22 エドモンド様
「エドモンド様だわ」
城の廊下を歩いていると裏庭で隠れるように歩かされているエドモンド様の姿が見えた。
数人の騎士に囲まれて連行されているエドモンド様は俯いたままゆっくりと歩いている。
両手は前で紐で結ばれていて腰にも逃げ出さないようにと紐が付けられている。
多分同僚だった騎士達だろう。
どの人の顔も暗く悲しそうだ。
美しかったエドモンド様は連行される姿も美しい。
立ち止まって見ていると後ろからアレックス王子が声を掛けてきた。
「取り調べが終わって僻地へと送られる。しばらくしたら僻地で勤務になる」
悲しそうな瞳をしたアレックス王子も廊下の窓から連行されていくエドモンド様を見つめいる。
「そうなのね」
これで彼を見るのは最後になるのかと少し寂しい気持ちで私もエドモンド様を見つめた。
「少し寂しいけれど、犯した罪は償わないといけないからね」
「そうね」
俯いたままのエドモンド様が不意に上を見上げた。
私たちの視線に気づいたのだろう、アレックス王子の姿を見て驚いたように目を見開くと悲しそうに少し微笑んで頭を下げた。
アレックス王子も悲しそうに頷くと安心したようにエドモンド様は歩き出す。
歩き出したエドモンド様の後ろに侍女服を着た女性の姿が見えて私は瞬きをしてもう一度目を凝らした。
間違いない、エドモンド様の後ろに女性がしっかり付いて歩いている。
「ね、ねぇ!エドモンド様の後ろに侍女が歩いているんだけれど。お世話係か何かかしら?」
先ほどまで見えなかった女性が急に見えたが、きっとエドモンド様を見ていたせいで気付かなかったのだろうと思うが、あの女性を私は見たことがあった。
幼い頃美しいエドモンド様の後ろに立っていた女性だ。
まさかと思いつつ震えながら聞くと、アレックス王子は意味が解らないといように首を傾げる。
「お世話係なんて一緒行くはずがないだろう? 侍女なんていないけれど」
何を言っているんだというようなアレックス王子に私はひきつった顔を向ける。
「見えるのよ。エドモンド様の後ろを嬉しそうに歩く侍女の姿が……」
震えながら言う私にアレックス王子は眉をひそめた。
「なるほど。僕はレティを愛しているから信じるよ。きっと、昔見た幽霊というやつはエドモンドの事を愛してやまない殺された侍女だったのだろうね」
「……」
恐ろしい光景に私は口を噤んで頷いた。
アレックス王子は馬車に乗り込んでいるエドモンド様を見つめながら呟いた。
「殺されても愛する人と一緒に居たい……か。どこまでも恐ろしい侍女だね。エドモンドもそんな女性に付きまとわれて可哀想だね」
死んでも愛する人と一緒に居たいという想いが強い侍女に恐怖を感じて私は身震いをする。
アレックス王子はそっと私を後ろから抱きしめた。
「僕ももしレティより早く死んだら、幽霊になって付きまとう自信はあるからあの女性の気持ちはわかるかな」
「やめてよ!死んだら私に付きまとわないで!私、幽霊が苦手なの!」
震えながら言う私にアレックス王子が微かに微笑んだ。
「幽霊の僕を愛してくれないとは残念だな」
「それはそうよ!本当に幽霊は恐ろしいんだから!」
馬車に乗り込んだエドモンド様の後を追うように女性も一緒に乗り込んだのを見て私は首を振った。
エドモンド様はこれからどうなるのだろうかと心配をしているとアレックス王子がギュッと抱きしめてくる。
「他の男の事を考えるのは面白くないね」
「だって、幽霊と思われる女性が一緒の馬車に乗ったのを見たの」
「……レティ、もうこのことは忘れよう」
アレックス王子言われて私は少し考えて頷いた。
「そうね」
エドモンド様を乗せた馬車がゆっくりと走り出し、城の門を出て行くまで私たちはじっと見つめていた。