14.王子様はパンケーキよりも強い
「ねえ、殿下にキスされたんです。これってどういう意味なんでしょう? エナンドさん」
「っあ、と、とと……!! 危なかった、うっかり割るところだった」
リビングに置いてある食器棚から、美しい花模様のグラスを取り出そうとしていたエナンドさんが動揺し、指先をグラスにぶつけていた。落としそうになったグラスを、卵か何かのように大事に抱え、焦った顔をする。さっきのスーツ姿じゃなくて、厚手のトレーナーとズボンを着ていた。灰色の生地に、コーヒーとマフィンの絵がプリントされている。
「ええっと、シェリーちゃん? できたらコップを取ろうとしている時に、そういう話はやめて欲しい。というか、俺が何かの作業に集中している時は話しかけないで欲しいんだけど……?」
「分かりました、ごめんなさい」
「あ、うん。でも、ちょっと八つ当たりだったかも。ごめんね? そ、それで? できたら、主君の恋愛話を聞きたくないというかさ、そういう、ドロドロ話はちょっと受け付けないんだけどな~」
「どろどろ話? どうしてなんですか? あ、話しかけない方がいいですか?」
「いやいや、大丈夫。だって、ドロドロじゃん? 手を出す気がないと明言しておきながら、そういうことをするような人には……うーん! 見えなくもないな、うん。あの人は」
「そうなんですね……」
やっぱり、女性の影が見え隠れしている。ぶすっと不貞腐れながら、木の板にしか見えないテーブルに寝転がった、黒猫のバーデンを撫でる。私が黒猫ちゃんになって、とせがんだらなってくれた。でも、すごく嫌だったみたいで不機嫌。
仏頂面になりながら、黙ってお腹を向けてる。前足がしっかり揃えられているし、黒猫のぬいぐるみみたい。天井から降り注いでくる、太陽のように眩しい光が、バーデンの黒い毛並みをつやつやと照らしていた。
「ねえ、ここ、眩しいですね? 窓が一つも無いから変な感じ」
「……ああ、モリスさんがそういう設計にして。殿下は朝に弱いから、そこまで眩しくしなくてもいいって言って、朝は薄暗くして貰ったんだ。でも、昼間になるとこうして眩しくなる。上見てみなよ、上。まだ見てないだろ?」
「ん?」
サラダの準備をしていたエナンドさんが、急に上を向いて指差す。つられて見上げてみると、無骨な黒いシャンデリアの向こうに、木の枝葉が広がっていた。綺麗。まるで、自分が木の下でピクニックしているみたい。見上げていると、優しい風が吹き渡った。ほのかに木の枝葉がさざめている。爽やかな緑色の葉の隙間から、青空が見え隠れしていた。眩しい。瞳孔を刺してくる光は熱くて、本物の陽射しみたい。
「綺麗……。知らなかった、どうしてもっと早く教えてくれなかったんですか!?」
「えっ!? ご、ごめんね? ほら、お昼ご飯の支度もしてるしさ……。そんなことよりも、キスされたって衝撃発言が頭から離れないんだけど!?」
「お前、人のことをとやかく言えないだろ? 自分の行いを正してから、殿下にぐだぐだと言え」
「いやぁ~、だってさぁ。あ、ごめん。ありがとう。卵貰えた?」
「ん、検査もしておいた」
「うわ~、カイだぁ~」
おもむろにリビングの扉を開けて、カイが入ってきた。擬似の陽射しに当てられた黒いマントはぼろぼろで、相変わらずきっちりと、目の下まで黒いスヌードで覆っている。顔がよく見えない。私が睨みつけていると、卵が入った木かごを持ちながらすたすたと、キッチンに立っているエナンドの方へ向かう。私のことは無視することにしたみたい……。嫌な人、あの人。
「で? あいつもなんで手伝わせねぇんだ?」
「怖いから。主に人外者が」
「びびりかよ。大丈夫だろ、制御はできてるみたいだし」
「それにシェリーちゃん、人を殺す以外で、刃物をまともに持ったことがないって言うからさ……」
「嘘だろ!?」
「ユーインがね、怖がって持たせてくれなかったの。でも、持ってあげようか? ナイフ!」
「……いい、座ってろ。人外者とたわむれとけ。この役立たずが」
「まあまあ、もうすぐ終わるし。今日は見た目豪華だけど、大したことないから」
ぶつくさと文句を言うカイの横で、エナンドが苦笑する。持ってあげようかって言ったのに、断られちゃった。むくれていると、死んだ魚の目でお腹を向けていたバーデンが、猫みたいに「ぶぬぬぅ」と鳴く。
「ねえ、バーデン。酷いよね~。私だってちゃんと手伝おうと思ったのに、追い払われちゃった。どう思う?」
「……この姿、プライドに差し障る。やめてもいいか? なぁ」
「いいよ、おいで。ありがとう。いつもバーデンがこの姿だと可愛いんだけど」
「こんな軟弱な生き物に化けたくない。俺は人間に媚を売る動物とは違うんだ」
大きく口を開けて、白いキバを見せつけながら起き上がる。黒猫がぽんと、羽毛を持ったヘビに姿を変え、私の肩へ絡みついてきた。ふわふわとした小さな両翼と、ざらりとした黒紫色の鱗を持っている。確かに、確かにふわふわしているんだけど、なんか違う……。でも、バーデンなりのサービスだろうから、黙っておいた。私の首に胴体を巻きつけたバーデンが、ケケケと笑う。
「やっぱりこうじゃなきゃな。……おい、俺も食うぞ。シェリー。さすがは王族だな。継承権を奪われて、こんなみすぼらしい塔に閉じ込められてはいても、良い食材を使ってやがる」
「……継承権を奪われて?」
「知らなかったのか? 城のメイド達の噂話を聞いてきた。あいつらときたら、同じ話題を何度でも持ち出しやがる。飽きないのかねえ、ああも同じ話を繰り返して」
「継承権を、奪われて……」
王子様は王子様だと思っていた。初めて会った時の強烈な印象が、脳みそに染みついて離れない。綺麗な顔立ちをしていた。よく手入れされて光る黒髪に、澄んだ蜂蜜色の瞳。ここまで綺麗な人に出会ったことはなかった。豪華絢爛なお城がまた、絵から抜き出てきたかのような王子様に仕立てあげていた。
(でも、王子様は王子様で悩んでるのよね。いざとなったら私に殺されてもいい、と思うぐらいに)
私に何が出来るんだろう? 両手から、殿下に優しく握られた感触が抜け落ちない。殿下のくちびるに紅茶の匂い。改めて考えると、耳が熱くなっていくような気がした。心臓がそわそわする。誰かを殺したいという気持ちとよく似ている。頭から、その人のことが離れない。
「……ねえ、バーデン? ベーコンを私にくれる?」
「えっ? 嫌だ。俺はお前のエサ係じゃない」
「つまんないの! 殿下ならくれるのに」
食べて忘れてしまうことにした。椅子から立ち上がって、キッチンへ行けば、カイとエナンドが慌て出す。綺麗に食事が盛り付けられたお皿が三つ、作業台に並んでいた。
「おい、何しにきたんだよ? まさか、俺を殺すつもりじゃないだろうな……」
「どうしてそうなるの? せっかく手伝いに来たのに!」
「にこにこ笑いながら、刃物を持って来たら怖いんだよ! もう切るもんはねぇぞ!? 俺の首ぐらいしか!」
「……あ? 私、どうしてこれを持ってるんだろう?」
「一旦落ち着こうか、シェリーちゃん! 何か嫌なことでも思い出したのかな?」
「うーん、そうじゃないんですけど。別に」
エナンドがナイフを取り上げようとしてきたので、反射的に避け、首筋にナイフの刃をあてる。ごくりと、生唾を飲み込んだ。……でも、あまり白くないし、切りたくない。
だけど、このまま躊躇無く人を殺せる自分じゃなくなったら、不幸になってしまいそうで、居場所が無くなってしまいそうで怖かった。くちびるに触れてきた、殿下のくちびるを思い出して泣きそうになる。あの時は別に、何も感じなかったのに!
「シェリーちゃ……」
「おい、一体どういうつもりだ? 悪ふざけにしても度が超えている。今すぐそれをしまえ! シェリー」
「……私、怖いんです。エナンドさん。誰であれ、殺せなくなることが」
「えっ?」
「無視するなよ。バーデンだったか。これ、お前の指示か?」
「まさか! 俺の指示なわけないだろう。このクソガキ一人死んで、俺に何のメリットがある? くだらないことを言うのはよせ」
肩の上のバーデンがせせら笑い、カイが舌打ちをする。エナンドは怯え、グリーンの瞳を彷徨わせていた。ふと、彼の血のような色の赤髪に目がいく。殺せる。今までの私なら殺せる。ここに来るまでの私なら殺せる。でも、できなかった。簡単なことなのに。
殿下の絶望した顔を想像するだけで、ナイフを滑らせ、首を切ることができなくなってしまう。カイも私も、どうしたらいいのかよく分からなくて、戸惑っていれば、エナンドが喉を震わせ、ゆっくりと私の肩に手を添えた。
「……シェリーちゃん、落ち着いて聞いて欲しい。悲しそうな顔してるけど、どうしたのかな?」
「私、あなたが殺せないのが悲しいんです」
「そっちか~! 悲しいのってそっちか~!!」
「能天気な。殺されても知らねぇぞ!?」
「はいはい、はいはい……。一旦黙ってて欲しい、頼むから。あー、それで? どうして殺したくなったのかな? もうお昼ご飯だし、せっかく焼いた、あつあつのパンケーキが冷めちゃうんだけどな~」
「ぱん、けぇき?」
皮膚が切れない程度に、ナイフをゆっくりと動かせば、エナンドさんが天井を仰ぎ見て、もう一度唾を飲み込む。カイが殺気立った。殺される、という予感が背筋を這い登ってきた。……そっか。嫌な人だけど、エナンドさんのことが大事なのかもしれない。
「うん、そう。お食事パンケーキ。シェリーちゃんの好きなベーコンとポーチドエッグをのせたんだけどなぁ~」
「……食べます!」
「うん、良かった……。パンケーキが俺の命を救ってくれたよ、カイ」
「殺気がいまいち無かったし、まあ、大丈夫だったろ。パンケーキが無くても」
ふうと息を吐き出しながら、カイが身構えるのをやめた。私もそれに合わせ、力強く手を振って、ナイフを腕時計へ戻す。血が出ていないかどうか、一生懸命自分の喉を擦っていたエナンドが、苦笑しながらこっちを見てきた。
「それで? ……今、俺の喉元にナイフを突きつけた理由は?」
「殿下にキスされたんです。それが忘れられなくて」
「えーっと、俺が恋バナを聞かなかったから? 殺されかけた?」
「バカ言え、そんな理由で殺されかけてたまるか! いいか? シェリー。不服だが、俺達はこの塔でこれから一緒に暮らしていくんだ。気分でこういうことをされちゃたまらない。だから言え、ナイフを突きつける前に! 何が不満だったんだ? おい!」
「あでっ!? まっ、痛い痛い! 痛いよ!」
「カイ!?」
カイが不機嫌そうに言いながら、どすどすどすと私の眉間をつついてきた。い、痛い。けっこう痛い! おでこを押さえて涙目になっていると、エナンドが慌て出す。
「落ち着こうぜ、カイ! 俺のことはもういいから……」
「そうじゃなくてだ、こういうことが繰り返されると、俺としても困るんだよ。誰がお前のために、怒ってるって言った?」
「うーん。俺、もう腹が減ったから、飯食いたい……」
「耐えろ、少しぐらい。それで? シェリー。早く理由を言え。あー、殿下がキスどうのこうのって話はするな。関係ないだろ、絶対」
「私……」
怖かった、自分が違う人間になっていっちゃいそうで。おでこを押さえたまま、困惑していると、カイが眉間にシワを寄せた。エナンドは巻き添えを食らいたくないのか、そろーっと歩いて、「じゃあ、俺は皿を運んでくるから」と言い、どっかに行った。
……自分の気持ちを言うことがないから、どう言えばいいのか分からない。おでこから手を外して、真剣に悩んでいると、カイが溜め息を吐き、もう一度、私の眉間をつついてきた。
「あうっ!?」
「シェリー、お前は特殊な環境下で育ってきたのかもしれない。が、それがなんだ? 人にナイフを突きつけてもいい理由にはならない。エナンドは許すかもしれないが、俺は許さん」
「……カイは、エナンドさんのことが好きなの?」
「は? お前が言っているような意味での好きじゃない。話を逸らすなよ」
「じゃあ、どの好き? 殿下はどの好きだと思う?」
「……相手にされていないんだよ、最初から。お前はただの遊び相手にすぎない。話を逸らすな、俺の質問に答えろ」
「っう!」
がっと、カイが私の首を掴んで締め上げてきた。苦しい。……でも、こっちの方が落ち着く。はくはくと、死にかけの魚のように口を動かしていれば、すかさずエナンドが飛んできた。
「ちょ、ちょ、ちょ、待てって! いくら何でも、女の子にそりゃないだろ!?」
「質問に答えないからだ」
「どっちみち、喉を絞められていたら何も言えないって! ほら、放せよ! カイ!」
「……まったく。お前が早く、質問に答えてたらそれで良かったのに」
「大丈夫? シェリーちゃん。息できる?」
私がぼんやりしていると、背中を擦ってきた。温かい。それが怖い。私、元に戻れるのかな? いつか人を殺せって指示されても、殺せなくなっちゃうんじゃないかな? さらりと、自分の喉元を擦る。エナンドがしきりに心配して、「大丈夫? 聞こえてる?」と聞いてきていた。
「……私、怖いんです。誰も殺せなくなることが。このまま、ここでのうのうと暮らしていって、何も出来なくなることが」
「シェリーちゃん、大丈夫だよ。何かあったら俺が守ってあげるからね」
「……殿下に言いつけるぞ、エナンド。ちゃっかり手ぇ握りやがって」
「手、手を握っただけだから……。それに、かなり情緒不安定になっちゃってるし、こういうことが必要なんじゃないかなぁと思ってさ」
「あ、そうだ。上書きして貰えますか?」
「上書き?」
「は? 何のことだ?」
エナンドさんの両手を握り返しながら、こくりと頷く。二人とも、訳が分からないという顔をしていた。
「はい。一度エナンドさんにキスして貰えたら、さっきのことも忘れられるんじゃないかって」
「……そりゃ、俺の得意分野だけど。いだっ!?」
「やめとけって。一応殿下の女なんだから」
「わ、分かってるよ、俺だってそれぐらい……」
カイの肘突きを食らった脇腹を押さえつつ、エナンドが「あいたた」と言う。だめだったみたい。私、殿下の女だから。きょとんとしていれば、カイがまた私の眉間をどすっと、つついてきた。
「痛いっ! またした!?」
「お前がくだらねぇことばっかり言うからだろ! 飯食うぞ、飯」
「うーっ」
「シェリーちゃん、早く食べよう。俺からまた注意しておくからさ」
「はぁーい……」
エナンドに促され、木の椅子に腰かける。バーデンがすかさずカラスの姿になって、エナンドがこわごわと置いた、ベーコンと目玉焼きのお皿に飛びついた。それを見たあと、テーブルに目を落とす。……わあ、すごい! テーブルの上がまるでカフェみたい。黄色いミモザがふちに描かれた、白磁のお皿の上に、ふんわり食感のパンケーキが二枚重ねられている。
そのパンケーキの上には突くと、ぷちっと黄身があふれ出てきそうなポーチドエッグに、黒胡椒がたっぷりかけられたベーコンが載せられていた。しかも、チーズソースまでかけられてる。奥には新鮮な玉ねぎとハーブのサラダ、それに皮付きポテトがどっさり載せられていた。
これだけでも、すごいとしか言いようがないのに、可愛いミモザ柄のスープカップの中に、美味しそうな黄色いコーンポタージュが入ってる。丁寧にパセリがかけられていた。おまけに搾ったのか、さっきの美しい花模様のグラスの中に、つぶつぶとしたオレンジジュースが淹れられている。私が白い石の持ち手がついた、ナイフとフォークを持って、ぶるぶる震えていると、向かいに腰かけたエナンドが笑う。
「感動してる、感動してる。ちょっと冷めちゃったかもしれないけど、召し上がれ」
「は、はい……。自分が人殺しに戻れるように、エナンドさんを殺さなくて正解でした!」
「あー、そっか。俺、練習台だったんだ」
「他人事かよ。あと抵抗しろ。動きたくない」
「おいおい、そこはもうちょい何か言うことがあるだろ? シェリーちゃん? 練習台が欲しいのなら、寝込みのカイを襲うといいよ~」
「返り討ちにしてやるからな、そんなことしたら。おい、聞いてるか? ……シェリー?」
「ふ、ふぁい?」
必死ではぐはぐと食べていたら、カイが灰色の瞳を見開いて、呆然としている。どうしたんだろう? 前から頭がおかしいのかな、この人って思ってたんだけど、その通りなのかもしれない。首を傾げていれば、エナンドも慌てている。
「えっ? き、気付いてない? ここ、ほら。ほっぺた、ほっぺた」
「え、あ……」
言われた通り、頬に触れてみると、指先が濡れた。泣いてたんだ、私。気付かなかった。濡れた指先をじっと見つめていたら、おもむろにエナンドが呟く。
「まあ、これからだよ。大丈夫、大丈夫。シェリーちゃんもここにいたら、何がつらいことで、何が苦しいことなのか分かってくるだろうから」
「……だな。さっさと常識を身につけてくれ、情緒を発達させろ」
「すぐに、人の首を絞めるようなカイには言われたくないっ!」
「ああ!? 初対面で人の首を絞めてきたのは、一体どこのどいつだよ? 忘れたとは言わせんぞ」
「んん~?」
「可愛いね、シェリーちゃん。カイ、許そう? 今すぐに!」
「……好みのタイプじゃないから無理」
「そういう問題? 気持ちは分かるけど」
本当にこのままでいいのかな? 美味しいふわふわのパンケーキに、塩気のあるベーコンが胸に染みていった。黙々と、分厚く切られたベーコンに濃厚な黄身を絡め、口に運ぶ。それを噛まないようにしながら、慌てて、ちょっぴり甘いパンケーキを口に詰め込んだ。
まろやかな酸味のあるチーズソースとベーコン、ふわふわ食感のパンケーキと黄身をよく味わって食べていたら、また涙が出てきそうになった。エナンドが葉のようなグリーンの瞳を細め、嬉しそうに笑う。
「……美味しそうに食べるね、シェリーちゃん。作った甲斐があった」
「はい。でも、殿下に会いたいです……」
「は? さっき二人きりでイチャついてたんだろ? 知ってるぞ、俺」
「でも、会いたいんだもん! このミモザ柄のカップとかお皿とか、すごく可愛いから会って話したい……」
ころんとした丸いフォルムが本当に可愛い、このスープカップ! 両手に持って、にこにこと笑いながら見つめたあと、大事にコーンポタージュを啜っていれば、エナンドが相好を崩した。いかにも女好きって感じの、でれっとした笑顔だった。
「いいなぁ、女の子がいるの。俺、協力するから相談して? あと、殿下に冷たくされたら言って。取り持ってあげるから」
「えっ!? いいんですか? じゃあ、よろしくお願いします!」
「やめとけ。エナンド、お前、そろそろ街に行って女を漁ってこい。シェリーに手を出したら、さすがの殿下も怒るだろ」
「ううーん? 聞こえないなぁ」
「二人揃って難聴か? ……ま、好きにすればいいけど。俺には関係ない話だ」
怖いことはまだまだ沢山あるけど、殿下のくちびるの感触が染みついて消えない。美味しいパンケーキでも上書き出来ないから、王子様はパンケーキよりも強い!




