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15 思い出せない記憶

 

 城に戻って来た私は指輪の事を思い出そうと頑張ったが全く思い出せなかった。


 アレックス王子は毎日私の部屋に尋ねてきてくれ、それは嬉しいのだが指輪のことを思うと素直になれない自分もいる。

 

 廊下を歩いていた兄を捕まえることに成功し、部屋に押し込んだ。


「何なんだ!お前は毎回!何度も言うが仕事中なんだ!」


 文句を言いながらも素直に部屋に入ってくれるのでありがたい。


「ちょっと聞きたいことがあって。私が小さい時に、大切にしていた指輪を覚えている?」


 小声で言う私に兄は嫌な顔をした。


「覚えているよ!アレックス王子に貰ったとか言って大切にしていたよな。しかも王妃の形見だとか言ってたな」


「どうして嫌そうな顔をするの?」


 どうもアレックス王子の事を毛嫌いしているような兄の様子に疑問に思う。

 兄は顔を顰めたままでいるので、私は手を叩いた。

 

「あ、解った!可愛い妹を取られて寂しかったとか嫉妬とか?」


「違う!アレックス王子が気持ち悪いからだ。16歳の大人が、6歳の子に指輪をプレゼントするとか気持ち悪いだろう?お前が生まれてからずっと”可愛いレティ”なんて言って可愛がっていたけれど、お前をいやらしい目で見ていてヤバいやつだなと思っていたんだ!」


 兄がアレックス王子をそんな目で見ていたなんて知らなかった。

 私を可愛がってくれたがいやらしい目でなんて見ていないと思う。

 いつも優しく接してくれていた。


「やだー、お兄様ってば。アレックス王子がそんなロリコンみたいな事するわけないじゃない」


「お前がいいなら結構だが、俺はずっとあの王子がヤバイと思っていた!なにが王妃の大切にしていた指輪だ。そんな大切な指輪を6歳の子供にプレゼントするなんて気持ち悪い。あいつは間違いなくロリコンだね」


「いや、そうとも言えないわよ。今の大きくなった私も可愛いって言ってくれるもの!」


「とうとうお前は陥落したのか。まぁ、お前がいいならいいけれど。もし子供が生まれて女の子なら気を付けろよ。あの王子は絶対気持ち悪いことをするから」


 諦めた様子の兄に今度は私が眉をひそめた。

 そこまで考えている兄こそ気持ちが悪いというものだ。


「そんなことより、指輪の事なんだけれど最近見たことある?私の部屋の宝石箱にあったかしら?」


「お前の部屋は入っていないから知らない。勝手に宝石箱を見るほど俺は無粋じゃない。たまに掃除はしているようだが……。まさか、お前指輪を無くしたのか?」


 青ざめた兄に私は引きつった笑みを浮かべて首を振った。


「無くすわけないじゃない。ただ、最近見ていないから、ちゃんと宝石箱に入っているかなぁと思って……」


「入っているか不明な時点で無くしているだろう!」


 青ざめている兄に私の顔もひきつってくる。


「昔過ぎて覚えていないだけよ。でも、宝石箱に入れたら無くすと思って他の所に移動させたような気がするの。誰にも見つけられない大切な所……どこだと思う?」


 兄は青ざめた顔で首を振った。


「知るか!自分で思い出せ!俺は知らないからな」


 そう言って部屋から出て行ってしまった。

 兄でさえ青ざめているという事はあの指輪はやっぱり王妃の形見だったのだ。

 困ったことになった。


 やっぱり宝石箱に戻したのかしら。

 全く思いせない。

 早く実家に帰りたいが、アレックス王子は惚れ薬を盛られて私を離さないという設定だしヘレン婦人がどういう行動に出るか分からないから城から出られないのだ。


 「早くヘレン婦人が尻尾出して現行犯逮捕されれば私も実家に帰れるのに」


 ボソリと呟いているとアレックス王子が部屋に入って来た。

 驚く私に、彼も驚いている。


「ノックはしたよ」


「ちょっと考え事していて、ごめんなさい」


 大切な指輪が行方不明だという状況を悟られないように私は笑みを作って彼を迎え入れる。

 エドモンド様の故郷から買ってきてからお茶の時間には必ず部屋に来てくれる。


 彼を受け入れてから私も長年の想いに蓋をしなくていいのだと気が楽になったが指輪の事が気がかりで正直それどころではない。


 大切な指輪を無くしていたと知ったらきっとガッカリするだろう。

 いや、それを通り越して私を責めるかもしれない。


「レティ、明後日のパーティーに来ていくドレスは本当に僕が用意しないでいいの?」


「大丈夫よ!ドレスは実家から送ってもらったから」


 忘れていたが明後日が、マーガリィ王妃の誕生日パーティーだ。

 王子の事を伝えつつ実家に連絡すると、母親から”私は信じていたわ”という喜びの手紙付きでドレスを用意してくれた。

 アクセサリーは後日兄が直接持ってきてくれる予定だ。

 

 アレックス王子と私が結婚することは母の長年の夢だったからさぞ喜んでいる事だろう。


「それならいいけれど。できれば僕が用意したドレスを着てほしかったな」


 残念そうなアレックス王子にお茶を淹れて私もソファーに座る。


「エドモンド様の故郷で買ってもらった宝石で十分だわ。そう言えばあの宝石は今どうなっているのかしら?」


 怒りに任せて投げつけた宝石をアレックス王子はそのまま持っていてまだ返してもらっていない。


「今、アクセサリーに加工中だからもう少し待ってくれ」


「ありがとう」


 指輪かしらと思いつつ、今指輪という言葉を言うと吐き気がしそうなのでお礼だけ言っておく。

 できれば指輪が見付かるまで、宝石のことは触れたくない。


「パーティ当日は僕から離れないでね。幽霊が君を害するかもしれないから」


 私の淹れたお茶を嬉しそうに飲んでいるアレックス王子に私は頷いた。


「解っているわ。変な薬を入れられるかもしれないから飲み物も飲まない様に気を付ける」


「それが賢明だね。偽物の魔女が作った惚れ薬には毒は無いと思うけれど、何が入っているか分からないからね。お腹でも壊したら大変だよ」

 

 私を落とした幽霊の事も忘れいたが事件は何も解決していない。

 

 「ねぇ、幽霊っていると思う?私が昔幽霊を見たというのはどこで見たのかしら?」


 幽霊という言葉に何か思いだしそうになる。

 今一番気になっている指輪と繋がっているような気がする。


「さぁ?僕は見たことが無いから何とも言えない。6歳だった君はかなり大泣きをしていたから実際見たのかもしれないね」


「どうして思い出せないのかしら」


 幽霊が怖いというのは確かにあのあたりからだ。


「よっぽど怖かったのかもね」


 一生懸命思い出そうとしている私にアレックス王子は肩をすくめる。


「ただ、君を階段から落とした幽霊は布を被った人間だと僕は思うよ」


「そう言われると私もそう思うわ。昔見た幽霊はもっとはっきりしていたような。だから私はよっぽど怖がっていたのよ」


 スッキリしない気分のままアレックス王子とのおやつ時間を終えて彼は仕事に戻って行った。


 どうにかして思い出したいが、何かが引っ掛かっている。


 これ以上考えても仕方ないと、私は茶器を片付け始めた。






 

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