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元暗殺者と魔術師殿下による、癒しのティータイム  作者: 桐城シロウ
二章 禁術の行使で変わった運命
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4.王子様の体内で

 




 どくんどくんと、心臓の鼓動が聞こえてくる。私は今、どこにいるんだろう? 誰かの胸元にしがみついて、眠っているような気がした。二の腕が温かい。レナード殿下がどうしているのか気になって、起き上がってみると、誰もいなかった。暗くて何も見えない。ただ、ひたすら真っ暗闇に覆われた空間。呆然として、座り込むしかなかった。何も見えない、誰もいない。


「……レナード殿下!? どこですか? おーい」


 温かいと思っていたのは何? 誰かの胸の上にいたはずなのに、レナード殿下に抱き締められていると思っていたのに。半ばパニックになって、床を探ってみると、温かかった。何なの、これ。脈打ってる……? 


 床全体がどくんどくんと、不気味に脈打っていた。誰かの上にいると思っていたのに、床の上に寝そべっているだけだった。ここはどこ? 私はだれ。思考が頭の中で、ばらばらに分解されてゆく。頭がぼんやりする。頭を押さえ、くちびるを噛み締めてみても、何も変わらない。


(記憶が思い出せないようになってる。焦げ臭い、焦げ臭い匂い……?)


 頭の中で光が炸裂した。焦げ臭いということは、禁術。私は今、禁術の中にいるということ。自分の名前すら思い出せないんだけど、知識は思い出せるようになってるみたい。良かった。立ち上がろうとしたら、立ち上がれなかった。


 体に力が入らない、足が滑ってゆく。不思議に思って、やけに空っぽに感じる胸元に手を当ててみると、穴が空いていた。ぽっかりと、胸に丸い穴が空いている。誰かが工具を使って、私の胸をくり抜いたみたい。


「あ……。星? 綺麗、虹色に光ってる」


 胸に空いた穴からどんどん、どんどん、虹色に輝く星がこぼれ落ちてきた。綺麗。でも、不安になる。これを拾い上げて、どこかに行かなくちゃ。どこかってどこに? 思い出せない。そうだ、レナード殿下。レナード殿下は?


「レナード殿下を探しに行かなくちゃ。彷徨ってるかも」


 助けてあげたい。少し私の姿が見えなくなっただけで、不安になっちゃうのに。今頃、不安になってめそめそ泣いているかもしれない。強烈にレナード殿下に会いたい。どうにかなってしまいそう、頭が。虹色に輝く星を抱え、立ち上がろうとしたら、今度は不思議と立ち上がれた。良かった。


 一歩足を踏み出せば、足元がぴかっと光った。真っ白に輝く道が生まれて、ぐねぐねと曲がりながら、奥の方まで伸びてゆく。なんだか怖い。いいの? 大丈夫なの? この道を進んでもいいの? 私、これで合ってる? 大丈夫なのかな……。ぴかぴかと輝く真っ白な道を見ていたら、鳥肌が立った。よく分からないけど、怖い。レナード殿下。


「いか、行かなくちゃ。じゃないと、レナード殿下にもう二度と会えなくなっちゃう……」


 よく分からないけど、この道を進まないと会えなくなるような気がした。息を吸い込んで、道を歩いてゆく。下からの光が、私の頬を強烈に照らしていた。眩しい。虹色に輝く星を抱え、ぐねぐねと曲がりくねった道を歩いていると、急に途中で坂道になった。えっ、これを登るの……? 傾斜がすごい坂道が待ち構えていた。怖くなってきちゃった、どうしよう。先が見えない。


 でも、会いたいなら頑張らないと……。意を決して登ったら、どんどん呼吸が荒くなっていった。抱えていた星が重たくなってきて、落としたくないのに、落としてしまう。虹色の光を放ちながら、落ちてゆく星を見るたびに、背筋が寒くなった。拾おうと思って、手を伸ばした瞬間、紅茶に溶けてゆく砂糖菓子みたいに、しゅわっと消えていってしまう。


「あ……。なんで? 怖い。消えちゃうのが怖い」


 でも、重たい星を持って坂道を登れないから、諦めるしかない。悔しかったけど、前を向いて登る。登っているうちにまた、どんどん、どんどん、腕から虹色の星がこぼれ落ちていった。どんなに気を付けていても落としてしまう。


 数少なくなった星を落とさないようにと思って、しっかり抱き締めていても、重たくなってきて、自分から手放してしまう。熱い、星が。持っていたら、手が火傷してしまいそうになるぐらい熱い。その熱も、星が落ちて、道に吸収されてゆく光景もたまらなく怖かった。くじけそうになった時、頭の中で声が響く。


『本当にレナード殿下のために死ねるか?』


 死ねます、大丈夫ですと、頭の中で私が答えていた。そうだ、自由にしてあげなくちゃ。誰を? 思い出せない。頭がぼんやりとする。とにかくレナード殿下に会わないと。さらに息が上がってきた。自分の呼吸する音しか聞こえてこない。


 レナード殿下の手が、ただひたすらに恋しいのはどうして。これも禁術の影響なの? 汗が浮かんできた。焦げ臭い匂いしかしない、怖い! ぎゅっと両目をつむって、坂道を登り続ける。虹色の星が落ちて、吸収されてゆくのを見るのが怖い。叫んで、拾い上げて、胸元にしまいたくなってしまうから、見ないようにしないと。


「あ、道が平坦になってきた……」


 まっすぐ伸びた光の道の先に、一枚の扉がたたずんでいる。クラシカルな白木の扉。あそこにレナード殿下がいるような気がした。嬉しい! 駈け寄って、扉へと近付いたら、さっきまではなかったのに、急に茨が浮かび上がってきた。丸い真鍮製のドアノブにも、ぐるぐると茨が巻き付いている。遠くから見た時は何もなかったのに。


「……どうして? 開けたいのに。ねえ、いるんでしょう? そこに。レナード殿下! あなたが私の名前を呼んでさえくれたら、私はもう何もいらない」


 どうしてこんな気持ちになるんだろう。これも禁術の影響? でも、私はバーデンに体を明け渡すと決めた時から、自分の体を諦めていた。自分の人生を諦めていた。私の時間も体も、あなたが幸せになるために使えばいい。


 もう、この手にユーインは戻ってこないから。誰も私のことなんて必要としていないから。怖かったけど、ものすごく怖かったけど、星を投げ捨てる。ばらばらとこぼれ落ちて、すぐに消えていった。でも、この先には持っていけないから。これがあると、あなたには会えないから。レナード殿下。


「今さらよね。傷付くのなんて怖くない、血が出たって構わない」


 茨だらけのドアノブを掴んだら、少しだけちくっとした。でも、すぐに痛みが消える。あれ? 不思議。突き刺さると思っていたのに。首を傾げながら、扉を押し開く。扉の先には、うららかな春の森が広がっていた。生い茂る、柔らかそうな下草に、飛んでいる蝶々と咲き乱れる花。木立の間には、ライラック色の花や白い野花が咲き誇っていた。


 可愛くて綺麗! 陽射しは透明で優しい。ほのかな風が、木々の枝葉を揺らしていた。甘い香りがする。べったりと、鼻の奥にこびりついた焦げ臭さが洗い流されて、代わりに、ふんわりとした甘い香りが私の鼻腔を甘やしているみたい。心地良い……。自然と肩から力が抜けていった。鳥の鳴き声と柔らかな空気に包まれたまま、ひとつ深呼吸をする。


「はーっ……何ここ!? お昼寝がしたーいっ! あ、だめだ。レナード殿下は? どこなんだろ。おーい? 私が、私が来ましたよー」


 名前が思い出せたら便利なのに。私、なんて名前だったっけ? 忘れた。レナード殿下が大事そうに呟いて、私の頬を撫でてくれた時のことを思い出す。でも、それ以外、何も思い出せない。木立の間に入ってみると、誰かが踏みしめて、何度も何度も歩いたような道がまっすぐ続いていた。土だけで、草が生えていない。良かった、すんなりと奥まで歩いて行けそう。


 でも、少しだけ地面がぼこぼこしていた。木の根っこに足を取られないよう、幹に触れながら歩いていると、突然、木々の向こうに誰かのシルエットが現れた。真っ黒で、顏がよく見えない。女性が……三人、四人? 


 武器に手を伸ばそうと思ったけど、何もないことに気が付いて、舌打ちしそうになる。青いワンピースのポケットにも何もなかった。いいの、襲いかかってきたら殴って済ませるから。気配を悟られないように、身を低くして、立ち去るのを待つ。でも、彼女たちはお喋りに夢中だった。


「どうなさるおつもりなのか、陛下は。あんな幼い王子を閉じ込めて、自分は豪勢に結婚式だなんて」

「急にどこからか連れてきた女の子どもとはいえ、あんな仕打ちはねえ……」

「でも、今度の王妃様って長年の想い人なんでしょ? もしかして、伯爵が亡くなった原因って、」

「しっ! めったなことを言うもんじゃありません。伯爵は病弱な人だったから、それででしょ! 非現実的な話だわ、陛下が毒殺したなんて」

「でも、その方が面白いし、噂によると小踊りしたって。あの陛下が! 伯爵の訃報を聞いた時に」

「まあねえ。初恋の女性が未亡人になれば、愛人として迎えられるもんねえ。実際は王妃様にしちゃったけど」

「王妃様がいなくなっちゃったし、もう王子様のことはどうでもいいんですかね?」


 話すだけ話して、人影がすうっと消えていった。今の何? 王妃様の話だったけど……。頭がずきっと痛くなった。だめだ、何も思い出せない。でも、いいの。これで。私はひたすらレナード殿下を探すだけ。見つかるまで、この春の森で彷徨うだけ。さっきとは違って、ちょっとだけ歩きにくくなった小道を歩いていると、またあの影が現れた。


「ここって元は牢獄なんでしょ? 不気味ね」

「本当に。ねえ、どう思う? レナード殿下は王位を継げるのかしら」

「さあねえ。でも、こんな塔にずーっといなくちゃいけないぐらい、病弱だったら無理じゃないの?  あーあ、いいなぁ。私も一生遊んで暮らしたいなぁ」

「病弱だったら、色々楽しめないから嫌だなー、私は。しかも、こんな塔で暮らすって。入院しないのかな?」


 何これ。人間じゃないの? 襲いかかってくる様子もないし……。身を潜めたまま聞いていると、黒い女性の影が溜め息を吐いた。


「そこまで重たいご病気じゃないのかしらね。この前会ってご挨拶したけど、元気そうだったわ。顔色は悪いんだけど」

「ねえ、どんな顔してた? まだ会ったことないから気になる!」

「んー、綺麗な顔立ちでね。亡くなった王妃様も綺麗な方だったし、大きくなればさぞかし、美しい男性になるんでしょうねえ」

「えー、いいなぁ。見たかったなぁ! 将来、愛人になってのんびりしたい~」

「いくつ年が離れてると思ってんのよ。願い下げでしょ、王子様が。しかも愛人って!」


 女性の影が静かになって、消える。歩こうと思って立ち上がったら、すぐ近くの木立に影が生まれた。こっちは男性の影が三つと、小さな影が一つ。あれ、何だろう?


「レナード殿下。あなたの血、一滴で救える命があるんですよ? もう少し頑張って頂かなくては」

「でも、今日はもういっぱい採ったよ? それにお父様は? 来てくれるって言ってたのに」

「陛下はお忙しいのです。ほら、あともう少しだけ採らせてください」

「嫌だ! 頭がふらふらするから嫌だ……」

「鉄剤をあとで処方しますから。大丈夫、病気になるほど血を採ってはいませんから。もう少しだけ頑張ってください、あなたはこの国の王子でしょう? 国民を救わなくては」

「嫌だ! 嫌だ、嫌だ、もう嫌だ……!!」


 男の子が泣いて暴れている。自分の目から涙があふれ出して、一筋、頬を流れ落ちていった。どうして、こんなにも胸が締め付けられるの。誰かの感情が、胸の中に湧き上がってきているようで苦しい。息が苦しい……。


 胸元を押さえてみると、さっきの穴が徐々に塞がってきていた。でも、苦しいよ。悲しいよ。嫌なものがぱんぱんに詰め込まれて、中で腐ってゆくみたい。声を聞きたくなくて、走って逃げ出した。怖いよ、嫌だよ、僕の味方は? 僕の味方は……。


「お母様。違う、私。私……?」


 さっきの小さい男の子に、感情を支配されてる? ううん、伝わってくる。ゆっくりと感情が混ざってゆく。この森の中にいるのは危険だ。自分の本能が、サイレンが、けたたましく鳴り響いて、私に危険を告げているのに、引き返せない。探さないと、レナード殿下を。


 記憶の中にいるレナード殿下じゃなくて、今を生きて、動いているレナード殿下に会わないと! 木立の間を走り抜けているのに、どうしても耳に入ってくる嫌な声。横を見てみると、複数の影が立ち並んでいた。


「レナード殿下にも困ったものだ。王子としての自覚が足りない!」

「また抜け出したんだって? まったく、どこが病弱なんだか! あれじゃないの? 面倒臭い公務や勉強がしたくなくて、仮病を使っているだけじゃないの?」

「レナード殿下、何度言ったら分かるのですか。あなたの血は国民を救うために使うべきであって、そんな、たかだか従者のために使うだなんて……」

「レナード殿下、どうして私の気持ちに応えてくださらないんですか?」

「あなたの負担を減らすためにも、早く子どもを」


 レナード殿下、レナード殿下、レナード殿下! 誰かがそう、合唱しているみたい。私を責める声がいっぱい聞こえてくる。耳を塞いで走っていたら、突然、視界が開けた。木々の間から、眩しい光が射し込んでいる。あそこにレナード殿下がいるような気がした。耳から手を離して、ゆっくりと歩き、近くにあった木の幹に手を添える。もう声はやんでいる。おそるおそる覗き込んでみると、眩しい光が目を刺してきた。でも、どことなく優しい光。


「……レナード殿下? 違った、泉?」


 顏を照らしてくる光が優しいから、レナード殿下がいるかと思ったのに違った。青々と茂った草地に、澄んだ水を湛えている泉。周りは木々に囲まれていて、そこの草地と泉だけ、眩しい陽射しに照らされている。ふわりと、新鮮な水の匂いが漂ってきた。


「わあ、すごい。綺麗。神話に出てくる泉みたい……」


 木の幹から手を離して、一歩踏み出すと、柔らかな草が足の裏全体を包み込んだ。いつの間にか、靴が脱げている。ううん、なくなっている。泉を夢中で眺めながら、近付いて、泉のほとりにしゃがみ込むと、水面に映った私が覗き込んできた。綺麗。でも、底が見えないのね。


「レナード殿下? ねえ、どこにいるの? 泉の中にいるのかな」


 手を水に浸してみると、すごく冷たかった。春の森なのに、極寒の海の温度。そうだ、レナード殿下もそんな人だった。優しいようでいて冷たい。そんな人だから、春の森の中で、指先が凍ってしまいそうなほど冷たい泉を飼っているのかもしれない。見ていると、悲しくなってきちゃった。水面に映った私も、悲しそうな顔になる。


「ねえ、レナード殿下。……あの言葉を全部、一人で聞いていたんですか? 私も触れちゃだめなんでしょうか、あなたの心に」


 拒絶されているような気がした。悲しくなって膝を抱え、じっと泉を眺める。風にさざめく葉の音、鳥の鳴き声、春の香りに心が慰められた。両目を閉じて、しばらくの間、疲れた体を癒す。どうしてだろう、胸の奥が温かい。違う何かで満たされてゆくような気がする。レナード殿下に会いたい。ふと、強烈な寂しさが襲いかかってきた。叫びたくなる。恋しい、苦しい、会いたい、今すぐ会いたい、レナード殿下に!


「み、水……!! 喉が渇いた、喉が苦しいよ、なんで!? ねえ、なんで」


 燃えているみたいに熱い、喉が! 何も考えず、一気に冷たい水へと顔を沈める。思ったほど冷たくなかった。甘い、美味しい。ごくごくと喉を鳴らして、ひたすら水を飲む。飲むというよりもこれは、体の中を冷たい水で満たすために、取り込んでいるかのような────……。一旦顔をあげて、口元を拭い、鼻から息を吐き出す。


「ああ、美味しかった……。でも、まだ、足りない」


 着ているワンピースに手をかけて、脱ぎ捨てる。私の体から離れたワンピースが、草に触れるなり、しゅわっと消えていった。怖かった。でも、仕方ない。これが私の選んだ道なんだから。レナード殿下のために死ぬと決めたんだから。両目を閉じて、覚悟を決める。


「今、全部分かりました。モリスさん。私は一度死ななきゃいけない、ここで。そうでしょう?」


 全ての記憶が一気に戻ってきた。私はこの泉に飛び込んで、死ななくちゃ。ここにレナード殿下がいるわけじゃない、飛び込んだ先にいる。飛び込んだ先に、現実世界が待っている。澄んだ水面に映った私は、苦しそうに顔を歪めていた。


「一体、どれだけの術語を組み合わせて作ったんですか? 禁術は……」


 考えるのはやめよう、分かりきっていることだから。下着にも手をかけて、脱ぎ捨てる。私を構成していたものが消えてゆく。思いきって身投げするみたいに、飛び込んでみたら、無数の泡に包み込まれた。体が泡に攻撃されてる。そう思ってしまうぐらい、揉みくちゃにされる。自分の手が、足が、冷たい水の中に溶けていって、思考も消えてゆく。恐怖も、会いたいという気持ちも、意識もなくなっていった。


 なのに、誰かが私の手を掴んでくる。それまで何もなかったのに。一瞬だけ、私は“無”になっていたのに。また手と足が生えて、視界に青いワンピースが映る。レナード殿下が買って、贈ってくれて、「似合うよ、可愛いよ」って言ってくれたワンピース。泣きそうになった。


 目を開けてみると、今度こそ、レナード殿下がそこに立っていた。困惑した表情を浮かべている。水の中で、レナード殿下は立派な王子様の服を着て、私の手を掴んでいた。赤い地に、金色の装飾がいっぱいついた服。薄暗い水の中で、光り輝いているように見えた。


「レナード殿下!」

「シェリー、どうしてここに?」

「ああ、やっと名前を呼んでくれた! ようやく会えましたね、レナード殿下……!!」


 勢いよく抱きつくと、レナード殿下が笑って抱き締めてくれた。泣いているようで、背中を少し震わせている。


「死んでない? 生きてる? シェリー」

「生きてますよ、レナード殿下。もうこれで終わりです、帰りましょう」

「帰るってどこに? そうだ、モリスは」


 言いかけた瞬間、光が炸裂した。体の輪郭が溶けていって、レナード殿下と一つになる。奥底で、私達は手を繋いでいた。向き合って、両手を固く握り締めていた。レナード殿下の悲しさも、私の空虚さも全部混ざり合って、流れ込んできて、お互いに理解する。もう逃げられないんだって、繋がったんだって。私達は、モリスさんは、しちゃいけないことをしてしまった。意識の端で、何か大きなものが焼け落ちて、焦げ臭い煙を漂わせていた。ああ、終わってしまった。何もかも全部。









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