表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
17/22

17 マーガリィ王妃の誕生日パーティー 2

 驚いている私とは対照的にアレックス王子は楽しそうに微笑んでいる。

 バカ王子は私たちを見つけると指をさして大声を出した。


「お前ら!俺を陥れようとしたな!」


「はぁ?」


 怒っているようだが、突然現れて何を言っているのかさっぱり分からない。

 今にも剣を抜きそうな雰囲気にのバカ王子にアレックス王子は穏やかに微笑んだまま警護していた騎士達に目配せをした。


「侵入者だ。確保しろ」


 アレックス王子の命令に騎士達が一斉に動きスラン王子を取り囲んだ。

 躊躇することなく騎士達はスラン王子の両手を掴むと床の上に倒す。

 

「何をするんだ!俺はヴェルダン国の王子だぞ!」


 叫んでいるスラン王子をおかまいなしに騎士達は拘束する。

 床の上にうつ伏せにされ両手を後ろ手に捻りあげられて、スラン王子は悲鳴を上げた。


「痛い!お前ら、覚えていろよ!俺は王子なんだぞぉ!」

 

 情けないバカ王子の姿にパーティーの参加者たちも呆れて眉をひそめている。

 一体彼は何をしたかったのだろうか。


「王子職は解かれたと聞いているが」


「そんなことが可能なの?」

 

 呆れて言うアレックス王子の言葉に誰よりも私が驚いて声を上げてしまう。

 あんなに偉そうにしていたのに王子で無くなったらこの人はどうするのだろう。


「先ほど早馬でスラン殿の国から報告があった。スラン王子は女に溺れ金を湯水のように使い怠慢な生活を何度注意しても聞き入れないために職を解いたとね。今後は、位を持たないスランとして生きて行けるようにサポートはしていくつもりだとスラン殿の父と弟殿は書面に書いてあったが、逃げ出してきたのか?」


 面白そうに言うアレックス王子にスランは視線を泳がせた。

 

「逃げていない。だいたいなぁ、お前が来てから俺の人生の歯車が狂ったんだ」


 スランは私を不満そうに見る。


「私のせいだっていうの?失礼ね!あなたと会話したのなんて片手で数えるほどだったのに!」


 いつも無表情だった私が言い返したことに驚いてぽかんと口を開けて見ている。

 2年間はバカ王子に関わりたくないから感情を殺してきたが、今は何も気にしない。

 王子として権力をかざせないのならいくらでも文句が言える。


「仕事をしない自分のせいだろう?王子で無くなった途端に女性達にも逃げられたそうだね」


 ニコニコしているアレックス王子にスランは不貞腐れている。


「俺がこんな目に合っているのにお前たちは幸せそうだからぶち壊しに来たのにどうしてこんな目に合うんだ!」


「それは仕方ない。この国に呼ばれていない侵入者であり、剣を差していたら敵とみなされても仕方ない。ちなみに、スラン殿が離婚してくれたおかげで僕はずっと大好きだった人と結婚できるんだありがとう」


 アレックス王子がそう言うと私の頬にキスをする。


「ひぃぃ、皆が見ている前で!」


 パーティーに集まっている人の注目を集めている中で恥ずかしい事は止めてほしい。

 慌てて離れたので頬にキスされたが危うく唇にされるところだった。

 公衆の面前でそれは嫌だ。


 慌ててアレックス王子の手から逃れると広間の隅で空気と化している兄の元へと向かった。

 助けを求めに来た私を嫌そうな顔をして向うへ戻れと顎で指示してくるが、スランとアレックス王子の間に挟まれたくないのでご遠慮する。


「お兄様、かくまって」


「嫌だよ。俺は巻き込まれたくない」


 小さく言い合っている私たちの傍にルビーちゃんとヘレン婦人が立っていてギョッとして慌てて兄を盾にして後ろに隠れた。


 兄もヘレン婦人の存在に気づいてそれとなく私を隠してくれる。

 ヘレン婦人の後ろにはマーガリィ王妃も心配そうにアレックス王子とスランを見つめているのが見えた。

 マーガリィ王妃の護衛騎士も周りを囲むように立っているのでヘレン婦人がご乱心をしても大丈夫だろう。


 ヘレン婦人は、心配そうな顔をしているが目は怒りに燃えているうえ歯を食いしばっているところを見ると私とアレックス王子が上手く言っていて気に食わないというのが目に見えてわかった。

 今は私よりもスランとアレックス王子に気を取られているが、怒りは収まっていないようだ。


 恐ろしい顔をしているヘレン婦人から隠れるようにしてアレックス王子達を見る。

 

 騎士達によって地面に組み伏せられているスランは不満そうにアレックス王子を見上げている。


「全部お前らが仕組んだことだろう!あの女が居なくなった途端に俺は金も自由にならないし、部屋に閉じ込められて遊びにも行かれなかったんだぞ!」


「本当に君はバカなんだな。君の父上と弟君が嘆いておられたよ。そもそもが、僕の可愛いレティと結婚しようとしたことが間違いだったね。戦争をチラつかせて嫁に取った時から君の父君達は計画をしていた。結婚して丸くなればいいと思案していたようだが、馬鹿に拍車がかかっただけだった」


「どういうことだ。俺があの女と結婚したせいで王になれなかったという事だろう!すべてあの女のせいだ!」


 スランが言い切るとアレックス王子はため息をついた。


「バカと話していると疲れるな。レティが無言を貫いていたわけが解るね」


 私に視線を送ってくるので大きく頷いておいた。

 そうなのよ、馬鹿と話すと疲れるの。それ以上に話しても無駄だと思うだけなの。


「クソッ!今日、ここに来ればレティシアが泣いて謝ると言われてきたのにどういうことだ!」


「はぁ?」


 私だけでなく、アレックス王子とお兄様が同時に首を傾げた。


「どれだけバカなの?自分が不幸になりすぎて妄想が出てきたとか?」


 兄に囁くと、不可解だと私に首を振って来た。


 アレックス王子は首を傾げた後、妖美に微笑んだ。


「あぁ、そう言う事か。誰か手引きした人が居るな。今日行われるパーティーの情報を流した人がね……」


 そう言いながらゆっくりと会場を見回す。

 会場に居た人たちは自分が疑われないように口を噤み様子を伺っている。

 妙な緊張感の中でアレックス王子はヘレン婦人を見つけるとじっと見つめた。


「私が手引きしたというの?何の証拠があるっていうの?」


 怒りに燃えていたヘレン婦人が鬼のような顔をして声を張り上げた。

 普段大人しい印象のヘレン婦人の代り様に集まっていた人たちが驚いている。

 

 穏やかな印象のヘレン婦人がギロリとアレックス王子を睨みつける様は誰が見ても犯人ではないかと思わせる。

 疑心の視線を向けられているのに気づいたルビーちゃんが慌ててヘレン婦人の腕を引っ張った。


「お母さま、落ち着いてください」


「私が疑われているのよ!ルビーも何か言い返しなさい!」


 ヘレン婦人はオドオドしているルビーちゃんを怒鳴りつける。


 「私たちは何も悪いことはしていません。ただ、アレックス王子と仲良くしたかっただけです」


 母親に睨まれてルビーちゃんはか細い声でボソボソと言った。

 母親に言わされている為かヘレン婦人をチラチラと見て様子を伺っている。

 

 小さい声なのに会場全体にルビーちゃんの声は響いた。


 シンと静まり返った会場内にアレックス王子が苦笑する声が響く。


「残念ながら、証拠はあるんだよ」


 アレックス王子はそう言うと懐から一枚の紙を取り出した。

 目を凝らしてよく見ると短い手紙のようだ。


 紙を見たヘレン婦人は顔を引きつらせる。


「おや、ヘレン婦人顔色が悪いようですね。これは、スラン殿に届いた手紙だ。今日、パーティーが開かれる事が書いてある。レティシアは毎日スラン殿を想って泣いている、この日パーティーに乗じて会いに行けば喜び今までの無礼を謝るだろうと書いてあるねぇ」


「それが何だっていうの?私が書いたというの?」


 顔を引きつらせたままのヘレン婦人が言うとアレックス王子は面白そうに微笑んだ。


「書いたでしょう?もちろん証拠もありますよ。貴方が書いた手紙を届けた男を確保しております」


「その男が嘘をついているのよ!」


「残念ながらあなたの家から出てきたところから監視をしています。いい加減観念してほしいなぁ。スラン殿がこの現場に来たって何も変わらないのに。一体何がしたかったんですか?」


 ゆっくり話すアレックス王子とヘレン婦人を私を含めた会場に居る全員で固唾をのんで見つめる。


 ヘレン婦人はワナワナと震えながらアレックス王子を睨みつけた。



 


 


 

 

 

 

 

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ