19 宝石箱の中には
アレックス王子に話を付けてなんとか実家に戻ることが出来た。
久しぶりの実家は2年前と全く変わりが無く、母は私が帰ってきたこととアレックス当時と結婚が決まったことに泣いて喜んだ。
なんとか家族からの熱い再会を終えて自室で一息つく。
「やっと部屋に帰ってこれた」
急いで、アクセサリーが入っている宝石箱を開けるもやはりアレックス王子から貰った指輪は入っていなかった。
やっぱり家の裏の廃墟に埋めたのだろう。
エドモンド様の青い瞳を見て思い出した光景をもう一度噛みしめる。
穴を掘って埋めた缶をやっぱりあそこでは見つかってしまうと掘り起こしに行ったことも思い出した。
その時に夕立が来て、雨に濡れたエドモンド様を見つけたのだ。
雷が鳴る中で雨に濡れた騎士服を着たエドモンド様は絵画のように美しくてじっと見つめていると、彼は私に気づいて青い綺麗な瞳を私に向けてきた。
そして言ったのだ、「見ていたのか?」 と。
何をとは聞かなかった。
理由が分からなかったからだ。
わからないから私は首を振った。
ただ雨に濡れたエドモンド様が美しかったことを覚えている。
そして、私は余計なことを今思い出した。
彼の後ろに黒い髪の毛の女が立っていたのだ。
無表情な顔をしてじっとエドモンド様を見つめている女性は間違いなくこの世のものではないと幼い私でも認識できた。
そう、あれは幽霊に違いない。
顔を引きつらせて怖がる私をエドモンド様は雨の中家まで送ってくれたのだ。
「雷が怖いの」
そう言って怖がる私を優しく慰めてくれたことを覚えている。
本当は、エドモンド様を見つめている女が怖かっただけなのだ。
そして私は幽霊が怖いからあの場所の事を忘れて二度と行かなくなった。
しかし今、アレックス王子から貰った指輪があの廃墟にあるかもしれないという事がわかった。
私は目を瞑り息を大きく吐いた。
「いやだなぁー。幽霊が居るかもしれないじゃないの。行きたくないなぁ」
呟きながら窓の外見る。
最近は晴れが続き温暖な気候が続いていたおかげかだいぶ雪も解けてきている。
我が家か獣道を10分ほど歩けば廃墟にたどり着くのだが行きたくない気持ちでいっぱいだ。
しかし、行かないといけない。
あの指輪は、カミラ王妃が気に入っていたと言っていた。
無くしたなどと言えるはずもない。
私はため息をついて時計を見た。
昼を少し過ぎたあたりで夕方までまだ時間がある。
「仕方ない、行くしかないか……」
幽霊よりもアレックス王子の指輪が気がかりだ。
重い気持ちのまま自室を出てリビングルームへと向かう。
「お母さま、私ちょっと散歩してくるわ」
「久しぶりに帰って来たからゆっくり家の周りをまわってくるといいわよ。まだ雪が残っているから気を付けてね」
「はい」
何の疑問持たない母に頷いてコートを羽織って外に出る。
庭へと周り穴が掘れそうな小さなシャベルを拝借して裏へと回り込んだ。
道の端に雪が残っているが歩く道は確保されている。
エドモンド様の領地で雪には嫌な思い出がある。
これぐらいの雪なら一人で廃墟までたどり着けそうだ。
家の裏に広がる雑木林を歩く。
廃墟までの近道だ。
木々を抜けるとすぐに教会の建物が見えた。
6歳の時以来だが、様子は変わっていない。
白い5階建ての建物は老朽化しており、壁にひびが入っているのが見えた。
窓は割れていて割れた破片が地面に落ちている。
幽霊を見た事があるからだろうか、薄暗く気味が悪い建物に恐る恐る近づく。
「幽霊は居ないわよね……」
呟きながら建物を見上げた。
小さい頃も大きな建物だと思ったが今見ても5階建ての建物は大きく見える。
壊れた窓から風が吹き込み建物の中から甲高い音が聞こえる。
ヒューヒュー鳴っている建物を見上げて身震いをして横をゆっくりと歩いた。
「大丈夫、さすがの私も建物の中には埋めなかった」
教会の中に指輪を隠していたら一人では取りに来られなかった。
大きな木の根元に埋めたのだ。
横を通り抜けて昔の記憶のまま進む。
数十年ぶりでも覚えいてるもので、建物の横を通り抜けて正面へと向かうと大きな木が目に入った。
「あの木だわ!」
ひときわ大きな木に走ってく。
昔と変わらず大きな幹をした木にたどり着いてホッと息を吐いた。
大きな幹に手を置いて上を見上げた。
冬でも変わらず枝についた葉が木陰を作っている。
「良かった!ちゃんとあった。確かこの下に埋めたのよ」
そしてこの場所で幽霊を見たのだ。
辺りを見回して幽霊らしきものが居ないのを確認する。
人の気配も、人影も見えない。
やはりエドモンド様の後ろに見えた女性は気のせいだったのかもしれない。
怖いので独り言を言いながらシャベルを手にしゃがみこんだ。
「ここに埋めたのよね!」
怖さを吹き飛ばすように独り言を言いながら早く掘りだそうと土にシャベルを突っ込んだ。
残っていた雪をどかし、土をほじくっていく。
小さな子供が掘った穴だからすぐに缶が出てくるはずだと思ったが出てこなかった。
「おかしわねぇ。場所が違うのかしら」
場所を変えようと諦めかけた時にシャベルの先に固いものが当たった。
カツンという音にシャベルを投げ出して両手をで掘り進める。
「やっぱりここだったのね」
喜びながら両手で土をどかしていくと握りこぶしぐらいの石が出てきた。
ただの大きな石だったかとガッカリしたが、キラリと太陽に当たると輝いた。
「えっ?」
綺麗に土をどけると透きとおった赤い大きな石だ。
一目見ただけでただの石ではなく宝石だということが解る。
太陽に当たると真ん中に星の光が浮かび上がる。
もしやと思ったが、これはアレックス王子が言っていた行方不明になっていた暁の星ではないだろうか。
大きさといい、光に当たると星が出る仕様といい、色も赤いしとても綺麗だ。
国宝と言わる高い宝石としか思えないほど光輝いている赤い石を手に私は一度目を瞑った。
「どうしてこれがここにあるの?アレックス王子の指輪はどこにあるの?」
小さく呟いたが誰も答えてくれる者は居ない。
私が今見つけたいのはこれではない。
もう一度深く埋めなおそうかと考えて、スコップを手に土を掘る。
またカツンと何かに当たり手で土を避けて行った。
白い大きな球体が埋まっている。
スコップと手を使って注意深く掘り進め、私は手を止めた。
土にまみれているが確実に石ではない。
「これってまさか、人の頭蓋骨じゃないでしょうね……」
まさかねという思いと、確実に人間の骨だと認識する。
人の骨など見た事ないが、本で見た事がある。
きっと人の頭はこれぐらいの大きさだろう。
近くに髪の毛らしきもの見えて恐怖で全身が震えた。
すべて土から出したわけではないが、人の骨だと認識すると驚いてその場に尻餅をついた。
「ど、どうしよう」
震えながら後退りをすると後ろから首を絞められた。
ギュッと大きな手が私の首を絞めていく。
「グッ……」
息が詰まる感覚になんとか視線を向けると辛そうな顔をしたエドモンド様の顔が見えた。
なぜ彼が私の首を絞めているの!
エドモンド様は私と目が合うと辛そうに言う。
「殺したくないんだ。でも、それを見つけられた仕方ない」
「……グッ」
宝石を盗んだの?そう聞きたいのに声が出ない。
エドモンド様は私の目を見て首を振る。
「俺は盗んでいない。ただ、俺に付きまとっていた女が勝手に盗んだんだ。俺の気を引きたくて……。盗んだものを返す返さないと揉めていると事故で死んでしまったんだ」
悲痛な顔をして説明をするが、頭がボーっとしてきて思考力が無くなりつつある私は首を振った。
事故なら正直に言えばいいじゃない。
「姉の結婚が決まっていた!俺だって騎士として駆け出しだったんだ!そんな女の為に俺の姉の人生を終わりにしたくない!だから見つかると困るんだ!俺の家から殺人者を出すことなんて出来ないんだ」
だからって私を殺さないで。
エドモンド様の綺麗な青い瞳からポロポロと涙が零れ落ちる。
悲痛な顔をして私の首を絞めている姿に私も辛い。
薄れる意識の中でエドモンド様の首を締め上げる手を何度も外そうとするが緩む気配が無い。
嫌だ、このまま私も死にたくない。
正直にアレックス王子に指輪を無くしたことを言えばよかった。
もう一度アレックス王子に会いたい。
エドモンド様の手に力が入る。
空気が吸えなくなり目が開けていられなくなる。
苦しい。
誰か助けて。