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6 楽しいお茶会

 

 気まずい雰囲気の中で私は紅茶を一口飲んだ。

 マーガリィ王妃のお茶会と聞いていたが、王妃が用意した部屋に行くとすでに噂のヘレン夫人とその娘ルビーちゃんが楽しそうに座って待っていた。

 

 噂通り毎日の様にマーガリィ王妃とお茶を楽しんでいるようだ。


 アレックス王子と私が来ると立ち上がって笑顔で迎えてくれたが、ヘレン婦人の目が少し恐ろしく見える。


「レティシアちゃんお会いするのは久しぶりね。いろいろ大変だったわね」


 マーガリィ王妃に聖母のように微笑まれて私も微笑んで頷く。


「大変でした。アレックス様がちょうど迎えに来てくださったので帰ってくることが出来ました」


 アレックス王子は隣に座って微笑んで私を見つめている。

 まるでラブラブの恋人同士のように見えるから止めてほしい。


 お茶会の主催である王妃は薄い黄色のドレスを着て大きなテーブルの端に座っている。

 私たちの前には、ヘレン婦人とルビーちゃんが座っている。

 ヘレン婦人は相変わらず地味なドレス姿だが、ルビーちゃんはここぞとばかりの派手な赤いドレス姿だ。

 彼女の引っ込み思案な性格からかドレスに着られているような印象を受ける。

 顔は可愛いのだからもっと堂々としていればいいのにと会うたびに思う。


 申し訳なさそうに座っているルビーちゃんが可愛そうになってくる。

 その隣のヘレン婦人は微笑んでいるが目は笑っていない。


 目の前のヘレン婦人が惚れ薬を入れた犯人だとしたらよくこの場に居られると思ってしまう。

 そして私の身が危ないのは無いかと思うが、この部屋には護衛騎士が数人目を光らせているので大丈夫だろう。


 マーガリィ王妃の後ろには王妃専属の護衛騎士が立っている。

 その中でもひときわ目を引くのがエドモンド様だ。

 

 金髪の髪の毛を1つに結んで長い前髪を前に垂らしている。

 キリリとした人間離れした顔に優しい人なので女性にとても人気があるのだ。

 王子と同じ32歳だが、まだ独身というのが女性達の人気が衰えない原因だろう。

 アレックス王子とエドモンドはいわゆる乳兄弟なので私も昔はたまにお会いしたことがある。


 数年ぶりに見かけたが変わらず美しい彼を堪能しているとアレックス王子の冷たい視線を感じて慌てて目を逸らした。

 惚れ薬の影響が消えない限り他の男性を見つめているとアレックス王子に殺気を向けられるのね。

 

 

 「スラン王子にレティシアちゃんを嫁に欲しいって言われて断れなくてごめんなさいね。戦争になりかねない勢いだったのよ」


「いえ、もう済んだことですから」


 マーガリィ王妃に決定権は無いのを知っているので私は軽く微笑んだ。

 私の言葉にホッとしたのか王妃はニコニコと笑顔を取り戻す。


「アレックス王子が惚れ薬を飲んで大変だったけれど。こう見ると二人はお似合いね」

 

 何気ないマーガリィ王妃の言葉にヘレン婦人の表情が凍り付いた。

 やっぱり彼女が惚れ薬を入れたに違いないと私でも確信してしまう。


「でも、離婚歴がある方は王子のお相手にはふさわしくないのでは?」


 ぎょっとするようなことを言うヘレン婦人にさすがのマーガリィ王妃も顔を引きつらせている。

 

 アレックス王子は微笑んでヘレン婦人を見つめた。


「ふさわしいかどうかは僕が決めますよ。可愛いレティ以外に僕の妻は考えられないからね」


 そう言って私に視線を向けてとびっきりの笑みを浮かべた。

 あまりに素敵な顔でドキドキしてしまう。

 それを見ていたルビーちゃんも顔を赤くしている。


「お二人がとてもお似合いで羨ましいです」


 てっきりヘレン婦人と同じく私を敵とみなしているのかと思ったがルビーちゃんは憧れの目で私たちを見つめている。


「そ、そうかしら?」


「小さい頃からお知り合いなんですよね。私もこんな素敵な王子様と一緒に遊んでみたかったです」


 「ルビーちゃんがヘレン婦人とお城を出入りしていた時はまだ小さかったから、アレックス様と遊んでもらったのではないの?」


 私は6歳まで16歳のアレックス王子と良く過ごしていた。

 とても可愛がってもらっていたからきっと子供が好きだと思っていた。


 ルビーちゃん寂しそうに首を振る。


「いいえ」


「そうなの?」


 驚いて隣のアレックス王子を見ると彼は微笑んだまま私をじっと見つめていた。


「僕は別に子供が好きなわけではない。レティが可愛すぎて、どうしても僕が遊んでほしかったんだよ。小さい頃のレティは本当に可愛くて人形のようだった。フワフワの金色の髪の毛を1つに結って小さな体で僕を見つけると駆け寄ってくるんだ。可愛く微笑んでアレックス王子様と結婚したいとか言ってくれた時、僕は喜びで震えたよ。あの時のレティの青い目に移った景色も覚えているよ」


 「そ、そんな昔の事知りません!」


 覚えているけれどそんな恥ずかしい事は記憶から消し去りたい。

 幼い頃の戯言だと言いたいのに、アレックス王子はペラペラと私がどれだけ可愛かったかと話し続ける。


「知らないなんて残念だ。思い出してもらえるように頑張るしかないね。愛するレティの為に僕はなんでもするよ」


 アレックス王子が私の事を語るたびにヘレン婦人の顔が引きつっていく。

 命が惜しいのでこれ以上、アレックス王子はそろそろ私の事を話すのをやめてほしい。

 もしかしたらヘレン婦人に惚れ薬が効いているという演技をしている可能性もあるが聞いているこっちが恥ずかしくなってくる。


「アレックス王子、少し変わりました?」


 引きつった顔で言うヘレン婦人にアレックス王子は意味深に微笑んだ。


「変わったと思うなら、誰かに飲まされた惚れ薬の影響でしょうか」


 金色の瞳に見られてヘレン婦人は首を傾げる。


「惚れ薬ってこういうものだったかしら?」


 違うと思いますと、私は心の中で呟いた。

 空気の読めないマーガリィ王妃が微笑みながら私とアレックス王子を眺めている。


「惚れ薬の影響で素直になったのかしらね。小さいレティシアちゃんとよく遊んでいたという話は聞いていたからよっぽど好きだったのね」


「そうかもしれませんね。レティへの愛を素直に言えることになったのは犯人に感謝したいですね」


 犯人を目の前にしてよく言うわとお茶を噴出しそうになり慌てて飲み飲んだ。


 アレックス王子のジリジリとした圧力を全く感じていないのかヘレン婦人は悔しそうに唇を噛んでいる。

 隣に座るルビーちゃんはキョトンとした顔をしていた。




 

 楽しいお茶会も終わり部屋に戻って来た私はドッと疲れてソファーに崩れ落ちた。


「疲れた……」


 前に座っているアレックス王子は優雅に座って頷いている。


「全くだね」


「楽しんでいたくせに!アレックス様とヘレン婦人の会話に冷や冷やしちゃったわ」


「誤解だよ」


 そう言いつ楽しそうに笑っている。


「アレックス様の言う通り、ヘレン婦人が犯人としか思えないわ」


「娘を僕と結婚させたがっていただろう?」


「そうね。でもルビーちゃんはそうでもないような……」


 母親ほどやる気を感じないルビーちゃんを思い出す。

 ヘレン婦人に言われるがままという感じがした。


「意外と彼女が一番乗り気の可能性がある」


「そんなバカな。あんな大人しい子が……」


「ヘレン婦人、その娘、もしかしたら第三者かもしれない。誰が入れたかまだ不明だ。誰も目撃者が居なかった。もう一度入れてくれないかと楽しみに待っていたが流石に今日はやらなかったね」


 あれだけの警備の中でやるほどヘレン婦人は馬鹿じゃないだろう。

 ヘレン婦人もアレックス王子の挑戦的な態度に臆することないあらから様な態度は凄いとしか言いようがない。


 そう思うとだんだんヘレン婦人ではないような気がしてきた。


「本当にヘレン婦人が入れたのかしら?」


 アレックス王子は肩をすくめた。


「確かにあまりにも自分が犯人ですというような状況を作っているよね。それも含めて調査中だよ。僕としてはヘレン婦人であってほしいけれど。早くこの世界からご退場願いたいね」


 そう言いつつアレックス王子は楽しそうに微笑んでいた。

 


 

 

 

 

 


 

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