんな風に思うことはなかったのに。だって、矛盾してる。一度決めたことなのに、気持ちが揺らいでる。


 なんで? どうして。私はレナード殿下の子どもを生んで、立ち去る。それでいいと思ってたんじゃないの? 思い出せ、私。レナード殿下にからかわれたことを。これは復讐でもあるんだから。私は根に持つタイプの女……。


(刻一刻と、自分が変わってて気持ち悪い。それに怖い! 戦うのが)


 多分、これから来るのは強敵。普通、使役獣はあそこまで強くない。鎖にかけられた魔術除けも高性能だった。諸外国がレナード殿下の血を狙ってる。王様が安く売るか、無料であげるかしたらいいのに、それをしないから……。血を一滴、飲むだけで難病が治る。薄めたら劇的な効果は得られない。


 付き合いが長い大国とだけ、王様は取引してて、法外な値段で売りさばいている。残った血は薬に混ぜておしまい。民衆からすれば、副作用もなく風邪があっさり治る万能薬。本当は大した薬じゃないんだけどね。弱い弱い、効き目の胃薬にだっけ? そういうものに混ぜて、ぼろ儲けしてる。レナード殿下は嫌だって言ってた。


『いつか、本当に困ってる人の元に届くといいんだけどな。高額な治療費を払わないで済む。体にも負担がかからない』


 諦めきった眼差しを見て、またぎゅーっと胸が狭くなった。変なの。私、変なの。戦いが怖くなってきてるのも、一度決めたことが揺らぐのも変で怖い。強く目を閉じれば、昼間倒した使役獣の姿が浮かんだ。


 そう、私は大丈夫。これまでの経験値と服があるから大丈夫。大丈夫。何度かそうやって唱えていると、いきなり床が光った。とっさにベッドの上へ避難する。あっ、靴。どうしよう……? あとでごめんなさいって謝らなくちゃ。


「来たよ、バーデン。おいで!」

「融合したまま、待てないのは不便だな。工夫しよう」


 左腕を上げたら、しゅるんと黒い尻尾のようなものが巻き付いた。黒いタトゥーが動いているみたい。一瞬で視界が切り替わる。真っ暗だけど、部屋の隅々までよく見えた。気を付けないと。今回は視界まで明け渡している。眼球の裏側でぎゅるるって、熱いエネルギーが渦巻いた。心拍数が上がってる。


 神経を虫が這い登っていくような不快感。明け渡したくない、嫌だって体が叫んでる。でも、無視する。今回の敵は私の手に負えるような敵じゃない。今まで、敵は雑魚を送り込んで様子見してた。でも、今夜は違う。本気で狙いに来る。


 手首がうずいた。さっきまでおさまっていたのに、急にかゆくなる。熱を持っていて、その熱が心臓に届きそうになった。でも、体内にいる小さなバーデンがそれを防ぐ。よりいっそう、血液が熱くなって心拍数が上がっていった。強烈な高揚感に包まれる。でも、だめ。完壁に明け渡したら。私が私じゃなくなっちゃう、正気を失っちゃう。


(……確か、叔父さんが、バーデンは感覚が麻痺しちゃっててよく分かってないけど、あまりにも続けてたら、正気を失うって言ってた)


 いざという時の切り札にしておけよ、シェリー。じゃないと人外者に乗っ取られて終わる。乗っ取られなくても、廃人になって終わりだ。気を静めるために、叔父さんの声を聞いていたら、全員が現われた。一、二、三、四人? 舐められた、これだけしかいない。私を殺すのに、五人もいらないって? 


 四人で十分だって? 頭にかっと血が上った。バーデンが出現させた、宝石のように透き通っている黒い長剣に手を伸ばせば、目の前にいる女が腰に手を当てた。部屋の中で赤く光っている瞳に、わずかな月光を受けて輝く金髪。ポニーテールにしていた。太ももまである。


 それに、やたらと動き辛そうな、足元まであるモスグリーンのマントには、金色の小さなタッセルが並んでいた。胸元が見えている黒いシャツに、しなやかな体躯。薄汚れたロングブーツと刺繍が施された黒いズボン。嘘でしょう? なんでここに。それだけ本気だってこと? こいつらの目的がレナード殿下の誘拐だったらどうしよう。むかつくけど、ロダンに助けを求めたら良かった! 少なくとも撃退は出来た。


「……ピア・ランズベリー。一等級国家魔術師がどうしてここに?」

「あれ? 知ってた? 私のこと。あんた達はレナード王子を探してきて」

「了解しました」


 返事したのはリーダー格っぽい男で、他の男達は黙って頷き合い、部屋の外へ出て行こうとした。でも、させるか! そんなこと。別の場所でカイとエナンドが待機してるけど、なるべく怪我させたくない。レナード殿下が悲しんじゃう。


 バーデンがすぐに察してくれて、剣を振るった。黒い波のようなものが生まれ、男達の首を一気に刎ね飛ばす。頭がくらくらした。すごい、バーデン、本気なんだ。今まで、こんなに強い魔術は……。一気に体内の魔力量が減った。でも、バーデンが補給してくれる。耐えろ、耐えろ、私。


 今までは何ともなかったのに。いきなり魔力が減って、飢餓感に襲われて、胃の中にでろでろしたスープを流し込まれたような感覚になっても、平然と受け流してきたのに。変わってきてる、何もかも。ねえ、モリスさん。本当にこれで良かったんですか? それとも、計算してなかったんですか。今となってはもう、何も分からない。物言わぬ死体となった部下を見下ろして、「あーあ」って呟いた。


「ちょっと、二等級なんだよ!? ゴミクズじゃないんだよ? そのへん分かってる? てか、防壁一瞬でなくすってどういう魔術?」

「知りません。役に立たないゴミクズと一緒かと」

「ねえ、あんたでしょ? 私の使役獣殺したの。せっかく可愛がってたのに」


 指を差された瞬間、手首が猛烈にかゆくなった。見てみると、赤い跡がぼんやり光ってる。ただのしるしなのかな、これ。それにしても、殺気が感じられない……。私が見据えたら、静かに笑い出した。綺麗な顔立ちに浮かんでいるのは、冷笑。鳥の死体でも見るかのような目でしげしげと、部下の死体を眺めている。


「すごいね、切断面が綺麗だ。これ、あんたの魔術? 私の国に来ない?」

「気持ち悪い。嫌です……」


 悪趣味な人! 床に膝を突いて、首を撫でている。思わず目を逸らしちゃった。お喋りがしたいタイプなのかも? 殺気が感じられない。隣国の精霊に愛されてる美女。精霊の祝福を授かった、麗しの魔術師。色んなあだ名で呼ばれている有名人がなぜここに? それだけ本気ってこと? 王族の誰かが難病でふせってるとか? 油断せずに身構えていると、笑いながら立ち上がった。


「本気で誘ってるんだけどなぁ、振られちゃった。あーあ、悲しい。弟子にしたいのにっ!」

「おことわ……」


 金色に光る波が網膜を焼いた。頭のすぐ上を、猛スピードで何かが通り過ぎてゆく。風を切る音がした。はらりと、黒髪が何本か落ちる。間一髪で多分、避けれた……? マットレスの上に乗った手が震えている。バーデンが「さすがだな、無意識に避けたか」と体内で呟いた。


 ベッドに伏せるのをやめて、飛び降りる。ベッドの向こう側に立ったピアが、金色に光ってる剣を片手に「そう、その調子だよ!」って叫ぶ。ゆっくりと剣を突きつけてきた。


「さっきのお返し、どうだった? 避けれてすごいね」

「……目的は何? レナード殿下の誘拐?」

「じゃ、遊ぼっか。最近、骨がある若者がいなくてつまんなかったんだよね~……。でも、シェリーちゃんだっけ? 手加減してあげるよ。連れて帰りたいな~、王子様と一緒に!」

「ごめんなさい。私、この塔でレナード殿下と一緒に暮らしたいの。邪魔するやつはみんな殺すって決めてるから」


 手加減して貰えるのなら、勝機はある。今回の目標はレナード殿下を誘拐させないことだから、深追いしないように気をつけなくちゃね。でも、わくわくしてきた。怖いんだけど、一等級国家魔術師とはなかなか戦えないから。ああ、だけど、彼女を殺せたらどんなにいいか!












評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ