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8 図書館へ

 暇を持て余した私は、城の中にある図書室へと行くことにした。

 もちろん忙しいアレックス王子にも人づてに許可を頂いている。


「寒い~」

 

 外に積もっている雪のせいか図書室までの廊下は暗く寒い。

 小さく呟きながら歩いていると、廊下の角にエドモンド様が歩いているのが見えた。

 遠くからでも美しさのおかげか輝いて見える。

 私が小さく頭を下げると、彼は微笑んでくれた。


「寒いのにどこへ行く所なの?」


 エドモンド様が気さくに話しかけてくれ私は読み終わった本を掲げる。


「新しい本を借りようと思って、図書室へ行く所なんです。それにしても寒いですね」


 私の吐く息が白く見えるほど廊下は冷えている。

 エドモンド様は頷いて窓の外を見た。


「そうだね。今年は特に異常なほど雪が一気に降ったからね。アレックス王子が薬で倒れてから雪が降り続いてわずか二日でこれだけ積もったんだ」


「それお兄様も言っていました。雪かきが大変だって」


 エドモンド様はクスリと笑って頷く。


「そうだね。毎日交代で雪かきをしているけれどさすがの僕も筋肉痛になるよ」


「それもお兄様が言っていました」


「どうもレティシアちゃんを見る機会が多くなったからか、昔を思い出したよ。昔はよくアレックス王子と一緒に居たよね」


 昔を懐かしむように言われて私は頷く。


「いたような気がします。6歳ぐらいまではよく遊んでもらっていましたけれどあまり覚えていないんですよね」


 覚えてないと言いつつ、アレックス王子が綺麗な顔をしていたなとか、優しく接してくれたこととか”僕のレティ”と呼ばれていたことは覚えている。

 恥ずかしいので言わないけれど。


「懐かしいなぁ。そういえばよくレティシアちゃん、実家の裏の廃墟によく行っていたよね」


 「そうでしたね!すっかり忘れていたわ」


 私の家の実家の裏と言っても少し歩くのだが、廃墟の教会がある。

 かなり昔は教会として機能していたが、いつのまにか廃墟になり朽ちている建物がある。

 かなり大きな建物で、昔の時代に建てられたにしては近代的なのだ。

 5階建で山の中にあり、すでに朽ちているために近づくなとよく言われていたが幼い私はなぜかよく隠れて見学に行っていた。

 その裏山も含めて我が家の私有地なのだが、歴史的建造物とかで取り壊すことができない。

 

「僕がまだ騎士になりたてで、巡回場所だったんだよね。そこでたまにレティシアちゃんを見かけて危ないから家に帰るように注意していたな」


 目を細めて懐かしむように言われて私はすっかり忘れていた記憶が蘇ってきた。

 なぜ廃墟へ遊びに行っていたのかさっぱり分からないが一人で冒険気分だったのだろう。

 今思えば危なすぎる。


「そうでしたか?」


 アレックス王子と会うことも幼い私はうれしかったが、たまに廃墟で会う綺麗な騎士のお兄さんに会うことも当時の私は楽しみだった様な気がする。

 エドモンド様と会うことが嬉しくて、なんてことも言えず覚えていないふりをする。


「頻繁にレティシアちゃんを見かけていたけれど、急に見かけなくなったね。何かあったのかな?」


 エドモンド様に言われて、廃墟で遊んでいた記憶をたどる。

 

 綺麗な騎士のお兄さんに会えないかなと廃墟に行ったが何か怖いことがあって泣きながら帰って来たのだ。

 それが何だったかさっぱり思い出せない。

 私は首を傾げてエドモンド様を見上げた。


「なんですかね?蛇か何かを見たのかもしれないですね」


 何か怖いことが会ったのは確かだが、蛇だったか熊だったかさっぱり思い出せない。

 首を傾げる私にエドモンド様は微笑んで首を軽く振る。


「いや、覚えていないならいいんだ。ただ急に君を見かけなくなったからどうしたのかと気になっていたんだ」


「そうでしたか。もしかしたら、父か母に見つかって怒られたのかもしれないですね」

 

 


 私たちが話していると後ろからルビーちゃんが歩いて来るのが見えて私は軽く微笑んだ。

 本当に毎日の様に城に来ているのね。


 よく考えれば私も幼い頃、城に来ていたペースもこれぐらいだったかもしれない。

 ルビーちゃんの事は悪く言えないわ。


「ごきげんよう」


 私が挨拶をするとルビーちゃんは少し悲しそうに微笑みながら挨拶を返してくれる。


「こんにちは。お2人はお知り合いなのですか?」


 私とエドモンド様が話しているのを不思議そうに見ているルビーちゃんに軽く頷いた。


「昔、アレックス王子に遊んでもらっていた時にエドモンド様ともたまにお会いしていたから、顔見知りではあるわね」


「そうだね。小さいルティシアちゃんを一時はよく見ていたよ」


 エドモンド様も頷くとルビーちゃんは納得したようだ。

 私がエドモンド様とアレックス王子どちらも手玉に取っていると思われていたら嫌だなと思いあえて顔見知り程度たという事を強調しておく。


「それより、ルビーちゃんは毎日、城に来ているの?」


 なんでもない事のように聞くと、ルビーちゃんの顔が曇る。


「はい。お母さまがマーガリィ王妃に会いに来るので一緒に来ています。そのついでというか、アレックス王子にご挨拶をできればと思っているのですがなかなかお会いしてくれずに毎回落ち込んでしまいます」


「そうなの。アレックス王子、お忙しいみたいだものね。私もここ数日お見掛けしていないわ」


 オホホホっと笑うとルビーちゃんは安心したように微笑んだ。

 

「本当にお忙しいのですね。アレックス王子は本当に惚れ薬にかかっているのでしょうか」


 入れた本人かもしれない人が聞いてくるなんて!

 内心驚きながらも平静を装って私は優雅に微笑む。


「さぁ、どうかしらね?普段と変わらないのに思い出したように私の事を嫁にしようと話をするのよ。薬のせいかしらね?妙な惚れ薬もあるのね!」



「アレックス王子が正常なのか誰もわからないのですね」


 寂しそうに言うルビーちゃんに私は肩をすくめてエドモンド様を見上げた。


「本当ね!可笑しいと言えば可笑しいし、まともと言えばまともだし。そもそも惚れ薬なんて本当に存在しているのかしら?誰が入れたのかしらね?」


 大きな声で言うと、エドモンド様は困ったように首を傾げる。


「案外身近な人だったりするものだよ」


 何となく私と、エドモンド様はルビーちゃんを見つめてしまう。

 居心地が悪そうにルビーちゃんは下を向く。


「アレックス王子が倒れた時お話をしていたのが私とお母さまだから疑われているんです。でも調査もうけましたし、全てお話しました」

 

 それでも怪しいと思っているのよとは言えず私は眉をひそめた。


「そうだったの。大変だったわねぇ」


 嘘っぽく聞こえていたら申し訳ない。

 同情を込めて言うと、ルビーちゃんは薄く微笑んだ。


「早く犯人が見付かることを祈ります」


 貴方のお母さんが一番怪しいわよと心の中で呟いて私は頷いた。


 「私、図書室へ行く途中だったの。では失礼します」


 これ以上ルビーちゃんと話していても有益な情報はないだろう。

 私は綺麗なお辞儀をしてその場を後にした。


 エドモンド様も私とルビーちゃんに別れを告げて仕事に戻っていく。

 それぞれ違う方向に歩きながら私は階段を登り始めた。


 図書室は1つ上の階なので階段をゆっくり登りながらまだ廊下にたたずんでいるルビーちゃんを振り返った。

 落ち込んだように俯いているが、演技なのか、本当に落ち込んでいるのかは分からない。

 

 もし演技だとしたら相当な役者だ。


 あまり関わらないでおこうと心に命じて階段を登ろうとすると前から何者かに力強く押された。

 

 後ろを向いていたので油断していた。


 押された勢いで足を踏み外し階段を落ちていく。


 階段を落ちながらも押した犯人を見ようと視線を向けるが、黒い影のようなものが見えるだけだ。


 あの黒い影が私を押したの?


 落ちながらも、あの影は人間ではないのかもしれないと思いついて悲鳴を上げた。


「ぎゃぁぁぁ!幽霊だ!」



 

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