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4 アレックス王子と私

 兄の予想通りアレックス王子は翌日私の部屋にやって来た。

 

「仕事が立て込んでいてね。ごめんね」


 微笑んでいるアレックス王子は本当に惚れ薬を飲んだ人なのか怪しいほど普通だ。

 優雅に座っている彼にお茶を出すと驚いたように私を見た。


「レティが淹れてくれたお茶が飲めるなんて幸せだな」


「そんな大げさな」


 そう言いつつもアレックス王子にお茶を淹れたことは無かったことを思い出す。

 アレックス王子は嬉しそうにお茶を飲み感動したように何度も嬉しいなと言っている。

 これが惚れ薬の影響なのだろうか。

 アレックス王子はひたすら褒めちぎって私のお茶を堪能した後に口を開いた。


「侍女を付けたらいいのに。どうして拒否するんだい?」


 何度もアレックス王子から侍女を付けようかという打診はあった。

 わざわざ私の為に侍女を派遣してもらうのも悪いのでお断りをしているのだ。


「1人で出来るし。何かあればその辺の方に聞けば解決するもの。それにほぼ部屋に居るし」


 兄から命を狙われているかもしれないと聞いたら、ますます部屋に閉じこもる生活をしている。

 大雪で外に出る気もしないので、読書か編み物をして過ごしている。

 嫁いだ先でも同じ生活をしていたから苦ではないのだ。


「それならいいのだけれど、もし不都合があっあら何でも言ってくれ」


「ありがとう。それよりお兄様に聞いたけれど、誕生日会中に薬を盛られたんですって?大変だったわね」


「そうだね。そのおかげで愛しいレティを迎えに行けたから良かったよ」


 嬉しそうに言うアレックス王子に私は頷いた。


「そうね。ただ、犯人の目星はついているの?私も危ないのかしら」


「愛しいレティの事は僕が命がけで守るから大丈夫だよ。犯人は……そうだね。怪しいと思う人は居る」


 含みのあるいい方をするアレックス王子に私は詰め寄った。

 金色の不思議な色を宿した瞳と目が合う。


「誰なの?」


「これは他言無用だよ」


 アレックス王子はそう言うと私を手招きした。

 誰にも聞かれたくないのだろうと、王子の隣に座るとグイっと肩を引き寄せられる。

 驚いている暇もないぐらい密着した状態で王子が耳元で囁いた。


「僕の予想ではヘレン婦人が怪しいと思っている」

「えっ!」


 驚いている私の頬にアレックス王子が音を立ててキスをしてきた。


「ひぃぃぃ。えっ?えっ?」


 頬にキスをされて混乱している私を見て声を上げてアレックス王子は笑い出した。


「あははっ、ごめん。あまりにもレティが可愛いからつい頬を食べてしまったよ」


「えぇぇ……」

 

 これが惚れ薬の影響なのだろうか。

 そんな薬は存在していないと思っていたがアレックス王子の様子が可笑しいのは薬の影響なのかもしれない。


 きっとそうだと自分に言い聞かせて、心を落ち着かせる。


「そ、それで、ヘレン婦人って確かマーガリィー王妃と親しかったような気がするんだけれど」


 そう言いながら、記憶の中のヘレン婦人を思い浮かべた。

 パーティーの時しか見たことは無いが、地味な普通のご婦人という印象だ。

 派手なドレスは着ないで、お化粧も地味。

 黒い髪の毛を綺麗に結って、娘と共に出席していたような気がする。


 噂ではマーガリィ王妃が親友と呼ぶほど心を許している仲だと言われている。


「そうだね。マーガリィー王妃と仲が良くて毎日のようにお茶を飲みに城へ来ているね」


 口角を上げて言うアレックス王子は何を考えているかさっぱりわからない。


「マーガリィ王妃は疑わないの?」


 私が聞くとアレックス王子はますます微笑んだ。


「王妃は事件に関わっていないよ。なぜなら、僕が死んでも彼女の息子は王になることはできないからね。僕を狙う意味が無い」


「なぜ?」


 自信を持って言い切るアレックス王子に私は首を傾げた。


「それは、可愛いレティが僕の妻になったら解る事だよ」


 揶揄うように言われて私は頬を膨らます。


「教えてくれてもいいじゃない」


「怒っている顔も可愛いね。小さなレティを思い出すよ」


 ウィンクでもしそうな勢いのアレックス王子から距離を取ると王子は軽く笑った。


「本当に、僕の妻になれば解るよ。ヘレン婦人は娘を僕と結婚させたいんだよ」

 

 ヘレン婦人の娘はたしか、小柄な黒い髪の毛をした可愛らしい女性だ。

 地味な母親とは違い、長いまつ毛に大きな瞳をした美人というよりは可愛いというタイプだ。

 巷の噂では、ヘレン婦人の娘をマーガリィ王妃が大変気に入ってアレックス王子の嫁にと言っているらしいと聞いたことがある。

 アレックス王子と婚約をしたという噂も聞いたことがある。

 

 私が結婚をする前後の話だ。

 噂と言っても煙の立たないところにはなにやらで、てっきり私はアレックス王子とヘレン婦人娘は結婚するものだと思っていた。

 アレックス王子と結婚できないなら、だれでも結婚してやるとやけになってバカ王子の元に行った当時の私の心境を思い出して苦い気持ちになる。

 

「アレックス王子はヘレン婦人のお嬢様と婚約していたのではないの?」


 記憶を辿っている私にアレックス王子は珍しく嫌そうな顔をした。

 基本いつも微笑んでいる人が珍しい表情だ。


「まさか。どこからそんな噂が出たのか。出所はヘレン婦人だろうね」

 

「私が最後に出たパーティーであの子は嬉しそうにもうすぐ婚約するって言っていたような……。あの子なんて言う名前だったかしら……」


 私の結婚話が出ていた時期だったので他人の事など気にしている余裕はなかったために記憶が曖昧だ。

 一生懸命思い出そうとしている私にアレックス王子は嫌な顔をしたまま教えてくれる。


「ルビーって言う名前だね」


「そうだったわ!ルビーちゃんね。あの時はまだ彼女16歳ぐらいだったわよね。今は18歳ね」


 結婚してもおかしくない年齢だから何も疑問に思わなかったが、ヘレン婦人が勝手に言いふらしているだけなのか。


「えっ?ルビーちゃんに惚れるように薬を盛られたという事?」

 

「まだ分からないけれど。一応気を付けてくれ、彼女たちが近づいてきたら物を食べない飲まないで過ごすのがいいと思う」


 アレックス王子の注意に私はコクコクと頷いた。

 

 ヘレン婦人が娘を王妃にさせたいという野望から惚れ薬を盛ったとうなら理解できる。

 それでも、どうやって薬を入れたのだろうか。

 アレックス王子はいつも穏やかな雰囲気を出しているが、隙が無い人だ。

 考え込んでいる私にアレックス王子が手を差し伸べた。


「いいものを見せてあげようと思っているんだった。すっかり忘れていたよ」


「いいもの?」


 アレックス王子がいいものを見せてあげるというときは大体綺麗なお菓子か、子供用のビーズでできたアクセサリーだったことを思い出す。

 大人になった今ならお菓子だろうかと彼の周辺に視線を向けるがそれらしいものは無い。


「お菓子じゃないよ。とっておきのいいものだ」


 私が考えていることが分かったのかアレックス王子はクスクスと笑って私の手を取ると立ち上がった。


「ただし、今から見せるものは他言無用だよ。ギルバートにもだ」

 

 ギルバードとは私の兄の名前だ。

 兄にいちいち報告するほど仲は良くないが、頷いておく。


「わかったわ。きっと素晴らしいものなのでしょうね」


 暇をしていた私が頷くとアレックス王子は美しく微笑んだ。



 

 

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