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2 故郷へ

 大きな馬車の中で私はそっと前に座るアレックス王子を見つめた。

 離婚したという書類の束を眺めていたアレックス王子は私の視線を感じたのか金色の瞳を向けてくる。


「ちゃんとした書類だったよ。レティは間違いなく離婚できている。良かったね」


「はぁ」


 アレックス王子と会うのは2年ぶりだが、いまいち距離感がつかめなくて戸惑う。

 私が生まれてから6歳になるまでは年中アレックス王子の元に行って遊んでもらっていた記憶は微かにある。

 私が6歳の時アレックス王子は16歳。

 今思えばよくそんな子供と遊んでくれたと思うが、彼はすごく優しかった。

 私が6歳になった頃、アレックス王子の母カミラ王妃が病死した。

 

 私の母と仲が良かったため城に行く用事もなくなった私はアレックス王子と会うことは無くなった。

 全くなくなったわけではないが、行事以外で会うことが無くなったのだ。

 彼は次期王になるため勉学が忙しくなり、ますます会うことは無かった。

 私が18歳になる頃アレックス王子の父である王が第二夫人を迎えた。


 ますます彼は忙しそうにしているという噂を聞いていたが、私が20歳になるとバカ王子が私を嫁に迎えたいと無理やり連れて行ったのだ。


 アレックス王子はかなり反対をしてくれたが、国同士の問題に発展しそうになり私は諦めて嫁に行ったのだ。

 愛されて嫁に行ったわけではないが、まさか存在まで無視されるようになるとは思わなかった。

 唯一の救いは白い結婚だったことだ。


 色々考えていると、視線を感じて前を見ると金色の瞳が私をじっと見つめていた。

 

「あの……、色々理解できないことが多くて。本当に、アレックス王子は私に会いに来ただけですか?」


 オズオズと聞くとアレックス王子はクスリと笑う。


「他人行儀だね」


「そういわれても……。幼い子ではありませんし」


 小さい頃と同じように接することはできない。

 王子であり次期王の人に気楽に話せるわけがない。


「何も変わっていないよ。レティと僕は何も変わっていないから、昔みたいに話してよ」

 

 懇願されるように言われるとそれでもいいのかなと思ってくる。

 確かに幼い頃は気軽に話していた。

 今更他人行儀に話すのもおかしな話なのかもしれない。

 

 何も変わっていないと言われると確かにそうかもと頷いてアレックス王子を見上げた。


「ではお言葉に甘えて。私が離婚されることを本当に知らなかったの?」


 昔と同じように話しかけるとアレックス王子は嬉しそうに微笑んで頷いた。


「レティが昔と同じように話してくれて嬉しいよ。先ほども言ったが、本当に偶然なんだ。僕がうっかり惚れ薬を飲んでしまったから、どうしてもレティに会いたくなってね」


「それ!惚れ薬ってなに?そんなものが存在していたなんて私は知らなかったわ」


「そうだろうね。僕も初耳だよ」

 

 あっさり言う王子に私は首を傾げる。

 

「どうして飲んだって解ったの?」


「愛するレティに会いたくなったからだよ」


 普段と変わらないアレックス王子に本当に惚れ薬を飲んだのか怪しい。

 そもそも愛するレティという言葉を今まで言われたことは無い。

 これが惚れ薬の効果なのだろうか。


「そもそも惚れ薬ってそういうものだったかしら?」


  怪しいという目で見る私にアレックス王子はニッコリしている。


  私が思う惚れ薬は飲んだ直後に見た人物を好きになるというもだと思っていた。

 それが遠く離れた私に会いたくなるなんてことがあるかしら。


「本当に飲んだの?勘違いではなくて?」


 何度も確認する私にアレックス王子は腕を組んで思案している?


「どうして僕が惚れ薬を飲んでいないと思うんだ?」


「それは……いつもとアレックス様が変わらない様子だから……」


 そう言いつつ愛するレティという言葉だけは可笑しいわよとは言えなかった。


「そういうことか。確かに飲んだ後もみんなが僕のことを本当に飲んだのかと何度か聞かれたな」

 

 アレックス王子に異物を飲ませることができるのも恐ろしいがバカ王子のためについた嘘でもなさそうだ。


「一体誰がアレックス様に惚れ薬なんてのませたの?」


 私が聞くとアレックス王子は首を傾げ口角を上げた。


「さぁ?誰だろうね」


 知らない振りをしているがこれは絶対犯人を知っているような顔だ。


 口は笑っているが目は鋭い。

 

 そんな話をしていると馬車が停まった。

 窓から外を見ると町に着いたようだ。


「僕らの城までは遠いからね。ゆっくり旅行でもしながら帰ろうよ」


「えぇぇ?私は早く帰りたいわ。ここに居たらいつバカ王子が仕返しにやってくるかわからないもの」


 あの王子は馬鹿にされたと後から怒って怒鳴りに来るかもしれない。

 まだ彼の国に居るうちは気が抜けないと私が言うとアレックス王子は声を上げて笑った。


「バカ王子か、それはいいあだ名だね」

 

 そう言うと優雅に馬車から降りて私に手を差し伸べた。

 仕方なく彼にエスコートされながら私も馬車から降りる。

 馬車は大きなホテルに横付けされており、入口にはアレックス王子を出迎えている従業員たちが並んで頭を下げている。


「レティがそう言うだろうと思って最速で帰る予定だよ。旅行は結婚してからゆっくりしようか」


「はぁ」


 結婚してからとかさらっと言ったけれど、これが惚れ薬の影響なのかしら?


 幼い頃は僕のレティなんて言われていたけれど、それは私が小さかったからで大人になってからはごく普通の接し方だった。

 大人になってから親しく付き合っていたわけでもない私に薬を飲んだからと言って愛するレティという言葉を真に受けることはできない。


 何かが可笑しいと思いつつも馬車から降りてアレックス王子にエスコートされながらホテルの中へと入る。


「流石に夜の移動は危ないからね。今日はここで休んで明日城に着く予定だよ」


 出来れば夜通し馬車を走らせて一刻も早く実家に帰りたいが、危険だと言われたら仕方がない。

 アレックス王子が居ればあのバカ王子も手出しは出来ないと思いたい。


 ホテルの人に丁重なおもてなしを受けながら最上階へと案内されて一室へ通される。

 王室御用達のような大きなリビングルームに各部屋があるような豪華な一室だ。

 

「レティは好きな部屋を使っていいよ。連れてきている警護の女騎士は侍女でもあるから何か不都合があれば言ってくれていいから」


 アレックス王子はソファーに座ったので私も机を挟んで彼の前に座る。


「僕の横に座ってくれてもいいんだよ」


「あはは、それは流石に」


 冗談なのか本気なんだかわからないアレックス王子の言葉に私は愛想笑いをうかべながら断った。

 私達が座るとすかさずお茶が出される。


 嫁に行ってから2年間は存在自体無視されていた生活を送っていたからきめ細やかなサービスに涙が出そうになる。


「2年間よく耐えたね。迎えに行かれなくてごめんね」


 アレックス王子がじっと私の目を見て言ってくる。

 別に彼のせいではないので私は首を振った。


「バカ王子がなぜ私と結婚したのかずっと疑問だったのだけれど、今日判明したのよ。どっかの誰かが、私を手に入れれば幸せになれるだの国が豊かになるって言っていたらしいのよ!そのせいだったのね」


 お茶を飲みながら怒りをぶつけると微笑んで聞いていたアレックス王子の顔が引きっている。

 彼の顔をじっと見つめているとアレックス王子は引きつった顔のまま手を口元に当てた。


「まさか、僕が昔言ってたことをあのバカ王子が真に受けたのか……」


 小さく呟く声に私は眉をひそめた。


「どういうこと?」


「かなり昔に僕が言ったんだ。小さなレティを手に入れればますます国が豊かになるかもしれないってね」


「はぁぁ?なんでそんなことを」


「本気でそう思っているからだよ」


 真面目な顔をして言うアレックス王子に私はますます怪しい目を向ける。


「それって相当昔よね?小さなレティというぐらいだから。惚れ薬の影響ではないってことよね?」


「そうだね。僕がレティを愛しているのはずっと昔からで、惚れ薬の影響でレティへの愛が我慢できなくなったんだよ」


 そう言ってアレックス王子は美しく微笑んだ。

 彼の微笑みを見ると私は心がいっぱいになって昔から何も言えなくなるのだ。

 

 昔から愛しているってどういうことだろうか。

 

 そこに突っ込むのは今怖いのでやめておこうと本能的に察知して頷いておくだけにした。

 幼い頃は可愛がってくれていたが、妹と兄という関係だったと私は思っている。

 まさか16歳だったアレックス王子が6歳の私を愛していたわけがないからだ。

 もちろん、幼い私はアレックス王子と結婚したいと思っていたし、大人になってからも実は思っていたが彼は遠い存在の人だ。出来るわけが無いと思っていた。

 

 アレックス王子からしてみたら、妹 それも年が離れて入る存在を可愛がっていたにすぎない。

 それを愛とは言わないだろう。

 

 惚れ薬の影響で妹のような存在だった私を愛と勘違いしているとか?

 そもそも本当に惚れ薬など存在しているのだろうか。


 私の顔をじっと見ながら優雅にお茶を飲んでいるアレックス王子を盗み見る。

 変わった様子はないが、とても惚れ薬を飲んだ人とは思えない。


 帰ったらきっと実家に戻っていつも通りの生活に戻るのだわ。

 

 大人しく私もお茶を一口飲んだ。


 

 

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